自転車乗りのプライド
「これは果し合いの書状をもらった時の話なんだが……」
は?ヒロトは何を言い出すんだ? この現代において『果し合い』なんてものが存在するのか? とはいえ、知り合いとかお見合いとかの言い間違いという可能性も否定出来なくもない。ここは様子を見よう。
「交差点の横断歩道で信号待ちをしていたら、後ろから来た高校生の自転車乗りが
自分の止めているすぐ横に止めてきたんだよ。そして青に変わると同時に、スパートして走って行ったんだよ」
「もしかして……競争したのか?」
「するわけないだろ。俺はマイペースで進んだよ。だけど、その高校生との距離はつかず離れすの距離で進んでいったのさ」
「なら、よかったよ(だが嫌な予感がする)」
「しばらく進むと、また交差点があり赤になった。高校生はその赤で止まっていたので、追いついたんだ。そして今度は俺が高校生の隣に自転車を止めてやったのさ」
「あちゃ〜」
「さっきお前が俺に対してやった事をそのままそっくりやり返してやるよ!っていう無言のプレッシャーを相手にかけてやったわ」
「なにやってんの〜‼︎ 低次元すぎるわ」
「そいつにしてみれば、挑発されたと思ったんだろうな」
「いや、実際に挑発してるやん。(正確にはヒロトが先に挑発されたんだけどな)」
「そしたらどうしたと思う?その高校生」
「知らないよ。どうしたんだよ?」
「信号が青になった途端、今度はものすごいスピードで走り去っていったんだよ。腹が立ったか、怖くなったか、よくわからんけど……一つ言えることは、俺と同じ場所には居たくないって事だろうな?」
「はぅ」
「当然、俺は追いかけるつもりはないから、今度は差がどんどんついていったよ。……どうしても抜かれたくなかったんだろうな〜」
「そもそもさ……高校生が先にヒロトを抜いたのに、逆に抜かれたくないってどういう心理だよ?」
「そいつのちっぽけなプライドなんて知るわけないじゃないか」
「まぁ〜そうだけどな」
「……ところがだよ」
「ま、まだ、なんかあるの?」
「かなり先の交差点の信号が赤になったんだ。肉眼では小さくしか見えない高校生はそれでも、また俺に追いつかれると思ったんだろうね。完全な赤なのに、信号無視して突っ走っていったよ」
「あ〜完全にヒロトの亡霊に取り憑かれているよ。さすがにやりすぎだよ」
「お、俺が悪いのかよ?」
「どっちもどっちだよ」