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初舞台の不安材料

「ふぅむ、なるほど。できなくはないッスけど、光の精霊は専門じゃないッスから、それをやると精一杯になっちゃって、術力障壁は張れなくなるッスけど……」

「出来るんだ! 凄い! これはかなり心強いぞ!! 障壁については俺のギフトでなんとかするから大丈夫だよ!」

「そうッスか! そういうことなら任せてほしいッス! ラインの乙女のライブに負けないくらい、盛り上げるッスよぉ~~!!」


 俺はライブの演出に関する打ち合わせをするため、サイファスの部屋に来ていた。

 ライブを盛り上げるために、この船の設備を使わせてもらうのだ。

 サイファスは好奇心旺盛で、ゲンさんのお陰か俺の元居た世界についても知識があるし、俺のスマホのライブ映像も度々観ているので、イメージの共有がしやすくて助かる。


「細かいタイムスケジュールとか指示票も作るけど、それは大道芸見本市の担当者と詳しく話してからで」

「OKッス! なんだかワクワクするッスねぇ! 私らはもうすぐ、世界初の挑戦をするンすよ!」


 この世界初のアイドルによる、世界初のライブ。果たして受け入れられるのか?

 ……いや、きっと大丈夫さ! アイドルの力、音楽の力には、時代も国境もない!


「いやぁ、それにしても俺は恵まれているよ。この世界に来て数か月。まさか自分のプロデューサーとしての仕事を続けられて、その上ライブまでこぎつけるなんて……。この船に拾ってもらえた時には考えもしなかったよ」

「フフフ、確かにコーイチはついてるッスね! アサギも含めて、こっちに来てすぐの異邦人は皆ロクな目に合ってないッスから!」

「お~い! コーイチ! 例の物が完成したから、確認しに来な~!」

 打ち合わせを終えてサイファスと雑談をしていると、伝声管からトーニャの声が響いた。

「分かりました! 今行きます~!」

 と伝声管に向かって叫ぶと、俺はすぐにサイファスの部屋を飛び出した。


 逸る気持ちを落ち着かせながら、俺は機関室をノックした。


「おう! 入んな!」

 中に入ると、ニコニコしたトーニャが、両手を背後に隠して仁王立ちしていた。

 彼女も俺に見せるのが楽しみだったのか、心なしか頬が赤いようだ。

「じゃじゃーん! 見なよこれ! 完璧だろ!?」

 トーニャが背中に隠していた物を効果音付きで披露する。

「コーイチのオーダー通り、ヘッドセットマイクとやらを作ったよ!」

「う……うおおおおおおっ! ありがとうございます! しかも四つ!?」

「ああ。『あいどる』をやるのはあの三人娘だろ? あと一つは予備さ」


 正式に三人組になったのはついさっきの話なんだけど……どうやらトーニャは最初からあの三人でやっているものと思っていたらしい。

 流石、俺なんかより付き合いが長いだけある。


「手に取って見ても!?」

「もちろんさ!」


 構造は至ってシンプルで、主な素材は銅と鳴水晶だ。土台となるつるの部分が銅。そして口元に来る先端部分に、鏡のようにピカピカに磨かれた鳴水晶が設置されている。

 耳にかかる部分には着け心地に配慮してか、柔らかい布が巻かれている。


「素晴らしい……!」


 俺が試しに「鳴水晶マイク」に向かって声を出してみると、元の世界のダイナミック・マイクさながらに、音が増幅された。


「いや、これは俺たちが使っていたマイクに勝るとも劣らない音だぞ……! 全く不純物を感じられない、とても素直な音だ……! 素晴らしい! これは本当に素晴らしいですよトーニャさん!」


 俺は嬉しさの余り、ついトーニャを抱きしめた。

 普段ならすぐにレンチで殴られそうなところだが、今日は珍しく、トーニャも俺の背中に小さな手を回してくれた。


「おおっ!? ……お……ま、まぁその、良かったな……。コーイチが喜んでくれて、ア、アタシも嬉しいよ」

 俺はお言葉に甘えて、もうしばし、ぷるぷると小刻みに震えるトーニャの小さな体の温もりを堪能した。


「……そ、そろそろ離れろ!」

「ごッ……すみません、調子に乗りましたァ……」


 脇腹に強烈な膝蹴りを貰い、俺は悶絶しながらトーニャから離れた。


「このマイクだけだと多分音量が小さいだろうからね、コーイチに言われてた『すぴーかー』とやらも、鳴水晶のデカい結晶を見繕って作ってみたよ。このマイクとペアリングすれば、もっと大きい声で歌えるはずだよ!」

「うう、何から何までありがとうございます……! 流石はトーニャ様でございます……!」

「な、なんだい気持ち悪いねぇ……私はただ新しい事をするのも見るの大好きなだけさね。コーイチやミランダ、トモエ、ソフィが面白い事やろうとしてんだから、乗らない手はないだろ? それが金になりゃ、メルティナも万々歳だがねぇ」

「う、それは痛いところですが……早く収益を上げられるように頑張ります!」

「おう、期待してるよ! 頑張んな!!」


 トーニャに背中をバシバシと叩かれながら、俺は意気揚々と機関室を後にした。

 その後は三人娘の歌とダンスの指導をして、一日を終えた。

 もう少し、もう少しで全ての準備が整う!


