自転車乗りは後ろを見ない(その3)
「これは余談なんだけど、俺が自転車専用道路を走っていた時……」
ヒロトは、まだ言い足りないのだろうか?この件は語り尽くしたように思えたけど、これ以上何があるのだろうか?ここは様子を見よう。
「いきなり歩道からおばちゃんが運転している自転車が割り込んできたのさ。この場所は、歩道と自転車専用道路の間には植木地帯があり、目線を隠すくらいの中木で視界を封じている。だから、植木地帯が一瞬途切れた場所からいきなり車線変更をしてきた自転車を、俺は予測出来なかったんだ。今思えばこのエリアを危険だとは認識していなかったのさ」
「何にせよ、いきなり飛び出してきたら、そりゃビビるよな」
「俺は通常時速15〜20kmで走行しているんだが、そんな俺が急ブレーキを使って急停止するほど本当にやばいタイミングだった。本当にぶつかると思ったよ。そのくらいの飛び出し方を、このおばちゃんはしてきたんだよ」
「……」
「そして、その急ブレーキ音に気づいたのか?……おばちゃんは反射的に『ごめんなさい』と言ったんだ」
「ん?それのどこが問題なの? 確かに、おばちゃんが確認を怠って進路に割り込んで来たのは悪いことだけど、その後にちゃんと謝っているじゃないか?」
「問題は、俺の状況を確認せず、俺の顔も見ず、後ろもふり向かず、止まりもせずに、前方に走り去りながら『ごめんなさい』と言ったんだよ」
「おいおい……うそだろ⁉︎」
「行動と言動が一致していない。こんな薄っぺらい謝罪の方法があるか?仮に俺が転倒していたら?俺がもっと幼い子供だったら?」
「……ゾッとするなぁ〜」
「もっといえば、俺の反応が少しでも遅れていたら、完全に衝突していたんだよ。おばちゃんはノーブレーキでなんの被害を被ってないんだから、危険に対する自覚がないんだ。自身が無事だから、相手の確認もせずにその場を去る。……久しぶりに内なる闘志を燃やしたね」
「内なる闘志で留まってよかったよ。追いかけて文句言っても何にもならんしな」
「だから、この苛立ちをお前にぶつけさせろよ」
「嫌だよ! とんだとばっちりだよ!」