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30,目撃

 最初の治癒を行ってから六日目で公子の体調は回復した。


「他に不調はございませんか?」

「ええ、もうすっかり」

 いつも通りの倦怠感のみと言われ、ほっとする。


「では念のため、一日開けて二度目の治癒を行いましょう」

「そんなに時間をかけていいのでしょうか?」

「もちろんです。急激な治癒は命に関わりますので」

 なぜそんなことを聞くのだろう。


「結婚を控える身であるから、聖女様はあまり長居もできないであろうと……」


 国王様ー!? そっくりそのまま伝えちゃったんですかそれ! 嘘でしょ!?


「誤解です、いえ誤解ではないのですが、冗談をふんだんに含んでますのでどうか本気には、いえ、その、治癒はしっかりさせていただきますので」

 手抜かりなく! しっかりと!


 取り繕うこともできずしどろもどろになってしまった。ジェラルド様にはああ言ったが、式が遅れる可能性についてもきちんと話し合っている。引き留められるのは困るが、正当な治癒期間はしっかりと務めさせていただく所存だ。私的な理由で途中で切り上げたりなどしない。


「それはありがたい」

 ふわりと柔らかく笑う公子を見て、別に彼も本気で言ったわけではなかったのだと気づき、さらに居た堪れなくなった。


「ついでにこっちで愛人を見繕う気は」

「微塵もありません」

 横からかかった別の声に即座にお断りする。いまだに男性を充てがう気でいたのかラスティン様。公国からのハニートラップとお見受けした。断固拒否だ。


「随分仲良くなったのだな」

「エルが寝こけてる間にな」


 誤解だ。仲良くなどなってない。不満な表情が出ないよう表情を保つのに苦労した。





 調子が狂う。

 自室でお茶を飲みながらエリーに愚痴を零したかった。だが室内には公国の侍女も控えているのでだらけた姿を晒すのも躊躇われる。彼女たちだけを追い出すわけにもいかない。


「少々散歩に出ます」

 結果、護衛を連れて部屋を出た。館内であれば事前許可なく自由に歩いていいと言われている。

 食事が合わないということはなかったが、丁寧な扱いに息が詰まりそうだった。王国でどれほど甘やかされていたのかを実感した。


「どちらへ向かわれますか?」

「特に決めてないんだけど……」

 人気のないとことへ行きたいと言えば、西棟を勧められた。


「部屋では安らげないかもしれないとアルバートに聞いておりましたので」

 事前に息抜きができるような場所を探してくれていたという。ここでも大変甘やかされていた。お礼を言えばお安い御用ですと涼しげな笑顔で返ってくる。


 王国騎士団に所属する彼女、シェルビアさんはアルバートさんの婚約者だ。紹介された時は美女と野獣のテーマソングが頭を流れた。男性の多い騎士の中に入れば小柄に見えるが、こうして並んでみるとスラリとした体躯に凛々しい立姿はとても頼もしく見える。落ち着いた所作に、自分とは正反対の人だなと思った。


 案内してくれた西棟は渡り廊下の先にあり、現在は使われていないという。

「は~肩が凝りました」

 シェルビアさん以外の目がないのをいいことに応接間であろう部屋のソファに寝転がった。その彼女は姿勢を崩すことなく側に控えている。職務中の騎士の横でぐうたらする聖女。居心地の悪さを感じてのそのそと起き上がった。だが力を抜いて座る姿勢からはまだ戻れそうもない。


(見知らぬ土地で過ごすのは王国でも同じだったけど、居心地がこうも違うものなのだな。)

 うちへ帰りたいと浮かべた場所が青年との住処であることにふふっと笑みが溢れた。


 不思議そうにしたシェルビアさんがこちらに尋ねようとしたが、一瞬で剣の柄に手をかけ周囲に目を走らせる。思わず息を潜めた。

 そのまま窓際へ近づき、下を覗き込んだところで人がいたようだと僅かに力を抜いて告げられる。危機察知能力が高い。

 つられて覗き込めばたしかに二人いた。使用人ではなく身分の高そうな服装をしている。片方に見覚えがあった私はそのまま凝視してしまった。


「見知った方ですか?」

「はい。先日会った公国の貴族令息だと思います」

 あの見事な金髪はなかなか見間違えようがない。もう一方の老齢の男性には見覚えがなかった。

「迎賓館の裏庭でなにをなさっているのでしょう」

 シェルビアさんの疑問はもっともだ。人目を忍ぶような怪しさ満点のシチュエーションだった。


「部屋に戻ります」

 彼への警戒心を段階上げして深く関わらないと決める。その相手がこちらに気づいていたと知らぬまま。





 ルーファス・ラスティンという青年に最初のような悪意こそ向けられないが、相変わらずこちらを伺う様子は消えない。

 十七歳になる公子の学友ならばそれに近い年頃だろう。だが歳下にしては随分と達観しているように見受けられた。


 公子の二度目の治癒を終え、翌日の体調を大幅に崩すことはないと確認した後、本格的に治癒の予定を組んだ。全身の魔障を緩和してから確認も含め部分的に魔道具を外していくことになる。


「最初から部位ごとには行えないのですか?」

 通常はそうだが、それは一度に広範囲を行える者がいないから部分的に進めているだけなのだと説明する。

「やはり聖女様は素晴らしいのですね」

「腕前であれば王国にはより素晴らしい方々がおりますよ」

 同意しかねるが否定もできないくて難しい。魔力量だけ飛び抜けた聖女はそれだけだ。



 十分に時間を置き三度目の治癒を終え、まだ全身の倦怠感に変わりはないが精神的に楽になったという公子と別れ、帰路に着く。相変わらずラスティン様は律儀に出迎え見送ってくれる。

 今日もいつも通り出口で別れるのかと思いきや、手を取り別れの挨拶をされた。

「救いの女神に感謝を」


 これまで一度たりともなかった、手の甲にキスを落とされる貴族の挨拶にぎょっとした。

 だがけして表には出さない。その態度が気に入らなかったのだろう。

「つまらんな」


 フン、と鼻を鳴らして踵を返す青年を見送りながら、馬車に乗り込んだら取られた手をすぐに魔法で綺麗にしようと誓う。


 乗り込む前にアルバートさんにハンカチで拭われた。

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