39,監禁生活
私が喚いた内容について男たちが審議を始めた。
「どうする、ああ言ってるが。つーかこいつ本当に聖女サマか?身なりはいいが馬鹿っぽいぞ。その辺の町娘と変わらん」
「それは間違いない。人相はあのお方が確認しただろ。馬鹿っぽくても魔力は本物のはずだ」
「好色だって噂はマジだったのか」
「一人増えるのは面倒だが……」
「だが本当なら言うこと聞かないと計画は進まねぇだろうが」
聞き捨てならない単語が飛び交うが、ぷりぷりと拳を握り怒った様子を表していれば、一様に面倒くさそうな顔になった。自分でも最高に間抜けだと思う。だが人に言われると腹が立つな。
「聖女サマは消えられるんだろ?逃げられないようにこいつを人質にするのはありだぜ」
「馬鹿っぽいが情にアツいっつー話だしな。見捨てたりしませんよねぇ?」
「どうせこの部屋じゃ魔法は使えねぇよ」
ぎゃははと品なく笑う男たちの一人が口にした言葉に、内心ぎくりとする。
「この女は別室で預かる。あんたの世話の時だけ寄越してやるよ」
そう言って彼らは乱暴に少女を連れ出していった。こちらを振り返った彼女に頑張ってと頷いたが、伝わっているだろうか。無理そうだな。
一人になった部屋で膝を抱えて考え込む。
あのお方、計画。聖女の魔力を利用したい人間。
気をつけろと言われていた勢力だろうか。それならば待っていても助けは来るだろうか。
聖女がどんな魔法を使えるのかまで知られていた。情報が流れているってこういうことなんだ。流した王国貴族に思うところはあまりない。でも、私のせいで問題が起きてしまう事実は直面してみてかなりショックだった。
(あいつら、この部屋では魔法が使えないって言ってた。魔力を封じるような魔道具なんてものまであるんだろうか)
ぼんやり考えながら手元に火を灯してみると、いつも通り綺麗な炎が上がった。
え、使えるんですけど。
バっと周囲を確認する。誰もいない。よし。
黙っていよう。
小部屋の上部にある小さな窓には鉄格子が嵌められていたが、外の明るさは伝わってくる。
その日は夕方に簡素な食事が運ばれてきたが、見張りもいたために給仕をしてくれた少女と会話はできなかった。せめてアイコンタクトをとじっと見つめていたが、徒労に終わった。心なしか少女の怯えは私に向けられている気がする。
見張りの男はドン引きしていた。変な想像をするんじゃない。
翌日、朝早くに起こされた私は別室に連れて行かれ、魔道具に魔力を込めろと言われた。
「寝起きに魔法は使えません……」
お腹すいたなぁとアピールもしてみれば、舌打ちの後にその場にご飯が運ばれてくる。前回と同じ簡素なパンとスープだった。
この程度の口答えなら許される。慎重に許容範囲を探った。
食べ終わった食器を片付ける少女に礼を告げ、えっと、あなたのお名前は?と聞いてみても、見張りには怒られなかった。
「カルマです……」
「なんだ、聖女様は自分の侍女の名前も知らねぇのかよ」
「じっとしてても皆がチヤホヤしてくれたんでぇ」
あっ今のは自分でもなかなか気持ちの悪い声が出た。聞いた男はげんなりしていた。
食後、さすがに言われたことをこなさねばまずいだろうと用意された魔道具に向き合った。
「王国にないのもばかりだからよく分からないんですけど」
一部に見覚えはあったがこれは嘘ではない。尋ねれば、嫌々ながらも説明してくれた。この見張り、粗雑そうな見た目に反してなかなか面倒見がいいのでは?
「左からランプ、認識阻害、魔障沈静」
ははぁ、日常的なものから特殊なものまで用意して聖女の実力を測ろうって魂胆だな?
ランプは言われた通り満タンに、認識阻害は全力のフリをして五分の一程度に魔力を込めた。そして魔障に関する魔道具は。
「おかしいですね、これはすり抜けちゃいます。不良品ですか?」
「そうか」
魔道具を回収して男は去っていった。部屋に残された私は思った。聖女を一人きりにするとか抜けてない? 本当に公子の暗殺未遂に関わった組織なの?
まったく違う集団だったらどうしよう。やはり自力脱出も考えなければならない。廊下を覗けば誰もいなかった。
「あのー! 用事が終わったなら部屋に戻してくださいー!」
慌てて駆けてきた男について行く。今はまだその時ではない。
(人質とられてるんだよねこっちは)
私の誘拐に関わったであろう少女とはいえ、一人で逃げ出せば彼女は確実に殺されてしまうだろう。
命懸けで守りたいとは思えない。でも見捨てることもできない。そんな選択を自分がすることになるとは。キツいなぁ……。
王国の人たちも今頃必死で探してくれてるんだろうな。魔力探知はマイヤーさんが得意だったはずだが彼女は公国へ来ていないし、他の人も距離ができれば難航する。
どうにかここを出て助けを呼びたい。この建物ごと燃やしてしまいたいが、規模も現在地も把握できなければ巻き込まれてお陀仏だ。
魔獣討伐の時に思考放棄するなと指摘したナイスミドルを思い出してふふ、と笑いが溢れた。
「皆に会いたい……」
無意識に胸元に手を持っていった。そこにあるはずのものがないと気づいたとき、もう限界だった。
「嘘でしょ……指輪もないとか……おとした……? やだもう、帰りたい!」
幼さを装っているうちに本当に精神年齢が若返ってしまったのかもしれない。めちゃくちゃに泣き喚いた。
食事は相変わらず簡素だが、お昼に果物がついていたのはご機嫌取りだろうか。大声で騒いだのに煩わしいと詰られなかったのは幸いだった。
泣き腫らした目でもそもそと口に運ぶ私を、少女が気遣わしげに見ていた。
泣いたら頭がスッキリした。と同時に先ほどまでの自分は黒歴史が決定した。思い返すとダメージを受けるので思考を他に集中させることにした。
ここへ来て二日目、トイレと呼び出し以外で小部屋から出ることはない。常に見張りがついているし、情報を得るにも出歩けないのは厳しいと思ったところで、ふと閃いた。
アイザックさんは壁を挟んだ距離でも盗聴できる技を持っていた。あれ、私にもできないだろうか。
おそらく離れたところの声を拾うために風を操る原理だろう。目を閉じて空気の流れを意識する。小部屋の中をぐるりと動かしたところで、風の動きを肌に感じて中断した。これでは敵にすぐバレてしまう。むむ、と眉を寄せた。
空気を動かさずに聞き取らねばならない。そうして浮かんだのは懐かしい祖父の顔。
「補聴器だ!」
音を集めるのではなく拾うイメージ。空気の中でそれだけを意識した。
『……に……いを……』
『明日、せ…………だ……』
会話が聞こえる!
「私、天才なのでは?」
ここでは褒めてくれる人は誰もいないので、自己肯定感を高めていくスタンスだ。
その日はふたたび呼び出されるまで魔法の操作をしていた。




