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アイドル誕生

「━━━━っっっっ!?」


 突然体に衝撃が走り、たたらを踏んで後退する。


 練り上げた風の術力が雲散霧消していく。


 一体何が起こった? 


 何をされた?


 燃えるように熱い左肩に触れると、鋭い激痛が走った。

 手を見ると、赤黒い血でべったりと濡れている。

 脂汗を流しながら顔を上げると、コーイチが手に持った何かをこちらに向けている。

 あれは……。


「それは……見たことがあるな……。術を阻害する、呪われた金属である鉄と鉛……。それらをふんだんに使っている異世界の武器だな……」


 以前、別の異邦人が持っているのを見たことがあった。

 宝嵐に混ざって降ってくる事もあるようだが……使う所は見たことが無かったし、無論自分が使われるのも初めてだ。


 私にも生術の素質がある。

 本来この程度の怪我なら、生術を使用すればあっという間に血が止まり、傷も塞がるはずなのだが……血は止まるどころか一層流れ出し続け、生術を発動する事すらできず、体は一秒ごとに重くなっていく。


 これが異世界の……呪われた武器の力なのか。


 それに、あの武器を構えたコーイチの隙の無さといったら。

 先ほどまでの彼の戦いは、未熟な剣技で一生懸命食い下がる、熱意と才能に溢れる新人騎士のそれに過ぎなかった。


 それが今はどうだ。


 彼の放つ研ぎ澄まされた殺気。

 一切の油断を感じさせない、僅かな前触れも見逃さぬであろう鋭い眼光。

 まるで歴戦の古強者を思わせるオーラは、一歩でも前に出たら殺される、そう私に確信させるほどの説得力を持っていた。


「何者だ……」

 目の前の人物が、ほんの数秒前とはまるで別人のように感じた私は、自然とそう口にしていた。

「僕は関谷幸一です。ミレイユさん、今すぐ撤退して下さい」


◇◇◇


 シングルアクション・アーミー。

 西部劇でお馴染みの、コルト社が生み出した回転式拳銃の傑作。

 これが俺の本当の「奥の手」だった。

 剣を弾かれた……いや、()()()()瞬間、腰のホルスターに差したSAAを「早撃ち」したのだ。


 グランチに説明して探してもらったのは、まさしく「銃」だった。


 元の世界でプロデューサーをしていた頃は、もう二度と使わないと心に誓っていた。

 しかし……この世界ではそうも言っていられない。

 ここは異世界であり、日本ではない。

 いや、日本にいてすらラインの乙女は危険な目に遭ったのだ。

 怪物が街の外を跋扈し、術を使う一騎当千のならず者共が街中に潜むこの世界では、使える物は全て使わなければ、自分も含めて、誰も守ることが出来ないのだと。

 新たなる未来を掴み取る為に、自らの暗い過去に向き合う必要があるのなら、俺はもう逃げる事はしない。

 トリラーレを、俺の大切な人たちを守る為なら、瞬きをするよりも早く、鉛玉を打ち込んでやる。

 だが、それでも出来る事なら──


「貴方を殺したくはない。今すぐ引いて下さい。すぐに手当てすれば、後遺症なども残らないはずです」

「ふざけるな……っ! 殺せ! 誇りある帝国騎士に生き恥を晒せというのか!」

「そうだ! 死んで楽になろうなんて、無責任な甘ちゃんのすることだと思いますがね!」

「くっ……そ……っっ!!」


 ミレイユはおぼつかない足取りでこちらに一歩踏み出す。

 俺はすかさず発砲し、彼女の剣を弾き飛ばす。


「ぐっっっ……」

「もう一度言います。撤退してください。国に……故郷に帰るんです。貴方は帝国騎士である前に、一人の女性、一人の人間でしょう?」


 ミレイユの頬を透明な液体が伝うのが見えた。


「うう……わ……私は……」


 彼女が何か言いかけたその時。

 俺とミレイユの間に、大音響と共に巨大な黒い塊が落下してきた。


「グオオオオオオオッッッッ!!」


 黒い塊は俺に背中を向けて咆哮を上げる。


「く、熊……!?」


 市場で俺を助けてくれた、ミレイユの部下の熊だ。

 自らも傷だらけ、血だらけで埃に塗れた熊は、ミレイユを抱き上げると、とんでもないジャンプ力であっという間に夜の闇に消えていった。


「は……」


 俺は力無くその場にしゃがみ込むと、

「はぁぁ~~~~~~……」

 盛大に溜息を吐いた。


「クミルも逃げたわ。ま、何とかなって良かったわね」

 背後にはいつの間にかメルティナが立っていた。

「久しぶりの実戦で、私も疲れたわ。全くあの熊、タフいのなんのって……」

 そうぼやく割に、メルティナは汗一つかいていない。

「いやぁ、ホント、お疲れ様です……! 僕のわがままの為に……」

 メルティナは俺の口に人差し指を当てて言葉を遮る。

「それは言わないお約束でしょう? クルーを守るのは船長として当然の仕事。それより、もうじきクライマックスみたいよ? 最後くらいは生で観られそうで良かったじゃないの」


 俺はアパートメントの屋根の端に立ち、下を見下ろした。

 そこで俺は、新しいアイドルが誕生する様を目撃する。


◇◇◇


 最後のステップを踏み、ポーズを決めっ……!

