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旧連合に、新しい国々を加えた新連合は、裏切り連合と言われている。何を裏切ったかといえば、それはもちろん、今現在吸血鬼に支配されている王国の民である。


この名前は、どっかのアホ二人がつけた。外聞が悪すぎる名前を変えたいと各国の首脳らは常々思っているが、どっかのアホ二人は、あの悪名高きレッサリア連合王国の王子様なので、なかなか変えられないでいる。


まあ、そんなことは置いておいて。


いかにもな円卓に、いかにもなお歴々が揃っている中で、ギリエフ・マルシェ外交官は、やっぱり矢面に立たされていた。


「マルシェ外交官、これはどういうことかね?」


裏切り連合は、内部はともかく、外面は人類の共同戦線である。つまり、『王国生贄にして、吸血鬼に媚びようぜ』をスローガンとした一団である。

それなのに、媚びるどころか、このたびパルマヤ共和国は、反乱を起こした王国民と外交をすることになったという。なので、今は各国首脳が共和国を袋叩きにしている最中。


ちなみに当然いるべきパルマヤ共和国の大統領は、当然この場から逃亡している。王国のことは、ギリエフ外交官に一任という名の丸投げをされていた。


だが、袋叩きにされていたとしても、それは予想の範疇。ギリエフ外交官は、けろりとしていた。それに気付いている者が、何人いるかどうか。


「こちらとしても、外交をする気はありませんでしたが……なにせ、ダフネオドラ王子が、吸血鬼と予想外の良好な関係を築いていたので」

「なに!? 彼は、生きているのかね!?」


一同驚愕。もちろんそれは嘘であるが、王国に行ったのはギリエフ外交官ただ一人なので、嘘だとバレようがない。


「ええ……吸血鬼の力を借りて、王国を見捨てた人間に、復讐をすると息巻いていました。各国の元首に、その……お父上と、同じ運命を辿らせてやる、と」

「あの王子ならやるな」

「やりますね」

「うわぁ……」


それを言ったのはトラメルで、しかも元首云々は取り消されたのだが、せっかく用意してくれた逃げ道である。ギリエフ外交官は、迷うことなくそれを伝えた。


改めて、外交官の保身ではなく、あくまでも連合に参加するお歴々の保身をさせるために脅してくれたトラメルに感謝する。

『自分の命が惜しいから外交を認めた』よりも、『あんたらが死ぬから外交を認めた』の方が、連合側にも恩を売れるからだ。ちなみにこの場にいないパルマヤ共和国の大統領は、命が惜しいのか、一発オーケーしてくれた。

図鑑の出版社にもわたりをつけてある。あそこは学者肌の人物が多いので、気難しいけど寛容なので助かった。


と、そんなことはともかく、ダフネオドラ王子生存の報に、裏切り連合は戦々恐々としていた。


「け、消される」

「終わった……」

「死ぬ」


各国の首脳とは思えない語彙力である。だが、そんなふうに権力者を語彙力ゼロにするのが、あの王子様なのだ。


敵うとすれば……。


「ふーん、音沙汰なかったけど生きてるんだ」

「残念ですね、まったく」


ギリエフ外交官以上にケロッとしている、レッサリアの年若い王子二人。お歴々が出席する会議に参加しては引っ掻き回してく問題児二人は、お歴々から目の敵にされている。 

 

だが、皆それを本人たちの前では言わない。なぜなら、レッサリアは軍事大国だからだ。そして、この二人は空気を読まない。今は吸血鬼を共通の敵として団結しようという時に、平気で他の国に戦争を仕掛けてこようとする。敵の敵は別に味方じゃなかった。


それなので、お歴々は苦虫を噛み潰したような顔で、奔放な二人の発言を許していたりする。 


「そんならウチも外交してやろうかな。ね、ギリエフ外交官、共和国としても、外交する国が増えた方が気が楽でしょ」

「いや、それは……」 


ギリエフ外交官は、そこで言い淀んでしまう。『お前ら嫌われてるから無理だよ』とは、言いにくい。共和国つぶれる。


と、


「あのクソ王子が外交してくれますかね」


助け舟を出してくれた弟王子には悪いが、お前もクソ王子だろ、と会議に出席している皆が思ったに違いない。実際、ギリエフ外交官は瞬時にそう思った。


「ウチ、めちゃくちゃ嫌われてるじゃないですか」


自覚あったのか。


「だから、外交じゃなくて戦争を仕掛けられると思うんですよね」  

「それはそうだな」


あっはっは、と笑う兄弟。笑えない。レッサリアが潰れてくれるなら良いが、たぶんレッサリアだけじゃ済まないだろう。周辺諸国あたりが巻き込まれて死ぬのが目に見える。この二人、性格悪いので。


「吸血鬼さえいなければなー、やり合えたんだけどなー」

「本当、悪運の強い野郎ですね。まるで兄さんみたいです」

「あん?」


そして、性格が悪い者同士、仲が悪い。他の国をいじめる時は仲が良いくせに、兄弟仲は最悪なのである。


「ちょうどいい、どっちが上か、はっきりさせておきたかったところだ」

「敗北の名をほしいままにしてる兄さんが、“上”? 寝言は寝て言え」


こんなふうに、会議を引っ掻き回す兄弟が喧嘩して、強制終了するのが常となっている。






勝手に自滅してくれて助かった。


ギリエフ外交官は安堵の息を吐いて、共和国へ帰ろうとしていた。



とん。



肩を叩かれる。振り返ると、さきほど会議をめちゃくちゃにした二人が、にこりと笑って立っていた。


「ギリエフ外交官、少し、お聞きしたいことがあるのですが」

「は、はあ……」


粗暴な口調の兄が、いつもより丁寧に問いかけてくる。


「王国にいたのは、本当に、ダフネオドラ王子でしたか?」

「ええ、王子に違いありません」


()()()()()()()()()だろうし、嘘を吐くスタイルに変わりはない。


「へえ、それじゃあ、リリー姫は?」

「リリー様は、いらっしゃらなかったですね」

「へえ、いなかったんだ」


じとりと、背中が嫌な汗をかいている。


「それじゃあ、大義名分はなくなったわけだ」

「ええ、そうですね」


なんの話だろうか。首を傾げるギリエフ外交官に、なんでもないですと弟王子が答える。


「これで、心置きなく草を動かせます。ありがとうございます」


なぜか礼を言われた。草、というと、密偵だろうか?


というか。


嫌な汗の正体を知って、ギリエフ外交官の顔色は、初めて青ざめた。


「パルマヤ共和国は無理そうですからね、別の国にするのでご安心を」


なにを?


「僕たちは、外交官が、本当のことを言ってくれたと信じていますから」


なんで、それを言う? 


「ね、ギリエフ外交官」


二人の悪魔は笑い、ギリエフ外交官も、ひくついた笑みを浮かべてこう言った。

 


「やはり、あなた方も、ファーストネームで呼ぶんですね」


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