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番外,かわいい比率

 手入れされた王城の庭は今日も芸術作品のようだ。元の世界にいる時から草花の種類には詳しくないけれど、綺麗なことは理解できるのでそれでよしとする。


「カナメには鮮やかな花も素朴な花も似合う」


 いいえ、花の精のようなあなた様に比べたら到底、なんて花に囲まれた小道を歩くデイヴ様に心の中で手を合わせた。

 さしずめ俺はエーデルワイスに焦がれるサンビタリアだな、と続いた言葉に、早急に草花について勉強しなければならないと決意した。花の意味とか絶対含んでる!

 反応から私が詳しくないと思い至ったのか、微笑ましそうな顔を向けられる。むず痒い。


 後日マナー講師に尋ねれば淑女の最大限の笑みで教えてくれた。

 高潔で大胆な私を見つめてくれるそうだ。カーッとなった。声に出ていて怒られた。



 日々のお迎えにそれとなく寄り道が増えた。王城の庭に降りたり、教会から馬車までの歩く距離が伸びたり。

 休憩中という言葉にただ甘えるわけにもいかず、仕事が忙しい時にはちゃんと伝えてほしいと頼んだ。一方的に寄りかかるような関係は好ましくない。



 ちなみにこの間は城下町デートもした。以前にも誘われていたらしいのだが、街でなにかほしいものや必要なものはないかと聞かれたので、ついでの買い出しかと判断したのだ。

 あとでエリーに指摘され、まさかと思っていたら先日、恥ずかしそうにデートしないかと誘われた。

 スマートなエスコート上手だと思っていた青年の意外な一面を見た。けして私の察しが悪いわけではないと主張したい。


 賑やかなお店を見て周り、半個室のような素敵な内装のカフェへ落ち着いた頃、魔獣討伐へ向かう際の改まった話は婚約破棄だと思ったと告白された。衝撃だった。

 しかしながら、王国の民になりたいと話す私にそうではない可能性も考えたそうだ。

 心配させるだけではなく、悩ませてしまったことをひたすら謝った。彼は気にするなと宥めてくれたけれど、あきらかにそれまでの不審な態度が原因だ。こちらが全面的に悪い。

 猛省する私にデイヴ様は、自分にも後ろめたいことがあるからあまり気に病まないでくれと言う。

 この清廉そうな青年に後ろめたいこととは一体。


 聞けば婚約期間についてだった。私の薄い知識通り、普通に貴族は半年だった。

 いざとなれば先に籍を入れてしまおうと考えていたと。まだ貴族事情に精通していない今が言い包めるチャンスだと。

 その思考回路、どこかで聞いたな。とある侍女を浮かべた。


 目の前の青年は本当に気まずそうにしているが、愛しか感じなかった。

 以前ならそこまでして聖女様を……と考えただろうけど、今は違うと知っている。知っているので喜びと羞恥の大波に襲われた。


 私の罪悪感を和らげるために自らの非(だと思っているようだが全然そんなものではない)を告白した彼に愛しさしか募らない。

 恋は盲目というが、大丈夫だろうか。このまま骨抜きのでろんでろんになりはしないか。テーブルの下で手を開閉し、力が入ることを確かめてしまった。



 エスコートをする際、腕を寄越していた彼は最近、手を差し出すようになった。

 マナーだからと慣れはしたけれど、違和感を拭えない私に合わせてくれているのだろう。そんなところにも愛を感じて、手を繋いで歩くのがお気に入りだ。

 貴族の彼と釣り合うように努力しなければ、その一方で、思いやられていることに幸せを感じる。

 そしてふと、王妃様のお言葉を思い出した。


 今も続いているお茶会で尋ねる。どちらの籍に入るかと。


「どちらでも構わない」

 なんと。

 デイヴ様は貴族の中の貴族として育ったと聞いている。聖女は特殊な立ち位置とはいえ、だからこそ今までの環境と同じとはいかないだろう。変化は意識的にも容易ではないはずだ。


 その分、私はどちらにも馴染みがないので彼に合わせることが自然に思えた。染まるのは変わるより易しい。

 貴族社会ではやっていけないと思っていたが、聖女がそれと無縁だとも思わない。

 どちらにせよ苦労はあるだろう。違うのはその大小くらい。


「ただ、こちらを気遣っているのならそれは不要だ。恥ずかしい話だが、俺は元々貴族社会に馴染めていないし未練もない。カナメの好きなようにするといい」

「……苦手なことを避けるのは、甘えではない?」

「まったく。必要のない障害ならなおさら」


 ただ苦労をすることが褒められるわけではない。カナメは少々真面目すぎるきらいがあるから、甘えと思うくらいが丁度いいのかもしれないな。


 神様仏様デイヴ様。私への評価が高すぎる。

幻覚が見えていたり精神に影響する魔法がかかっているのではあるまいな?世界を渡ったことにより、膨大な魔力だけではなく特殊なフィルターが存在するのではないかと心配だ。


「たとえ婿入りでも伯爵家と縁が切れるわけではない。カナメの家族が増えるだけだ」


 両親に兄と弟妹。義理とはいえ、目頭が熱くなった。彼はこちらの事情などとうに知っているのだろう。家族の話になるとことさら優しく話しかけてくれる。


 ここのところ、あまりに愛しく可愛いと思うことが増えた青年だが、こういうところはやはり年上の男性なのだと感じる。


 貴族の道は選ばずとも、無縁ではない。

 ご実家への挨拶、頑張ろう。



「息子さんを私にください」


 貴族風の言い回しがあるのならば学ばねば。

 盛大に恥じらうという大変貴重なデイヴ様が見られる未来を、私はまだ知らない。


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