自転車乗りは後ろを見ない(その1)
「これは俺自ら街頭インタビューで聞いた話なんだけどさ……」
人見知りのヒロトがアクティブに見知らぬ人に声かけられるわけがないやん。とはいえ『RPGゲームの最初の街で話を聞きまくった』というオチの可能性も否定出来なくはない。ここは様子を見よう。
「不本意だけど、自転車乗りは安全確認をしない連中の方が多いと言わざるを得ない」
「仕方ないよ。意識しながら走ってるっている人なんて殆どいないんじゃないか?」
「おいおい『仕方ない』で済ますなよ。それを言うたら俺の話が終わっちゃうよ」
「ごめんごめん」
ヒロトにとって『仕方ない』はどうやら禁句だったようだ。確かに最初から諦めてしまっては何も始まらない。
「話を続けるぞ。安全確認のうち、最も怠っているのは後方確認だと思っている」
「ふむふむ」
「これは自転車に乗る上で、人間の体の構造上の問題でもあるんだ」
「ん?」
「実際に両手をハンドルを握り正面で固定されたら、首は後ろまで回らないだろ?」
「た、確かに肩越しに見れても、すぐ後ろの1〜2m近辺くらいだな」
「完全に背後を見るには、腰を捻り肩を捻って初めて真後ろが確認出来る。でも自転車走行中にそんな動きをずっと維持するのは無理がある。出来ても一瞬だよな」
「そうだろうね」
「結果的に、実際に自転車乗りが気にしているのは正面だけ。左右確認すら殆どしないね」
「なんでそこまで言い切れるんだよ」
「俺が何人との自転車乗りと遭遇したと思っているんだよ。そいつらをあらゆる角度から観察した結果による統計なんだよ。膨大な蓄積によるビックデータなんだよ」
「パーソナルデータの間違いだろ。いちいち大袈裟だよ」
「例えば、左右の確認をする際でも目の動きだけではフォロー出来ない。どうしたって首を振る動作が必要になる。つまり後ろ姿からでも相手の頭の動きだけを見れば確認しているか、いないかはわかるのさ」
「な、なるほど」
「前方の交差点の左から走ってくる自転車が道路をノンストップで横断する。道路の左側を走っている自転車が右折したいが為にショットカットで道路を横切る。そういう連中は、まず左右背後の安全確認は絶対にしない。あるとすれば正面確認だけさ」
「それは流石に言い過ぎでは?」
「そうでもないさ。安全を意識しているやつならば、横断歩道の前でスピードを落とすなり、一旦停止する。交通量のある道路なら尚更さ」
「……それでも中には後ろを見ている人もいるだろう?」
「いるにはいるさ。でもそういう人でも後ろを確認してはいないのさ」
「は?」
「正確には後ろを確認している風に見せているだけ」
「な、なんでそんなことがわかるんだよ?」
「簡単な事さ。安全確認って事はさ、言い換えれば危険確認だよな。でも後ろを見ている時、自転車に乗っている奴らは同時に移動している。後方を確認すると言いながら、すでに進路を変えて車道に侵入しているんだよ。これはもう確認じゃないだろ?ただのアピールだよ。見せかけだよ」