47,後始末
言い訳をさせてもらいたい。王城に飾られた姿絵は見たことがあるのだ、彼の幼少期の。油絵のようなそれは実物より色彩を欠いていたとも付け加えておきたい。
「姿絵は成人に合わせて新調するからな」
「では気づかぬのも致し方ありませんね」
「自分で言うな」
応接間へ移動した後も非難がましい目を向けるラスティン様改め、ルーフレッド殿下は偉そうに言う。本当に偉い人だった。
そもそも公国の貴族のふりをしておいてなんなのだ今更、気づかなかったとはいえ私ばかり責められるのは納得がいかない。
我、聖女ぞ? 異世界へ来て少しの聖女ぞ? 第二王子はずっと外遊中だったでしょうが。
私の気安い態度が癇に障ったのか、これまでと随分態度が違うではないかと当人から苦情が寄せられた。
「他国の尊いお方に失礼があったら大変ですから」
自国の王族、それも次男坊と聞き、張っていた気を少し緩めただけだ。引き攣るような顔を見たのはこれで二度目だ。
「婚約者になるかもしれなかった相手に随分だな」
王妃様がうちの子どう? って勧めてきたのは覚えている。ジェラルド様にはすでに婚約者がいらっしゃるから、側室か下の王子かなと思ってはいたが。
話が立ち消えたってあれ、私のことだったんですかぁ……。打診前から話がいっていたんだろう。
「正式にお話をいただいたとしても断ってましたけどね」
「好みじゃないとだいぶ距離を取って言われたしな」
ぎゃー! こんなところで失礼な言動をばらすなんて性格が悪い! 今日の聖女の護衛にはアルバートさんだけではなくデイヴ様もいらっしゃるんですよ!
すぐさま公子に話題の変更を促した。
改めて誘拐の経緯を聞き出されたが、馬車で目覚めるまでは記憶にないという私に、寝室で催眠効果のある香が使われていたと教えてくれた。誘拐犯には図太いと言われたが私に非はなかった。発言を撤回してほしい。
途中、キメラに対峙させられたときの話で言葉に詰まれば無理をしなくていいと言われるが、黙っていたところでなにかが変わるわけでもない。
できるだけ感情を抑えながら話せば、護衛と共に控えていた魔法士の中から「魔獣の見た目と撲殺か窒息か溺死か詳しく教えてください」と無理やり詰め寄ってきた魔法オタクがいたので、あっけに取られてしまった。
魔獣自身に興味ないけれど聖女の魔法の効き目は見逃せないのかとおかしくなった。
そういえば、目が覚めた後にどんな魔法を使ったのか聞かれたときも。
思い出せる限りの魔法をあげていけば魔法士の方々がどんどん青ざめる中で、アイザックさんだけは目を輝かせていたっけ。
先程の暴挙は私への気遣いかと思ったけれど、やはりただの魔法オタクであった。暴挙に出た当人は応接間から追い出されたが、今頃は魔法で盗み聞いているに違いない。
「改造魔道具に関わっていた職人と、聖女様の誘拐に関わった侍女については現在も取り調べを進めております」
現在二人は捕まってる。加害者であるが被害者でもあるので、安全は保証されていると聞いて安心した。だが、続いた言葉に青ざめる。
「憔悴と怪我がひどいので処罰は回復してからになるでしょう」
男性は憔悴に加え足を骨折、少女は落馬による打身と腕を骨折。
それ、完全に聖女による傷害じゃん!! 一刻もはやく治癒させてほしい!
「あんたは馬鹿か」
殿下は呆れたように言うが、あのとき無理に逃げ出さなくても助けが来ていたのだから不要な怪我だったのでは!?
「あの森は前日から張っていたが魔道具に阻害され捜索は不可能な状況だった」
森の中でこれを見かけなかったかと言って差し出されたのは拳大の石のような塊だ。
「硬いものにつまづいた覚えがありますが、これがそうかは分かりません」
「……そうか」
痛ましそうな目になった。あれは本当に痛かった。
魔法や方向感覚を阻害する魔道具が森へも施されていたようで、私が蹴り飛ばしたらしいそれがズレたおかげで正確な位置が把握でき、踏み込めたのだという。
彼女たちの治癒が諦めきれない様子の私に、本人たちは望んでいないと言われたら、それ以上はなにも言えなかった。
今回のことは公国の重要ポストにつく人間の犯行であり、取り締まりと調査は継続されること、謝罪と王国への賠償も約束してくれた。正直難しい話の半分も入ってきてないがこれでもだいぶ省略されているようだったので、聖女へはあくまで報告程度の要件なのだろう。
これを機に体制を一新するつもりだと告げた公子の顔は晴れやかだった。
「時を見て大公にも隠居していただく予定です」
公子までやばい内情漏らさんでください。聖女は政治権力者でもなんでもないんですよ。
だがここには王国の第二王子がいる。私より上の責任者だ。
「聞かなかったことにしてもいいですか?」
「好きにしろ」
面白そうに笑って言う。好きにさせてもらえないやつだと感じた。
聴取を終えた公子の帰り際、残りの治癒はいつがいいかと尋ねた。私は宰相閣下が到着するまでのんびりできる身だが、公子はそれはもうお忙しいだろう。
「聖女様が回復された後にまたお願いいたします」
魔法禁止令が伝わっているようだ。
「ところで、聖女様の婚約者もこちらへおいでになられたと聞きました」
ちらりと背後へ視線を流した公子に尋ねられる。これは紹介した方がいいのだろうか。いいのだろうな。目配せをしたら青年はすぐに隣へ来てくれた。
「彼が婚約者のデイヴィッド・フォーサイスです」
礼をとる青年の横で呼び捨てが初めての私はドキドキした。なにせ身内の紹介だ、身内の!
「噂はかねがね、耳にする以上の美丈夫ですね」
これはルーでも仕方がないなどと続けて、うるさいとまた文句を受けている。
揃いも揃って顔目当てだと強調しないでいただきたい。間違いではないけれど。彼の魅力はそれだけではないんだぞ。主張したりはしないけれど。
「フィオレットが会いたがっていました。よろしければまたお相手願います」
「こちらこそ」
公子を見送り、肩の力が抜けた。自分は思った以上に緊張していたようだ。治癒はもっと短い時間だったからな……。
疲れた様子のこちらを心配する青年に顔を向けて、ふと気がついた。
「なんだか嬉しそうですね?」
パッと口元に手をやった青年は自覚がなかったのだろう、少しだけ目線が泳いだ後に紹介されたのが嬉しかったと言われたら、もう。
私もー! と全力同意した心の声は、青年の容貌が褒められた際の微妙な心情まで汲み取られて奇声に変わった。
「物言いたそうな顔が……」
「忘れてください!」
からかう気満々のデイヴ様も信じられないほど可愛いですけど!
ままならない感情に襲われていれば、呆れたような声がかかった。
「部屋でやってくれ」
うわっまだいたんですか殿下。覗き見はやめていただきたい。
「不敬だぞ」
口に出ていたようだ。




