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49,裏側

「魔道具取り締まり強化と処分の確約、賠償内容がまとまりました。殿下への報告はこちらに」

 宰相閣下が数枚の紙を差し出す。



 公国との会談を済ませた夜。

 ルーフレッド殿下へ報告へ向かう宰相閣下に随伴した。彼の滞在地はラスティン家のタウンハウスであり、迎賓館とはそう遠くない距離であった。

 夜も更けた現在、あちらへ戻る頃には彼女はもう眠っているだろうか。


「殿下から報告のあった合成獣に関しては議題に上がらず」

「問題ない。あの魔道具職人を保護できたことで今以上の生成を抑えられるだろう。あとは公国の問題だ」


 閣下の後ろに控える自分からは、正面に位置する殿下の疲れた様子が窺える。

「それにしてもアニスバーン伯爵が……」

 王国内の知らせを受けた彼は険しくなった目元をほぐしながらため息をついた。

「私が焚き付けたようなものだな。王国の防衛には問題があると。それがまさか、聖女様を害する方向へ向かうとは……」

「殿下が責任を感じる必要はありません。愚かな行いは当人の問題です」


 アニスバーン伯爵は第二王子派であり、保守派の一人だった。

 年々脅威を増す公国の魔道具に危機感を抱き、殿下が排除しようと動いたそれを伯爵は取り込もうと考えた。そのためにはただ一強である存在の聖女を差し出しても構わないと。あらゆる条件を突きつけた上で彼女をルフレール卿へ引き渡す予定だったと自白した。

 縁続きであるニコラハム男爵は伯爵に逆らえず、せめてもの抵抗として領地内の動きに不信感を抱かせるような行動をとっていたのだと、調べを終えこちらへ着いたばかりの閣下に教えられた。


「それらに関して処分は終えています。詳しくは帰国してから」

「そうだな」

「まずは精々お父上に叱られてください」


 悪戯が見つかった子供のような、バツの悪い表情に変わる。

 剣の稽古をつけていたアルバートと違い、神童と呼ばれる第二王子との関わりが薄かった自分には見慣れぬものだった。




「彼と話をしたい」

 帰り際、そう呼び止められたのは自分だった。護衛対象である閣下が部屋を辞し、殿下と二人、部屋へ残される。


「浄化の旅へも随行したそうだな」

「はい」

 ご苦労だったと労われ、感謝の言葉をかけられる。

「王国内の動きを掴んだのもお前だと聞いた」

「協力者の力添えがあってこそです」

「そうか。私にもなかなか頼りになる者がいたのだが、敵わなかったな」

 ふと、遊学中の殿下につけられた伝令も取り締まりの対象となったことを思い出し、彼の協力者に心当たりがあるような気がした。


「これは報告に上がっていない事柄だが」

 誘拐犯の聴取を行なった者から面白い話を聞いたんだ。


 聞きたいか? と含みのある笑顔で尋ねられるが、おそらく拒否権はないのだろう。逆らわずに頷いた。





 迎賓館へ戻り、当てがわれた部屋に着く頃にはすっかり深夜だった。緩慢な動作で制服を脱ぎながら、こちらへ着いたばかりのことを思い出す。



 首都ランシュアへ到着し、アルバートたちと合流した翌日。

 犯人たちが潜んでいる可能性の高い森へ配置され、周囲を警戒しながら何度か侵入を試みた。だが魔法士たちでも方向感覚を失うその場にとどまる訳にもいかず、近くの街へ引き上げた。

 一向に変わらぬ状況と進まぬ話し合い。そんな時、昼頃に森から出てきた馬車が戻る動きを見せたと知らせが入る。

 このまま追跡を試みるかと動き出せば、侍女らしき衣服を身に纏った少女が腕を抱え、泥だらけの様相で兵士に助けを求めてきた。

 離れたところからこちらを伺う不審な男に目を止め、すぐさま追うように仕向け少女の元へ向かう。恐慌状態の彼女から断片的な言葉が溢れた。


 聖女様、森、恋人、助けて


「なにがしかの魔道具が作用している以上、無闇に踏み込めません。感知できない不自然な範囲が広すぎる」

 すぐさま森へ引き返すもののすでに馬車は見当たらず、それを追っていた兵士はやはり、一本道の途中で見失ったという。魔法士の言葉に入り口で立ち往生となった。


「原因となる魔道具を撤去できればいいのですが、結界ならば厄介です」

 一度発動したそれを解除するのは容易ではないと、マイヤーと呼ばれる女性が口にしたところで、弾かれたように森の奥へ顔を向けた。

「聖女様です!」


 これまでが嘘のように小道に伸びる車輪の跡を追うことができた。

 そうして向かった先、木々が生い茂るそこに彼女を見つけた。

 頬の傷が痛々しいカナメは呆然とした様子で、抱えていた人物の無事を確認してやっと、安心できたようだった。

 まさか離れて欲しいと言われるとは思わなかったが。


 その後すぐに倒れた彼女が目を覚ますまで、何度も足を運んだ。呼吸を確認しても到底落ち着けるものではなかった。

 深夜や明け方にまで部屋を訪ねる自分にシェルビア嬢が物言いたげな目を向けていたが、仕方がないだろう。

 回復し、日に日に元気になる様子を傍で見ることでようやく安心できたのだった。




 最近では夢見も落ち着いてきていると侍女が言っていた。

 公子の婚約者と食事をする機会が増えたからか、舌が肥え食事量が増した気がすると心配していたカナメを思い出せば、今日一日強張っていた顔が緩む。


 ……考えていたら会いたくなってしまった。

 明日明後日は帰国の準備で慌ただしいだろう。少しでも話す時間があればいいと思いながら、眠りについた。

カルマの乗っていた馬は無事保護されました。

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