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かしこい蛇

「なんて、マッドなお抱え技術顧問が言ってて? 王国は二年後にはちゅどーんなわけだ?」

「ちゅどーん」

「資金提供してるアイツらは焼畑農業ぐらいにしか思ってないと。人間どもが肥料になるよやったね!」

「やったね〜」

「やったねじゃないだろがぁ!」


紙のようにペラペラの返事しかくれないシザーは、ナザルお義兄様とのお話でだいぶお疲れらしい。だが、トラメルとしてはそうはいかなかった。 


「あのアホども、何やらかそうとしてんの。だいたいアレは実用不可能で、技術だけ分捕って縮小運用するはずじゃなかった!?」

「だからこその技術顧問ですよ。犯罪者として牢にぶち込まれてたアイツを、あの兄弟が秘密裏に逃がして、潤沢な資金と環境を与えた結果、旧時代の爆弾を再現できるようになったんです」

「……ばっかじゃないの」

「はい、バカですね。でも、それがレッサリアです」

「そりゃそうだ」


同じ国出身の者同士、納得できてしまうのが嫌だなと、トラメルは思った。常に強くてアホなのが、あの国の美点であり欠点である。


「だから二年にこだわってたんだ。爆弾が落ちるまでの二年、せめて一部の人でも“繁殖係”から解放されてほしいって。立派な良心じゃん」

「うまくすれば、任期中に国の外で兵隊として戦って、滅ぶのを逃れられるかもしれない、と、思っているんですけどね……こんなの、ただの偽善です」 


シザーは自嘲気味に笑い、トラメルは首を傾げた。少しでも、生き残る人を多くするのは、そんなに悪いことなんだろうか。


「それにしても、俺ごと王国を滅ぼすとか、アイツらほんとアホだな。アホすぎてなんかの賞獲れそうだわ」

「なにも、王子を殺そうとして爆弾落とすわけじゃないですよ。あー、でも、原因は王子にあるかも」

「えっ」


シザーが、こほんと咳払いして、


「アンタが、ダフネオドラ王子に匿われてたことが面白くないんですよ、あの人たち。というか、アンタが、ただでさえ、あの二人と反りが合わない王子と仲良くなっちゃったから、王国が一方的に恨まれてるわけです」

「あの二人、ダフィンと絶望的に相性悪そうだもんな〜」


しみじみとして呟く。 


悪辣さが滲み出た兄王子と弟王子には、光属性のダフィンは厄介な敵に違いない。


「だから、間違っても死のうとしないでくださいよ。アンタが死んだところで、どうせ王国には爆弾落ちるんですから」

「えっ、殺そうとしてたのにそんなこと言うの?」

「別に俺は、殺そうとしていたわけじゃありません」

「えっ」


本日二回目の、「えっ」である。人のことを背後から石で殴っておいて、殺そうとしてないとは。


「今のは、俺の良心です。忘れないでください、トラメル様。俺は、他の草がまともじゃないから、アンタの側についたんです。俺はまだ、レッサリアの草なんです」


机に突っ伏していたシザーは、顔を上げて、トラメルを見つめた。


「お人好しの吸血鬼とは、違うんですよ」

 





「ぶえっくしょい!!」

「くしゅんっ」

「はくしっ」


三者三様。なぜかくしゃみをする仲良し同盟の幹部たち。一際大きなくしゃみをした爆弾魔先輩は鼻を啜って、


「トラメル殺す」


腐った目つきでつぶやいた。とんだ流れ弾だと、ニノンは思った。 


今日も今日とて、ニノンの敬愛する主に向かって、無礼な口を利く吸血鬼がやってきた。そして、今日も今日とて、シアにアッパーを決められ、床に沈んでいるのである。


「ねえ、どうしてこの人たちは、一人ずつ来るのかしら?」

「さあ? そういうシステムなんじゃね?」


爆弾魔先輩が、渾身のやる気のなさで答える。当初の「シアが裏切るかも」というピリピリした雰囲気はどこへやら。勧誘しに来ても、勧誘する前にシアが沈めてしまうので、「あーまた来たよはいはい」的な感じになっているのである。


吸血鬼はシアがぶん殴り、人間が来たら人間がぶん殴る。そういう役割分担が出来上がると共に、お互いへの信頼も生まれていた。


ニノンは、ちらりとルーラーを見た。


ーーお前のやっていることは、裏目に出ているぞ。


まずは『仲良し同盟』幹部たちとシアを仲間割れさせるつもりで、刺客を仕向けているのだろうが……残念、シアが彼らの目の前で誘いを断ることによって、逆に信頼感を勝ち得ている。

トラメルという緩衝材がいなくなっている今、本来ニノン達に向けられる敵意を逸らしてくれてもいるのだ。寧ろ、良い方に働いているのである。


……だからこそ、ニノンはルーラーの表情が気に入らない。

真っ黒な瞳に何の感情も映さず、シアとニノンを見ている。そういえば、よく、目が合う……


「ニノン、ニノンったら」

「な、何でしょうかシア様」


いけないいけない。ルーラーに気を取られていて、愛しい主の声を聞き逃していた。愛しい主は、目を輝かせて、


「あのね、爆弾魔先輩が、爆弾コレクションを見せてくれるんだって! 行ってもいい!?」

「何を見せようとしてるんだ貴様は」


きっ、と睨むと、爆弾魔先輩が、「出たよ過保護」と馬鹿にしたような笑いを浮かべる。


「いーじゃねえか、世間知らずのお嬢さんに、爆弾の素晴らしさを教えてやりたいんだよ。何ならアンタも来るか?」

「……」


ニノンは悩んだ。すごく、とても悩んだ。悩んだ末に、首を横に振った。


「いや、いい。私は、そこのカレー好きとカレー談義でもしていようと思う」

「え、俺」


突然指名されたカレー好きの人は、びっくりしたように自分を指さした。


「良いじゃないか、少し付き合え」


それを見た爆弾魔先輩は、少しだけ眉を上げた。


「ふぅん、お堅い吸血鬼様も、ちょっとは柔らかくなってきたんだな。おしっ、行くぞシア! めくるめく爆弾の世界へ! えいえい?」

「おー!」


拳を突き上げ、きゃっきゃとはしゃぐシアを見ながら、ニノンは瞳を伏せた。


思えば。


シアは二年間、暗い地下牢に閉じ込められていた。二年間、自身の中の時を止めていた。


ーーゆっくり、動き出しているんだ。


その歯車を、ニノンが止めていい道理がない。


きっとこれが、吸血王様が、夢見た世界の一部なのだ。


「ところで吸血鬼って爆弾で死ぬのか? うっかり爆発したらごめんな?」

「うーん、わかんない! やってみたらわかるかも!」

「シア様ぁああ!?」




「うっ、ぐすっ、シア様の成長が著しく、私は幸せだぁ……」

「とても幸せそうには見えないけど? カレーの話していいか?」

「だが! シア様を思う気持ちは誰にも負けない!!」

「俺、からみ酒されるために呼ばれたの? カレー談義は?」


なぜか葡萄ジュースで酔ってしまったニノンに、カレー好きの人はため息を吐いた。


「存分に酔っておけよ……たぶん、明日が本命だから」






「それにしても、ここに来たのが王子で良かったです。ナザル様の相手が、王子で良かった」

「なんで?」

「王子はけっこうドライだから」

「失礼な! 俺はリリーと子作りしたいなぁって思ってたよ」

「ただの欲望じゃねえかこら。じゃなくて、シア姫だったら」


一拍置いて、シザーは言う。


「彼女だったら、情に脆そうだから、同じ手を使われたら、ころっと行きそうだなと思って」


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