自転車乗りは尻が痛くなる
「これは友達から聞いた話なんだけどさ……」
今日もその枕詞みたいな感じで話を始めるのね。いや、ヒロトのそういうブレないところは嫌いじゃないよ。初心を貫く頑なところは、ある意味個性だとは思うよ。
「自転車って長時間乗ってるとケツが痛くなるんだよ。そもそもなんでサドルはあんなに硬いんだろうか?」
そう言いながらヒロトは尾骶骨のあたりをさすっている。つか、尻を触っている時点で、もう友達の話じゃないやん‼︎ ヒロトの話やん‼︎とツッコもうかと思ったが、急に痔になった可能性も否定出来なくもない。ここは様子を見よう。
「サドルに興味にないし、よくわからんよ。そんなに言うなら柔らかいサドルに変えればいいやん」
「俺も最初はそう思ったよ」
「んじゃ、この問題も解決やん。俺に話す事でもないやん」
「それがそうでもないんだよ。あまりにケツが痛いので、毎日自転車を乗るのは無理だなぁ〜と諦めていて、ふとネットで『尻が痛くならない方法』を調べて見たのさ」
「どんだけ乗りたいんだよ」
「すると『尻にサドルを合わせるのではなく、硬いサドルに尻を合わせなさい』って書いてあるんだよ」
「なに、その逆転の発想‼︎」
「つまり、体を鍛えろというのさ。休んで痛みを無くすのではなく、鍛えて尻の痛みを無くす。……スッと心に浸透したね〜」
「ちょろいな。どんだけネットの情報を鵜呑みにするんだよ‼︎」
「これで、毎日自転車に乗ろうという意欲が出たんだよ。郷に入れば郷に従えって事だよな」
「郷ではないけどな。たんにヒロトが運動不足なだけだよな」
「ただ一つ問題があるんだよ」
「ん?数日は痛いのを我慢して、尻の筋肉をつけるしかないんだろ?」
「そうじゃなくて」
「んじゃ、なんだよ?」
「……俺の痔がいつまで、もってくれるかって話だよ」