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鏡道103号と天気の道。  作者: 若木ももすけ
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菱形の心

彼らは見た。夕花に迫りくる、化け物の正体を。それは夕花から出てきた「人」のような物だった。



黒く、顔が殆ど見えない「それ」は、夕花の体から抜け出て、近くを通った人からも何かを吸い上げている。



しかし、吸い上げられた人は倒れていない所を見ると、命には影響していないらしい。



「…ど、どうしよう…菊丸…っ!」




焦り出した小鬼丸は、菊丸に聞いてみようとするものの、菊丸はまるで感情が無いかのように、動かない。




「えっ…?ね、ねぇ…菊丸、どうしたの…!」




肩を揺さぶって意識が戻るのかと思いきや、菊丸はただ首を揺らしていた。小鬼丸はまさか、と思い夕花の方を見ると夕花も、菊丸と同じようになっていた。




雨は少し強くなっていた。小鬼丸はぎゅっと刀を握り、化け物の方へと歩き出していた。




___自分が、やらなきゃ。そう小鬼丸は言い聞かせて、静かに刀を抜いた。手が震え、化け物へと一歩ずつ足を近づけた。



小鬼丸が、その化け物に刀を振りかざそうとしたその瞬間だった。




____ザシュッ。




目の前で、黒い人形が切れ、霧が発生した。小鬼丸は何が起きたのかわからず、その黒い塊に思わず手を伸ばした。


すると、その塊は小さな赤ん坊の姿になったのだ。小鬼丸は放心状態で、その赤ん坊を抱きしめる。




「…まだ、こんなにちいさいのに…」




ポロポロと涙を溢し、血まみれになってしまった赤ん坊を見る。




その横で、小鬼丸に何者かが銃を向けた。





「…っ!だ、れです、か…」





か細い声で聞いた小鬼丸に、銃を向けたままの「誰か」が、冷たく言い放った。





「…それは君の中にも居る奴さ。「己の無力さ」…それを具現化したのがそいつだ。」





己の、無力さ…。小鬼丸は心の中でその言葉を何度も繰り返した。何時も周りから言われて放題の自分のようだ。




「…せんせい、だったらおれにだって、いるはずなのにどうして…でてこないんですか…」





先生、と言われたその人物は小鬼丸や菊丸の勉強を教えている「藤丸」だった。藤丸は、小鬼丸の問いにこう答えた。




「…この世界では、人間の「負」の感情を具現化した、化け物が人ごと存在を蝕んで行く。そうなっては過去の僕たちも存在が消されてしまう…だから、選ばれた。」




藤丸はそう答えて、小鬼丸の抱えていた赤ん坊を消した。





小鬼丸は言葉が出ず、ただ藤丸が赤ん坊を狩っている様子を見ることしか出来なかった。


何故…おれが選ばれたんだろう…それしか頭になかった。




藤丸が銃を抱えて何処かへと行った後、小鬼丸は刀を握りしめて、涙をまた流していた。気が付いた菊丸と夕花が小鬼丸に声をかけるものの、小鬼丸にはその事実が重すぎたのだろう。



--



「…そっか…そんな事があったんだね…」




小鬼丸から聞いた情報に夕花は声を小さくする。菊丸もまた、何も言えずにいた。ただ、小鬼丸は決心をしていた。




「…おれ、たたかう…!夕花さんのためにも、じぶんのためにも…!」




何故小鬼丸がそこまでして戦おうと思ったのか。菊丸は分からず、小鬼丸に尋ねた。自分の身が危険にさらされてしまうというのに。もしかしたら、まだ元の世界に戻れば沢山出来る事が有るかもしれない。




「…おれ、もどったってなにもない、から…」




その言葉の意味が不意に分かった菊丸は、小鬼丸が怖いと感じた。刀を持ち、風に髪の毛をなびかせる小鬼丸の目は、決心がついたようにも見えるが、菊丸には今にも死んでしまうのではないか、と思えた。




「…だったら、おれもたたかうぜ!」




元気よく答えた菊丸は、小鬼丸の手をぎゅっと握った。大切な友の為、そう考えた菊丸は小鬼丸と共に戦うと決心をした。


その様子を横で見ていた夕花は、無理にやる必要はないと止めたものの、気にする事はないと二人に言われ、




「…しょうがないかな、まっ、私にも出来る事があったら言ってみてよ。やってみるからさ。」




夕花も二人のサポートをする、という形で戦う事が決まった。しかし、小鬼丸と菊丸にはまだ気がかりな事があった。それは、藤丸の事である。「負」の感情を倒していくうちに、やがて藤丸とも会うことになるだろう。



何故、藤丸は戦っているのか。どうして、先生にもなったのか。…そして、どうしてそんなに冷たいのか。



考えても分からない事だと呟いた小鬼丸に、菊丸は先生に似たなぁ、と言うと小鬼丸は気のせいだと言い返してきたらしい。



--



翌日、小鬼丸と菊丸の二人は夕花の部屋のクローゼットから自分達の街へと帰れる事を知った。再びそこから戻った二人だったが、特に何も言われなかったので少し安心したらしいが、それっきり勉強会には行かずに、武器を使う練習をするようになった…との事。



藤丸はそんな二人に特に何も文を送ったり、家を訪ねることもしなかったが、少し焦りを感じてきたのだ。




「…絶対に、邪魔はさせない。これは…僕にしか出来ない事だから…。」




そんな事を呟く藤丸に、義理の兄である蓮丸は何度か休むように命じたが一回も聞いてもらえず、寂しそうに藤丸を見ていた。




菊丸にもまた、双子の弟であった琴丸が居た。家にいる時間が減った兄に、何も言えなかった琴丸は密かに「負」の感情を抱くようになっていった。

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