 音楽が止まると同時に、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。

 それは紛れもなく私が憧れた光景。

 映像の中でラインの乙女達がきっと見ていたであろう景色。


 一曲目が始まった時、正直まだまだ不安だった。

 でも曲の中盤頃に差し掛かるとすぐに、声援を送ってくれる人、リズムに合わせて足踏みする人、踊りだす人がどんどん増え始め、すぐに会場全体がうねるように盛り上がりだした。

 その盛り上がりを受け取るように私の中のボルテージもドンドン上がり、練習の時にはできなかったようなキレのあるダンスや張りのある声が湧き出してきた。

 トモエちゃんやソフィちゃんも同じだったみたいで、二人とも溌剌とした笑顔で、まるで宝石みたいに輝いていた。


 この私たちの姿を一番見てほしい人──

「なぁにをボーッとしとんねん! 歓声はまだまだ続いとるでぇ! お客さん達に手ぇ振ったりぃ!」

 背後からトモエちゃんが抱き着いてくる。

 汗だくでお互いベタベタしているけれど、何故だかそれも心地良い。

「ミラの事じゃ。どうせアイツを探しておるんじゃろう? ホレ、正面の建物の屋上を見てみぃ」

 ソフィが笑顔で手を振りながら、私に囁く。

 言われた通り上を見ると───


(コーイチっっっっ!!)


 こちらに向かって両手を大きく振っている姿が見えた。

 隣にはメルティナも見える。

 このステージ上からコーイチの姿が見えて気が緩んだのか、急に胸が苦しくなって、視界がぼやける。


「お、おいミランダ! ステージで急に泣く奴があるか! ど、どうしたんじゃ急に……」

「ご、ごめんなさい、なんだか気が抜けちゃったのかな……」

「気を抜くんわステージ降りてからやで!」

 トモエちゃんとソフィちゃんが小声で耳打ちしてくる。


「良かったぞ三人とも~~~!! とんでもなく上達したじゃねぇかぁ~!!」

 私が涙ぐんでいると、そんな声が聞こえてきた。

「酒場での初舞台観てたぞ~~~! アンタらが有名になってくれりゃ、自慢にならぁ! 頑張れよ~!」

「あん時ゃブーイングして悪かった! 許してくれ~~~!」

「鬼のネーチャンもいいぞ~!」


 あの酒場での……私たちの本当の初舞台を見てくれ……いや、見てしまったお客さん達!


「うへぇ、アレを見られていたという事実を思い出すと、今でも吐きそうじゃわい……」

「それより今の聞いたか!? ウチの事応援してくれとったで!? ウチ鬼族やのに! ええんかな!? もう顔隠さんでも!?」


「トリラーレの諸君!! スンンンンンバラスィーーーパフォーマンス!! アァリガトトオオオオウ!! ところでアレどうなってんの? 超巨大な幻術? 遺失船の技術!? っと、そういうわけで! 今年の大道芸見本市もこれにてフィナァァアアレッ!!」


 司会の男性に促されて甲板から降りようとすると、再び大きな歓声が沸き起こり、私はちぎれんばかりに手を振りながら二度目の初舞台を後にした。


 甲板から船内通路に降りると、コーイチとメルティナが待っていた。

「え!? さっきの場所からもう帰って来たの!? 早っっっ……!?」

 私が驚いていると、コーイチは無言で両手を広げ、私達三人をひとまとめに抱きしめた。


「コ、コーイチ、ウチら汗だくやで……?」

 トモエがやんわりと逃げようとするが、コーイチは小刻みに震えながらも力強く私達を抱いて離さない。


「三人とも素晴らしかった……!! 素晴らしいパフォーマンスだった!! ぼかぁ……ぼかぁ……!!」

 コーイチは滝のように涙を流して感動していた。

「コ、コーイチはん、何もそないに泣かんでも……アンタにそんな泣かれると、ウチまで貰い泣きしてまうやろ……!」

「ぐっ……余は、余は泣かんぞ……!! 父上母上と再会するまでは、もう泣かんと決めたのじゃ……ぐぅ……」


 トモエちゃんとソフィちゃんもコーイチの顔を見て遂に緊張の糸が切れたようで、瞳からぽろぽろと涙を溢れさせた。


「三人とも本当によくやった! でも、僕たちのアイドル道はまだ始まったばかりだからね!」

「もっちろん! 私たちが最高のアイドルになるまで、コーイチは帰さないんだからね!!」

「言われなくたって離さないさ! これからも皆で頑張っていこう!! そういうわけで、皆集まろう!」


 コーイチの号令で、トリラーレの三人に加えてメルティナ、トーニャ、サイファス(幼女体)がブリッジに集合した。


「メルティナ、トーニャ、サイファス……三人の協力が無ければ、こんな素晴らしいステージは完成しませんでした。ありがとうございます!!」


 コーイチが深々と礼をしたのに続いて、私達三人も頭を下げた。


「い、いいのよそんなに改まらなくて!」

「そうだぞ! こちらも楽しませてもらってるンだからな!」

「そうッスよ! 長年存在しつづけてるッスけど、まだまだ初めての経験がこんなにできるなんて思ってもみなかったッス! これからも楽しませてほしいッス!」

「もちろんです! これからもよろしくお願いします!」


 そうしてここに、後に伝説となる世界のアイドル「トリラーレ」が誕生したのだった。


 ……なんてね。


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