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44,捜索

 時は少し遡り、聖女がいなくなった当日。同時に公国の侍女が一人、行方不明だと報告が上がった。


「侍女一人の犯行ですって?」

「フェイル家の魔道具が使われたのだろう」


 訝しむ王国の文官へ向けてルーフレッドは吐き捨てた。

 奴らの持つ魔道具の性能がこの数年でどれほど上がっているか、その目で見たはずだ。にも関わらず、相変わらず危機意識の低い自国民には辟易とする。


「聖女様の救出と公国の不穏分子の摘出は同時に行う」

「我々もそちらに協力しろとおっしゃるのですか?」

 複数箇所の拠点を一度に叩かなければいくらでも湧いて出る。中でも聖女の確保と同等に、最重要である魔道具改造の現場は逃せなかった。


「ルーフレッド殿下。あなたが公国で行なわれていることの説明は後だとおっしゃいましたが、内政干渉に当たる場合王国の代表としては安易に了承できません」

「本来であれば狙われたのは公子ではなく、私だと知っても?」

 その場の人間が騒つく。



 公国へは外交を学ぶために数年前から留学していた。素性と姿を隠し、大公の外戚の協力の元、養子として公子と同じ学院へ通っていた。

 そこで公国の裏事情を知り、深追いしたのは自分でありそれを庇ったのは公子だった。

 事情を知らぬあちらは隣国の王族を狙ったわけではないのだろう。だが、重症を負った公子すら捨てる覚悟のある大公も、訴えに応じぬ父上も、すべてが信じられなくなった。


 王国との定期連絡に違和感を覚えてからは独自のルートで情報を探ったが、それを伝えることはしなかった。自身の不始末を人に押しつける気はなかった。



「どのみち聖女様の追跡はうまくいっていないのだろう? 奴らには特殊な結界や魔力を封じる手立てもある」

 いまだに検討のつかない行方を探る当てなど、そちらにはないはず。

「……そういうことであれば、承知いたしました」

 いまだ納得のいかないであろう心情を綺麗に隠しながらも、了承を得たのでさっそく本題へ移る。


「今回のことで聖女様が狙われるとしたら王国内であったはずだ」

 だが危険を承知で手を出してきたということは予定外の問題が起こったのだろう。繋がりのある王国貴族側になにかあったか。


 王国内にも多少、使える人間はいるようだと感心した。自分が国にいる頃はまだ、防衛とは名ばかりの魔法士頼りの護身。聖女が現れたと聞いてますますその傾向は強固になるものだと思っていた。


「抑える拠点はすでに決まっている。だが、その何処かに聖女様がいるとは限らない。別枠と考えた方がいいだろう」

「殿下は攫われた理由をどうお考えですか?」

「魔力の利用とその価値があるかどうか。だがこのタイミングであるならば……」


 脅威の排除である可能性が高い。


「そう時間はかけられない。王国からはどれほどの増援が見込める? 魔法士は外せない」

「今朝方伝令を飛ばしました。国境に控えたものであれば早くて二週間」

「遅いな。それは伝令も含めた期間か」

「はい」


 少し考え込み、再び問いかける。

「今から半刻で伝令が届くとすれば?」

「一週間ほどでしょうか。……失礼ながら公国にはそのような手段が?」

「国ではない、だが守秘義務があるんでな。信用はできる」

 転移魔法は少なくない魔力が必要だ。訝しむのも無理はない。


「一週間か……」


 聖女が使えると分かれば失踪を装って生かされ、利よりも危険と判断されたら殺される。黒幕の顔を浮かべながら、慎重に進めなければならないと考える。



 公子へ報告し、私兵に首都に隣接する領地の交通を把握させた。

そうして廃屋も含め、聖女が連れ去られた可能性のある地域を三つまで絞ることに成功した。

「見覚えのない者が武具と食料を買い込んでいたと街の者から報告があったのはこちらです」

「このうち一つは確認が取れた。移民と冒険者だ」

「あと二点はどちらもルフレール卿の領地内ですね」


 公国の財務大臣であり、キメラ研究の責任者のうちの一人だ。裏家業を生業とするフェイル家との直接的な繋がりはないが、後ろにいるのはこの男に間違いない。


「街中の屋敷はなにかしらの結界が施されているようです。現在は無人で管理人は旅行中という話ですが」

「東の町に隣接する森は探索不能でした。おそらくこちらも魔法を阻害するものが敷かれているかと」

 兵と共に赴いていた王国の魔法士たちからも報告を受け、布陣をその二点へも広げることになった。


「聖女様は使えると奴らが思ってくれたらいいのだが」

「……どうでしょうねぇ」

「まず大人しくするところから難しいかもしれません」


 王国側の人間が揃って微妙な顔をする。知る限り要請には従順な態度に、それほど気を揉む理由が分からなかった。頭の回転は悪くないようだったが。


「悪くないからこそ下手に動いてないといいのですが」

 王国にいた時は剣の相手をさせていた近衛騎士が言う。現在は聖女の専属護衛騎士にまで出世したそうだ。彼が言うからには根拠があるのだろう。


 どうやらあの聖女様は自分が思う以上に規格外のようだった。



 把握する拠点の一つから公国管理外であるキメラの動きを確認した夜、増援が到着した。

 予定よりはるかに早い、誘拐から四日目のことだった。

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