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自転車乗りは止まりたくない

緑に囲まれた郊外のオープンキャンパス。昼になると決まってヒロトと一緒にこの食堂に入りびたる。そしていつものたわいもない会話が今日も始まるのだ。



「これは友達から聞いた話なんだけどさ……」


ヒロトのこういうベタな始まり方の場合、自分の話を他人事のように話している傾向が高い。この場合、ソコには触れず素直に話に乗っかるべきなんだろうか? 速攻ツッコむべきなのだろうか? ただ最近は『ノリツッコみをしない漫才』も流行っているらしい。ここは様子を見よう。



「友達がサイクリングを始めたらしいんだよ。で色々と気になる事があるらしい」


「そうなんだ」


「自転車乗りは危機的状況においても止まらないのさ」


「ん?どういう事?」


「公道を走っているわけだから、当然自転車を乗っている人ともすれ違うだろ?そういう連中は止まらないのさ」


「止まらないの意味がわからないんだけど」


「そのままだよ。ぶつかりそうになっても止まらない。目の前の信号が赤になっていたら、スピードを緩めて青になるタイミングまでノロノロ運転で耐えている」


「あぁ〜自転車あるある話か」


「止まりたくない原因は2つあると思うんだ」


「ほぉ〜」


「一つは、自転車の構造的問題。推進力があって初めて安定する自転車は、スタート時と停止時が一番バランスが取りづらい」


「なるほど」


「もう一つは安全意識が弱い。危機管理が乏しい」


「まぁ〜車みたいに免許制じゃないもんな」



もっとふざけた事を言ってくるのかと思っていたが結構マジな話だった。こんな内容ならわざわざ『友達から聞いた』なんて遠回しな言い方をしなくてもいいのに。


「走行時に、俺の迷惑にならなければ誰であっても別になにをやってもいいとは思うよ。でも、目の前に立ち塞がる危険に対しては怒らずにはいられないのさ」


……もうこれヒロトの話だよね。『俺』とか言ってるよね……とは思ったがツッコむのは止めた。ところが話はここで終わらない。



「そして最も厄介なのは、相手に注意してもこの行為に自覚がないから反省しないんだよ」


「え?注意したの⁉︎」


「いや、してないけど」


「しなくてよかったよ。余計なトラブルに発展しそうだし」


「でも返事は割と想像出来るさ。どうせ『私だけじゃない』とか『法律で罰せられるのか?』とかだね」


「あぁ〜それ、正論に対しての反論あるあるだよ。で、ちなみにそう言われたらどうするん?」


「当然、考えているよ。いいか〜聞いて驚けよ‼︎」


「自らハードル上げてきたよ‼︎」




「失った命は法律ですら生き返らす事は出来ないんだよ‼︎」


そう言い切ったヒロトは、まるで強攻撃クリティカルヒットを決めたような満足そうな顔をしている。



「……ドヤ顔決めているところで悪いけど、それはみんな知っていると思うけど」


「法律の問題じゃないんだよ。命の問題なんだよ」


「わかっているよ」


「俺はこれで今年の流行語大賞を狙っているんだよ」


「狙うなよ‼︎」


「このたび僭越せんえつながら私の発言が流行語大賞になったことを大変嬉しく思います」


「なんで急に授賞式のインタビューみたいな話にすり替わっているんだよ‼︎」


「何事も先を見越す事が大事なのさ。事象じしょう受賞じゅしょうも」


「うまくないわ‼︎」



……最後の方は話が脱線したが、それでもヒロトの言いたい事はなんとなくわかったような気がした。事故は自己責任では済まされない。相手を、周囲を、巻き込む可能性がある。だからこそ自転車の運転についてあらためて問題提起をしているように思えた。


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