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48,第二王子

 公子の魔道具すべてを外し終え、その後の経過観察も問題ないだろうと結論が出た頃、宰相閣下が到着した。


「元気そうだな」

「宰相閣下もお変わりなく」


 三ヶ月ぶりの閣下は長旅にも関わらず一切の疲れが見られなかった。さすが国のお偉いさんだ。この人もなかなかの無愛想だが、こちらを心配してくれているのは伝わってきた。

 翌日には大公と面会するため、すぐさま準備に取り掛かっていた。すべて報告を上げている聖女にできることはない。なんなら治癒の報告や帰国の挨拶すらさせるつもりはないようだった。


 今回のことに大公は関与していないが、黙認していた事実は明るみに出るだろうと公子が言っていた。王国側の判断であれば直接謝罪を受けなくても構わないとも。

 私が赴かないことで問題にならないのであれば従うだけだ。そんなことよりもっと、重要な問題に直面していた。


 宰相閣下がいらしたことによりデイヴ様が元の配置に収まってしまった。

 ここ三週間ほど甘やかされきった聖女はダメージを受け、その事実にさらにダメージを受けた。


「欲深さが止まるところを知らない……」

 傍にいないだけでこの喪失感。強欲の聖女と呼んでくれ。


「本人に言ったら喜んで離れなくなるでしょうね。うまいこと聖女様の護衛に戻るかも」

 エリーは当然とばかりに言うが、それはないだろう。仕事熱心な彼のことだ。公私混同などしないはず。

「カナメはちょっと盲目すぎるわ」

 その指摘に関しては否定できない。


「ところで、贈り物は渡さないの?」

「タイミングが分からないの……元々お土産として帰国してから渡すつもりだったし」

 フィオレット様と出かけた際に購入した指輪はまだ手元にある。


 あれから何度か、フィオレット様ともお会いした。館でのお茶会ではあるが楽しんでくれたようだった。

 以前に彼女が言っていた縁とは、公国貴族ではなく我が国の王族だと知っての発言だったのだろう。またなにか言われる前に早々に婚約者を紹介させていただいた。

 まぁ、と納得した様子の彼女がなにに納得したのかは気づかないことにした。


 そこまで思い出し、ふたたび元の思考へ戻る。お土産をいつ渡そう。一緒に滞在して帰るのにお土産ですっておかしくない? 大丈夫?

 話し合いがうまくいけば数日後には公国を立つ予定だった。それまで彼は宰相閣下に付いているだろうからタイミングも難しい。

 うーんと唸っていれば。


「寝室一緒にしましょうか?」

「しないよ!?」





 翌日、数人の護衛を連れた宰相閣下が出かけて行った。後頭部まで美しい青年を名残惜しく見送る。


 なにをして過ごそう。日課の散歩もすっかり慣れ、物足りなくなってしまった。ちなみに最初以来、アイザックさんは散歩にはついて来ていない。


「庭に出てもいいですか?」

 迎賓館の庭はそこそこ広い。これまで室内で我慢していたが、そろそろいいのではないだろうか。魔法が解禁され体力が戻った現在、聖女は万全である。

 了承を得れば、アルバートさんとシェルビアさんが揃ってついて来てくれた。


 噴水を中心に整えられた緑と模様を描くように敷き詰められた石畳。王国で目にする庭とはまた違った趣きだ。

 前庭をぐるりと堪能し館に沿うように歩いていれば、緑が生い茂る裏庭に踏み入れたところで人影を捉えた。ちょうど建物の端、西館に当たるだろうか。


 私より先に相手を把握した護衛の二人が礼を取る。ルーフレッド殿下だった。

 護衛がいる様子はない。一人で大丈夫なのだろうか。もしかして擬装の指輪とやらをしている? 目線に気づいた彼に今はなにもしていないと言われた。


「こんなところでなにを?」

 問いかけて、以前見かけたのもこの辺りだったなと館を見上げていれば。

「野暮用だ。あんたはあの時も見ていただろう」

 バレていた。偶然であり別に後ろめたいことはないという態度を貫こう。開き直りとも言う。

「怪しい取引でもしているのかと思いました」

 フン、と小馬鹿にするように笑う殿下は協力者だと教えてくれた。


「王国の伝令も信用できなかったんでな」

 だから最初からこちらの人たちも信用していなかったのか。大変だったんだな。

 いくつか尋ねてもいいかと聞けば、好きにしろと返ってきた。


「協力者を通じて国王様に助けは求めなかったんですか?」

「元々身分を偽っての留学だ。自分の不始末で国を巻き込むわけにはいかない」

 それに。

「現在の王国のあり方には思うところがある。あんたについても」


 強い眼差しを向けられる。

 会った当初のような敵意は感じないが、諸手を上げて歓迎されている様子でもない。


「まぁ、噂だけ耳にしていた時よりは大分変わったが」

 すぐに逸らされた視線から感情は伺えなかった。


「殿下はこのまま公国へ残られるのですか?」

「いや、あんたの挙式には帰れと言われているからな。学院の式典を待たず帰国する予定だ」

 なんと。申し訳なさすぎる答えが返ってきた。

 すでに卒業資格を得ているから問題ないと気遣われても、学生時代の思い出は大事なものだろう。

「俺は幼い頃から各国に滞在しているからそうしたものに思い入れは少ない」

 十七歳そこいらで達観しているのはそのせいだろうか。


「だがさすがに好き勝手しすぎた。帰れば王位継承権を剥奪の処分くらいは受けるだろう」

「えっ」

「もとよりそのつもりだった。遊学の目的も兄上の補佐をするためだ」

 祭り上げたい者はいるようだが、王になる気はない。降下して公爵を名乗ることになるだろうと平然としている。

 こちらは先程から耳に入る大事になんと返していいのか狼狽えているというのに。挙動不審な聖女にニヤリとした青年が尋ねる。


「公爵夫人になるか?」

「間に合ってます」


 一転、即答した私を声を出して笑う彼は、くしゃりと崩れた目元も相まって年相応に見えた。

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