21,要請
「明朝、王城より使いが参ります。警備についても合わせてご説明しますので、今夜はこのままでご了承願いたく」
私たちの帰宅に合わせて尋ねてきた王城からの使者は、恭しく要件だけ伝えると帰って行った。
明日の勤務は昼からと伝言を受けたデイヴ様は難しい顔をしている。二人で迎え入れねばならないようだ。
家令も王城からの警備増強以外に詳しいことは聞いていないという。
「今日はとにかく休もう」
考えても仕方ないと、それぞれ部屋に切り上げた。
「今夜が遅いのに、明日も早くなってごめんね」
「それはカナメもでしょ。気にしないで」
朝に訪問では、通いのマーヴィー夫人では間に合わないかもしれない。
身を清め手早く寝る支度を整えながら、明日の服を選ぼうとするエリーを止めた。
「服は一番右にかかっているものにする。身支度の準備も広げておくから、エリーはもう休んで。遅くまでありがとう」
彼女はいまだに制服だ。少し考えたようだけれど、言い合う時間が無駄だと悟ったエリーはお礼と挨拶を告げて部屋へ戻った。
こういうところはお互い楽だと思っている。
日本ほどの寒暖差はないが、こちらにも四季はあり現在王国は肌寒い季節だ。布団を魔法で温めて眠りについた。
日の昇る前に支度を終え、少し眠たそうにしているデイヴ様が見れた私はそれだけで元気いっぱいになった。早起きは三文の得。
いつもならまだ夢の中にいる薄暗い時間に王城からの使いは来た。
第一王子のジェラルド様だった。
「早くからすまない」
応接間で受けた説明によると、先日隣国から正式に聖女への要請を受けたという。これまでも魔法士派遣の打診はあったが、はっきりと「聖女」を求めてきたのはそれが初めてだった。
「午前の謁見までに貴方に話を通しておきたくて無理を言った」
「構いません。詳しい内容をお聞きしても?」
「それが、公国へ赴き助力してほしいとしか言われていない。こちらの出方を伺っているのだろうが……もしくはそれほど切迫した状況なのか」
「公国は結界に守られているのですよね?」
その影響であの魔獣が押し寄せたのだ。
「ああ。国民に危機が迫っているという情報は入っていない」
ではなぜ聖女を必要とするのだろうか。魔道具の経費削減?まさか。
「それでは話になりませんね」
横で一緒に聞いていたデイヴ様が眉を顰めている。心配によるせいもあるのだろうと思えばにやけそうになる顔を必死で堪えた。
「詳細をお話いただけない以上は協力できないとお伝えください」
「あちらが話せば?」
「構いませんよ」
あまりにあっさりと私が了承したからか、殿下が僅かに動揺を見せた。こうしてみると毅然とした国王様はやはり国王様なのだなぁ。いや、私の前では結構オロオロしてた。
「本当にいいのか?」
「外交問題になっては困りますし、王国のためになるのであれば。ただし、あくまで協力です。一時的に力を貸すだけでこの国で行ったように長期に渡る根本的な問題解決はできません。その上で私に求めるものを教えてください」
ずっと自分が助けられるわけではない。それに、
「私はあと四ヶ月ほどで花嫁になる予定なので、個人的に長引くものは困ります」
笑顔で言えば、殿下は面食らったあと、頷いた。
「謁見後に協議をした上でまた伝えに来る」
厳重な警備については、引きこもる必要はないけれど万一に備え体制は強化しておきたいという。公国の使者が滞在している以外に心配事があるのだろう。私に否やはない。
しばらくは王城と魔法師団、教会へ行くくらいにしておこう。
あれ、いつもと大差ないな。
殿下を玄関ホールで見送ればすっかり日が昇っていた。
「先程のはわざとだろう」
「?」どれのことだ。
「花嫁のくだり。快く請け負えばこの国の王族を不安にさせるからと」
そういうつもりはなくもなかったけれど。
「楽しみにしてるのは本当ですからね……」
フォローするためだけではない。少々恨みがましい声になってしまった。
私好みのお顔でにっこりされたところで簡単に絆されたりは――――した。
「お二人とも、朝食になさいますか?」
ホールでそのまま立ち話をしていれば、出勤していたマーヴィー夫人に声をかけられた。
寝起きに軽くつまみはしたが、そこそこ空いている。でも睡魔もそこそこ。
「俺はもう一眠りする。昼と一緒にしてくれ」
「かしこまりました」
「二度寝いいですね……」
私もそうしようかな。
「一緒に寝るか?」
「大丈夫です!」
勢いよくお断りを入れてしまった。だって絶対に眠れるわけがない。寝顔を眺めて呻き悶えない自信もない。
軽い冗談が全力否定されたデイヴ様の繊細な心と夫人の微妙な表情には気づかず、私もお昼と一緒でとお願いした。




