壊れた世界で出会った少女 2
今すぐ帰れという思いを込めて、何も言わずにドアに手を伸ばす。
きっとまだ悪夢が続いているんだろう。お布団に戻って夢から覚めよう。
そう考えた所で少女の後ろ、10メートル程離れた木の影から別の女性が出てくるのを見た。
目の前の派手な少女よりもやや年上に見える。俺と同じ20代だろう。
肌をほとんど露出させない、全身を覆う黒い装束を身につけている。動きやすさを重視しているのか、無駄な装飾はどこにも見当たらない。その衣装の所々に黒い染みが見える。あれは恐らく血の跡だ。俺の家へと辿り着く前に、多くの敵と戦った後なのだろう。
彼女の黒髪はショートカットに切りそろえられており、その下からは険しい視線が覗いていた。
魔王を倒す旅の途中で一度、似たような格好をした男と出会ったことがあった。
この大陸より遥か離れた地、東方世界特有のジョブであるニンジャ・クラン特有の衣装だと聞いている。
彼は目立った武器こそ持ってはいなかったが、数多くの暗器と優れた体術を有していた。もし彼女も同じニンジャだとしたら、魔法使いの俺との相性は最悪だ。この距離ならば俺の詠唱よりも早く、彼女は俺を斬るだろう。
わざわざ俺から見える位置に立っているということは、彼女は今のところは俺の敵ではなく、目の前のメイシャの護衛のようなものなのだろう。この荒れ果てた世界の中でどうやってメイシャがここまで辿り着けたのか、その理由がわかった。
と、自身ではなく後ろのニンジャ(仮)を俺が見つめていることに気が付いたのか、メイシャが抗議の声を上げた。
「ちょっと、なにぼーっとしてるのよ!いつまでここで待たせる気なの?まずは私を家に上げるとか、そういった気遣いはないの!?」
横暴である。
今すぐにドアを閉じてこの場から離れたい衝動に駆られるが、後ろのニンジャがそれを許してくれるかはわからない。
あまりの状況に俺が固まりかけてる所にまた別の声が響いた。
「まあ少し待ちなされ、メイシャ様。物事を頼む相手にそのような言葉遣いをしてはいけないと教えたはずですぞ。」
初老の男性の声。どこから聞こえたのかはわからないが、その声の主を俺はよく知っていた。
「もしかして、アルベルタ様ですか!??」
「ああ、そうじゃ。久しぶりじゃのう。」
俺の質問にその声の主は優しく答えた。
大魔導士アルベルタ様。
ここより西方の国であるルザリアの魔法大臣であり、まだ何も知らなかった俺たちに生き抜くための術を教えてくれた方。
俺が魔王に負けた後も復讐心ではなく敬意を持ち続けた数少ない人物だ。
姿こそ見えないが彼もあの決戦を生き残り、メイシャを連れて俺の元へと来たのだろう。
そうと知って安堵感か身を包んだ。
「唐突な話で済まないが、今日は君に依頼があって来たんじゃ。この娘、メイシャをしばらくの間守って欲しい。」
再開を喜ぶ間も殆ど無いまま、アルベルタ様は真剣な口調で話を続けた。