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9 レンジ

「今日はパパもお仕事だし、お昼はお弁当を公園で食べようか」

買い物カゴをレジのカウンターに置くママ。

「パパに会いたいです」

ぼやくげん。

無理もない、げんが起きた時にはパパはもう仕事に行ってしまっているのだし、夜も遅かったりして会えない日が続いているのだ。

パパはしがない普通のサラリーマン。

ちょっと通勤は遠いけど、給料が良いからと毎日片道2時間かけて、マンモス列車に乗って通っている。

今日は休日出勤だと言って朝早くから出勤してしまった。

出来ればもう少し、家事や育児にも協力をしてほしいし、日曜には遊びに連れてってくれたりとかしてほしいところだが、不況の影響でここのところ良く話題に昇る、社員の解雇や労働時間の短縮。賃金の大幅カットなんかを考えてみれば、多少仕方ない部分もあるのかもしれない。

むしろ、ろくに休みもせず、朝から晩まで働いて自分達を養ってくれているパパと、不況にも関わらず忙しそうなパパの会社に感謝のひとつもしなくてはならないかもしれない。

「ま、もう一品なんか作っとけばいっか」

これが大部分の主婦の感謝方である。


「お弁当は温めますか?」

お弁当を両手に持ち、レジのお姉ちゃんが問いかけてきた。

「ん〜…どうしようかなぁ…」

ママが悩んでいるのには理由がある。

レンジが好きでないのだ。

あれだけはちょっと…しかし、温めたお弁当は確かにおいしい。

くやしいがうまいのだ!

でも…ん〜…

「げんちゃんどうする?」

考えあぐねてげんに振った。

「温めるですー」

「…お願いします」

「かしこまりました。レンジお願いしまーす!」

げんの一声で渋々お願いをすると、店員は大きな声で店の奥に言った。

「はい!只今参りまーす!」

大きな声で返事をするとともに現れたのは、お腹がでっぷりと出て、髪が薄い汗ばんだ色白の白ブタ…

じゃなくて、中年男性二人。

「様は見なきゃいいのよね」

ボソッとママは呟くと、うつむいて目を上げないようにした。

「こちらのお弁当お願いします」

「はい、少々お待ち下さい」

店員から受け渡されたお弁当を手に取ると、そのまま男達は向き合い、見つめ合い、息を荒くした。

しかめた顔をしてうつむいたままのママ。

申し訳ありませんが、ここからはママの心の声をお聞かせしましょう。

「…なんかハアハア言ってる〜!…ネチョネチョって音何っ!?…今、ウッて!?…フウー!フウー!て、何っ?鼻息っ!?…ヌチュヌチュッ!?…凄っ!まだっ?まだなのっ!?…なんか小刻みな振動が来るっ!ハァハァが凄すぎっ!…いいい…嫌ぁぁぁぁ〜っ!」


チン!


「ハァ…ハァ…お待たせしましたぁ…ん…」

どことなく幸福感の吐息が入り交じった声。

「ど…どうも」

顔を上げようとしないで受け取ろうとするママ。

「あっ!パパです!」

「えっ!?」

ガバッと顔を上げるママ!

目の前には汗だくの白ブ…

じゃなくて、良く見馴れた人物、パパが居た!

「パ!…パパパパパ…パパぁ!?」

「ハァ…えっ?あぁぁぁぁーーっ!ママとげんっ!?」

白ブ…

じゃなくて、パパの赤みがかった恍惚の笑みが一瞬にして青くなる!

「パ…パパ…なななな、何…してるの?」

差し出した手をそのままに、やっとの思いでパパに問うママ!

そう、今日は仕事に行ったはずである。

「な、何って…。し、しごっ…仕事…だよ」


そうそう、いやぁ、働く男の汗って輝いてますよね。

自分の肩には妻と子が…て思うと、どんなに辛くきつい仕事でもやり抜けますよね〜。


…て、いやいや!そうじゃなくって!


パパさん?



もっと陽に当たれーっ!!

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