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これでも貴様には期待しているんだ

さて、共生(笑)を謳うからには、避けては通れない問題がある。


それが、双方の食糧問題。


自給率〇パーセントを誇るクソザコ王国の民の方は、半ば脅しの形で勝ち取った外交権を行使して、共和国という名の哀れな生贄から搾り取るだけ搾り取るとして、問題は、同盟に加入した吸血鬼の食糧である。


「トマトジュースでなんとかならない?」

「貴方は色が似てるからといって、カレーの代わりに排泄物を食べるの?」


シアがにこやかに、トラメルの妥協案を跳ね除ける。カレー好きの人の影響力は凄まじいなとトラメルは思った。シアの喩えにも登場するとは。


ちなみに、カレー好きの人は、シアの喩えに見事に引っかかり、「究極の選択だな……」と呟いている。ぜひ、永遠に悩んで、人生の最後くらいに答えを教えて欲しいと思う。


トラメルは、腕をこまねきながら、トマトジュースに代わる代替案を考えた。


「じゃ、ここの囚人の血を好きなだけ吸っていいことにしよう」

「外道か貴様は」


シアのそばにいたニノンが、頰を引き攣らせながら言う。


「そんなことをしたら、現王政派と変わらないではないか。貴様らは、人間の家畜化を憂えているのだろう? 人間が人間を家畜扱いしてどうする」

「でも、この監獄の人たち、最低限一人殺してるし……罪を償わせてもよくない? もうランク別に吸血させようぜ。血の気が多いし、丁度いいんじゃないかな」

「そうなりますと、私は、何人もの吸血鬼に組み敷かれて、血を吸われることになりますわね」


シャーロットが、腰をくねらせ、頰を蒸気させながら言う。


「ほら、なかなか良い案っぽくない?」

「コレが特殊性癖なだけよ」


シアが、若干機嫌悪くシャーロットを指さした。この二人は、あんまり仲良くなれないようだ。シャーロットも、猫のように目を細めて、シアの方を睨みながら微笑んでいる。


ま、ライバルがいるのはいいことだ。


「だが、囚人の血を吸わせるのは良い案だと思うぜ」


〇二四三番さんが、自分のテリトリーからものを言ってくる。よく考えたら、狭い牢屋に幹部連中でぎっちぎちに寄り集まってる方が頭悪いのだが。「僕の牢屋なんですけど」と、潰れかかっているラクタ君も仰っている。なんで愛着持ってんの。


「囚人のことを従わせたい、そういう魂胆があるんだろ? だったら、家畜という身分を作って、自分の立場をわからせるというのも手だ。なにも、メリットだけで人を支配しなくても良い。デメリットを提示することで、支配できることもある」

「おおうふ」


さすが、犯罪組織の首領様は言うことが違う。


彼の経営スキルは一流なもんで、実際、ここにぶち込まれるまで、部下の誰一人に裏切られることもなかった。この人自身は、めちゃくちゃ部下を裏切って切り捨てまくってたのに。恐怖政治の成功例ともいえるだろう。


ーーていうか、この人も家畜になるんだけどいいのかな。


そこらへんを考えないわけないだろう。この人、すんごい頭良さそうだし。悪意レベルがやばいS級だし。


ということを考えた時、トラメルは、ぽつりと言った。


「誰を吸わせるかはおいといて、見えるところで吸って欲しいよな」

「ふぅん?」

「どういうことだ?」

「密談の場になるかもしれないってことだよ。たとえば、あっち側の吸血鬼と人間がかち合ったりとか」


〇二四三番さんの「ふぅん?」に肝を冷やしつつ、首を傾げるシザーに癒される。


「たしかに。ですが、その心配は無いんじゃないですか? 外から来た人間と吸血鬼を、会わせなければいいだけですし」


ラクタ君とかいう純粋さの塊を眩しく思いつつ、トラメルは首を横に振る。うーん、ダフィンのおつきだっただけある。


「もしかしたら、外から来た人や吸血鬼が、こっち側の囚人を脅すかもしれないだろ。取り込むかもしれないし」

「だったら、囚人は無しね!」


妙に元気よく言ったシアは、わきわきと指を動かした。


「やっぱり私は、美味しい血が飲みたいと思うのよね? 相性の良い血は、私たち吸血鬼に力を与えてくれるし? ね、トラメル。別に深い意味はないけど、美味しい血が飲めたら、私もっと頑張れる気がするのよね?」


