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自転車乗りの三大敵(その1)

「ついにこの話をする時が来たようだな」


ヒロトはいつも調子に乗っているが、今日は特にその態度が際立っていた。ドヤ顔ならぬドヤ姿勢である。食堂内で座っている椅子の脚の前2つを上げ、背後にバランスよくそっくり返っている。まるでエビ反りのような姿勢は逆に苦しいのではないか?。ちょっとでも押したらひっくり返ること間違いなしだが、ここは様子を見よう。



「なに、その満を持してのドヤ姿勢。いうほど期待してないけど」


「今回は俺の考える克服すべき難敵についてだ。これは自転車乗りにとって永遠のテーマだと言ってもいいだろう」


「壮大な話だな」


「ちなみに俺はこれを三魔神と呼んでいる」


「途端に中二病に成り下がったな」


「まず先鋒は『坂』だ。これが自転車乗りにとって辛い敵なのだ」


「先鋒って、完全にバトルマンガのノリだよな」


「登り坂を舐めるなよ‼︎ 目の前に現れただけで圧倒的な存在だぞ」


「舐めてはいないよ」


「実際、登りに消費する体力は平坦とは比べものにならない。更にスピードが落ちるからバランスも不安定なんだよ」


「前に言ってたもんな。自転車は推進力が伴って初めて安定するって」


「あまりに急勾配だったり、延々と続く事で、更に心を折りにくるんだよ。ここで降りて歩いたほうが楽なんじゃないかという葛藤との戦いなんだ」


「もう、それ坂と戦ってないやん。己と戦っているやん」


「だからこそ今の力を試される瞬間なのさ。初心者の頃では登りきれなかった、挑戦する事さえ躊躇っていた坂に挑む。それはまさしく自分を超えるための試練なのさ」


「大袈裟だなぁ〜」


「そうでもないさ。試練としては割と手っ取り早い方法なんだと思うよ。前回はとても苦しかったのに、今回は苦しさが半減した。それは自分が強くなっている証拠なんだよ」


「まぁ〜平坦な道で己の成長はわかりにくいよな」


「平坦で言えばタイムアタックがそれにあたるけど、一般道では実質不可能だからな」


「たしかに」


ヒロトの言い分は間違っていない。ただ言い方が自己陶酔すぎて、なんか腹たつ。



「更に厄介なことがある」


……ヒロトのそのエビ反りの格好が、すでに厄介だけどな



「坂を登っている途中でくだって来るおばちゃん自転車とすれ違うことがあったんだ」


「ほぉほぉ」


「それほど広くない歩道さ。だが向こうは下りだからいつもよりスピードが出ている。対してこっちは必死のペダル漕ぎ。そして運が悪いことに、ちょうどすれ違うであろう場所に電柱が立っていて、更に道幅が狭くなっていた」


「もう嫌な予感しかしないんだけど(ヒロトの座っている椅子の傾きも嫌な予感しかしない)」


「客観的に考えて、2台の自転車がスピードを緩めずにすれ違うことの出来ない狭い道幅ならば、道を譲るのは下りの方だと思うのさ」


「なるほどね。オチが読めたよ」


「そもそも車道の左側の歩道を利用している時点で俺の方ががある。まして登りだよ。止まった後の坂道でのゼロ発進がどれほど辛いかは、自転車乗りなら誰でもわかるはずさ。それでもおばちゃんはこっちを無視してスピードを落とさす降りてきた。仕方なく、俺は止まったよ……登り坂の途中で」


「こればっかりはヒロトに同情するよ」


「俺はすれ違いざまにおばちゃんに視線を向けたが、無関心だったわ」


「坂じゃなく、そのおばちゃんが『魔神』だわ」

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