自転車乗りは興味を持たれる
「これはお隣に住んでいる佐藤さんから聞いた話なんだけどさ……」
ついに隣のお宅に突撃しに行ったのかよ。それでも言わせてもらえば、ヒロトん家は1階の角部屋で、隣はずっと空き部屋だったじゃないか。とはいえヒロトだけが霊界の住人を見えている可能性も否定出来なくもない。ここは様子を見よう。
「自転車運転中に交差点で信号を変わるのを待っていたら、同じく待っていたおばあちゃんが、近寄ってきていきなり前輪のタイヤを触ってきたんだよ」
「怖っ‼︎ 止まっていたとはいえ、危険を顧みない行動だなぁ〜」
「そう思うだろ。そのおばあちゃんと出会う前の道中で犬のウンコ踏んでたら、その手どうするんだよ?」
「食事中に変な事を言うなよ‼︎ その前に犬のウンコは踏むなよ‼︎」
「いや踏んではいないけど、どちらにせよタイヤは汚いから無防備に触るなって話さ」
「わかるけどさ。で、そのタイヤ触ってきたおばあちゃんは、どうしたんだよ?」
「それがタイヤ触りながら、『このタイヤってパンクしないやつ?』って聞いてきたんだよ」
「……そんなん聞きたい為にタイヤ触ってくるのか?」
「俺が『普通にパンクしますよ』って返事したら『でも見るからにすごい自転車だよねぇ〜』って」
「そのおばあちゃん、どんだけ自転車に興味津々なんだよ‼︎ 生まれて初めてすごい自転車を見たみたいなワクワク感が丸出しだぞ」
「話を終わらせたい俺は『そうでもないですよ』って、そっけない返事をしたんだけど『どうせ何十万もするんでしょ?』って、ガンガン攻めてくるんだよ」
「うはぁ〜……どうせ赤信号を待つ時間潰しだろうけど、スゲ〜のに捕まったなぁ」
「俺が『そんなにしませんよ。せいぜい5万くらいです』って言うと『それでも高いわ』って」
「そもそも価値観なんて人それぞれのさじ加減だからなぁ〜」
「俺も意地になって『今はママチャリでも3〜4万しますよ』って言い返したら、『それでも高いね』って」
「不毛な戦いだなぁ」
「だんだん腹がたってきて『んじゃ2万』『まだ高いね』『んじゃ1万』『もう一声』……」
「なにその値引き合戦? そんな泥仕合をやっている間に、とっくに信号は青になっているよ」