シアが目をぎんぎらさせて言うのを見て、トラメルは、これなんだよなーと頭を抱えたくなった。


当初トラメルは、シアの父が目指したやり方を検討してみたのだが、これだとあまりに均衡が崩れやすいのである。


何かの対価に血液を提供するやり方は、良くない。ましてや、『なかよし同盟』の場合は、吸血鬼側が増長してしまう。


なんか、良い方法はないだろうか。


「ね、ニノンも、美味しい血を飲みたいわよね?」

「僭越ながら、提案させていただきます。シア様」


本能丸出し主人に、従者の少女は瞳を伏せながら言う。


「混ぜれば良いのでは?」

「ま、混ぜる?」

「はい。そうです。現王政派のやり方を真似するようで癪ですが、私が王都の外で虜囚となっていた頃、誰のものかはわからない血が、ワインボトルに詰められて運ばれてきました。私はそれを飲んでいましたが、そこからは、複数の血液の味がしました」

「うっ、可哀想……」


シアが目尻に涙を浮かべる。


「そんな雑味のある血ばかり飲まされて……」 

「ところが、そうでもありませんでした。そうですね、ちょうど、カレーのように」

「みんなカレーの喩え好きすぎない?」


ほとんど洗脳だと思ったトラメルは、口に出さないでおこうと思ったのに、突っ込んでしまった。


究極の問いに煩悶していたカレー好きの人が、ぴくりと体を動かした。


「けほん、ちょうどカレーのように、さまざまな味がより集まっていました。ですが、カレーのように、我々にとって不快な臭いがしませんでした」

「喧嘩なら買うぞ?」

「まずいカレーの喩えですよ」

「そうか」


ーーこの人めんどくせっ。


「私が言いたいのは、特定の人間から血を吸うことはせずに、ここにいる全員の血を集めて、我々の食糧にしたらいかがでしょう、ということです」

「すごい不味い血が混ざったりしない? ここの人たちは美味しいから生かされてるらしいけど、私は“偏食家”だから……」

「そこで、この男です」


ぽん、と肩に手を置かれて、トラメルはびびった。


「え、いやあの」

「シア様には、この男の血を吸っていただきます。“仲良し同盟”ですからね」

「おい、さっき言ってたことと違うぞ。自分の主人にダダ甘じゃねえかお前」


ーー爆弾魔先輩!


さすが、S級一の常識人(推定)! もっと言ったれ!


「黙れ下等種が。吸血鬼全体ならまだしも、シア様だけが得するのだから良いだろう。それとも、お前も凶悪犯罪者のはしくれとして多大な血を我らに提供するか?」

「その馬鹿の血ならいくらでも吸ってください!」


ーー爆弾魔先輩……。


さすが、S級一の常識人。手のひら返し早っ!


「むふ、むふふーっ、むふふーっ!!」

「ぐぬぬぬぬぬ」


勝ち誇るシアと、なぜか拳を握りしめるシャーロット。正反対な二人を見ながら、トラメルは、「ま、いっか」と気持ちを切り替えた。シアの強化をするのは、打倒・現王政派に必要なことだし。まあ、俺で済むなら……。


「そう悪いことでも無いぞ、()()()()


そういえば、肩を掴まれたままだった。ニノンが、トラメルの耳元に唇を寄せてくる。なんだかくすぐったい。


「これで、現王政派と疑わしき者同士の密談が避けられるのだからな」


恩を売った代わりに、対価を払えというわけだ。やっぱり対価という考えはクソですね。


しみじみと頷くトラメルに、ニノンは、ちょっとそっぽを向きながら何事かを付け加えた。


「え、なに? 聞こえない」

「聞こえないように言ったからな!」


ドヤ顔するニノンは、やっぱりシア様過激派のやべえ奴だった。


「さーて……」


来たる日曜日。スパイスのほかに、ワインもせびらねばならなくなったわけだ。


「待ってろよ共和国(裏切り者)!! 血の一滴も出ないほど、搾り取ってやるからな!!」

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