自転車乗りの三大敵(その4)
「実は三魔神にはまだ奥の手があるんだよ」
「ま、ま、まだあるの? つか、どんだけラスボス感あるんだよ? どんだけ最終形態変えてくるんだよ?」
ヒロトが、これまで語ってきた話はたしかに『最強の敵』というだけの事はあった。それならば、これ以上なにがあるというのだ? とはいえ魔神が2人出てきたのだから、とうとう最後の3人目の魔神が登場するかもしれない。……ここは様子を見よう。
「まず強風の翌日は木枝、落ち葉、ゴミがそこら中に落ちている。いつもの見慣れたはずの走りやすい道路が一転して、障害物レースになるんだよ」
「そ、それは、たしかに大変だわ」
「雨の翌日、水捌けの悪い道路によっては水たまりがあるんだ」
「まぁ〜そりゃあるんだろうな」
「そして俺の乗っているクロスバイクは以前説明したように、軽量化のためにタイヤカバーとチェーンカバーが無いんだよ」
「それと水たまりとどう関係があるんだよ?」
「カバーが無い状態で水たまりに入ると、タイヤが水車のように水を運び上げるんだよ‼︎」
「え?」
「そして、跳ね上がった水しぶきは、ちょうど俺の体を綺麗に縦半分に分ける泥水ラインと化す」
「アハハハ。泥水に体を綺麗に真っ二つにされるって面白すぎだろ‼︎」
「ママチャリならカバーついてるから、こんな被害は受けない」
「軽量化の弱点がまさかそんなところにあるとはなぁ〜」
「そして風にまつわる最後のエピソードだ」
……とうとう登場するのか?最後の魔神が?
「強風時に裏道を走っている時に、目の前にカラーコーン(赤くて三角な注意を促す工事用&警備用備品)が道の真ん中に転げ落ちていたんだよ。
「相当、風が強かったんだなぁ〜」
「自転車だから、カラーコーン1個くらいなら避ければ通れたんだよ。だからそのまま素通りしてもよかったんだ。それでも俺は反射的に自転車を降りて、道路に落ちているカラーコーンを端に寄せたのさ」
あれ?(風の話だけに)どうやら風向きが変わってきた気がする。
「そして、再び自転車に乗ろうとした瞬間、後ろから来ていたトラックの運ちゃんと目があったんだ。すると、その運ちゃんは俺に向かって親指立てて『グッジョブ』のポーズをしてくれたよ」
「それで?」
「それだけだよ」
「なにその良い話‼︎ てっきりオチでとんでもないヤツ出てきて『最後の魔神登場』
っていう流れじゃないの?」
「ないよ」
「最後にヒロトが良い人で終わるって、どんなオチだよ‼︎」
「風の話だけに『気まま』なんだよ」
「もういいわ」