 翌日。

「我々のグループ名とコンセプトを発表します!」

 俺は食堂に集まった三人娘とアサギ、サイファスに向かって宣言した。

「プ~ッ! ドンドンドン! パフパフ~~~ッッッ!!」

「……? アサギ? なんじゃ今のは?」

「あ、ごめん。異邦人ジョーク……。ちょっと! コーイチフォローしなさいよ!」


 鳴り物のモノマネがスベったアサギを無視して、俺は発表を続ける。


「待望のグループ名は……『トリラーレ』! に決定いたしました! これはある国の言葉で『鳴り響く』とかそんな意味のある言葉です。可愛いと思うんだけど……どうかな?」

 恐る恐るたずねてみる。

「トリラーレ、トリラーレ……うふふ、響きも可愛いし、私はとってもいいと思う! トリラーレ! 私たちはトリラーァァレェェ~~!」

 どうやらミランダは気に入ってくれたようだ。

「そ、その手の事は余には分からんと言うたであろう! ま、まぁ個人的には悪くはないと思うぞ?」

「ウチもええと思うで~! 短くて覚えやすいし、なんや美味しそうな名前やん?」

 ……美味しそうという感想はよく分からないが、皆概ね気に入ってもらえたようだ。


「そして次に、トリラーレのアイドルとしてのコンセプトですが……ずばり『街一番の看板娘』だ!」

「ほほう……して、その心は?」


 アサギに先を促され、俺はこのコンセプトに至った経緯を語った。


「この世界では、音楽という文化そのものが、まだまだ富裕層のものだ。オペラやオーケストラの演奏会に出席できるのはお金持ちに限られ、街では酒場など人の集まる場所で芸人やウィアートルさんのような吟遊詩人が演奏する程度だ。つまり、まだ市井のプロの音楽家という存在が確立されていない。よって我々は、質の良い音楽の大衆化に貢献したい。客が金を払って音楽を聴くという文化を根付かせたいんだよ」

 トモエとソフィは興味深そうに聞いているが、ミランダは眠そうだ。

「ただ、ここでいきなり、豪華で煌びやかな衣装を纏ってしまうと、人々が我々に対して距離を感じてしまう可能性がある……よって、街の人々にアイドルを身近な存在として感じてもらうため、『街一番の看板娘』というコンセプトを打ち出したわけだな。衣装に関しても、このコンセプトに則ったものを考えてみた」


 そうして俺は、拙い絵で描いたデザイン画を皆に見せてみた。


「へったくそじゃのう……」

「んん? でも何が描いてあるのかは分かるよ? これは……エプロンドレスみたいなもの?」

「そう! あのフランスアがお店で着てるような服を可愛くデコってアレンジしたらいいと思うんだけど……」

 衣装担当のアサギに目を向けると、彼女は自分の胸をどんと叩いて、

「まっかせなさい! フランスアちゃんなら見たよ! あの猫娘ちゃん可愛いよねぇ! 街の女の子たちがマネしたくなるような衣装、作っちゃるっ!!」

 何とも頼もしい。何しろ一着数十秒で完成するのだから実際ヤバイ。

「よっしゃあ! 早速貨物室で試作といこうじゃあないの! 行こうぜぇトリラーレ!」

「わ~い! トリラーレェ!!」

「また着せ替えか……余、アレ苦手なんじゃが……」


 三人はアサギに連れられて貨物室に向かった。

 楽曲、ダンス、舞台装置、音響、衣装……。

 ライブに向けての準備はほぼ整いつつある。


 だがあと一つ。


 最も大きな不安要素に関しては、とても準備が整っているとは言い難い状況にあった。

 ……いや、正確に言うなら、どれだけ準備してもし足りない……決して不安は消えない……と言った方が正しい。

 それは勿論、警備だ。


 深夜の甲板。

「はぁっ、はぁっ、はぁ……」

 俺は汗だくで息を切らしながら、力無く尻餅をついた。


「ふぅ~……今日はもうこの辺にしときな? 本番は明後日だし、体調を整えておくのも大事だよ?」

 長時間の訓練も、メルティナにとっては軽い運動程度のようだ。一体どんな鍛え方をしているのか。


「そう、ですね……」

 身体能力強化術を体得した俺は、約束通りメルティナに稽古をつけてもらっていた。


「コーイチは強くなったよ。稽古を始めてからまだ二週間程度だと考えると、異常な程にね」

「まぁ、昔とった杵柄もありますしね。でも、それでも貴女やミレイユには遠く及ばない」

「はは! そりゃあ当然よ! そう簡単に追い付かれちゃ、最高士官級帝国騎士の立場が無いでしょう! 私だってこれでも、『金自在流』のグランドマスターだからね」


「金自在流」というのは、ドワーフの国に古くから存在する剣術流派だそうだ。

 習得するには金術の素質が不可欠。ドワーフは種族特性によって金術の素質を持つためこの剣術が発展したらしい。

 ただ、俺は金術の素質を持っていないため、金自在流を習得することは出来ない。

 メルティナがクミルに見せたあの剣術が俺にも使えれば、かなりの武器になったのだが……。


「コーイチは精一杯やったわ。あのプランが上手くいくかどうかは、もう運を天に任せるしかない」

「確かに、ここまで来たらもう、僕も開き直るしかないですか」

「そうそう、その意気よ。私も精一杯手伝うから、頑張ってトリラーレを守りましょう?」


 メルティナは俺の正面にしゃがむと、小さな手で俺の頭を撫でてくれた。

 あどけなさが残るドワーフの美少女の微笑みが、銀色の月光に映える。


「なんだかすみません……俺が来てからというもの、何だかんだでこの船をかなり振り回してますよね……」

「フフ、いいのよ。貴方が来るまでは、私達には目的や目標みたいなものが何も無かった……サンドバイパーという巨大な力を持ちながら、ただ漫然と生きているだけだった。それが今や、皆が一つの目標に向かって頑張っている。この先私達がどうなっていくのかは見当もつかないけれど、そんな未知にわくわくする毎日が、今は楽しいから」

「そう言ってもらえると、ありがたいです。明後日……頑張りましょう!」

「ウム! 大船に乗ったつもりでいるといいわ! ……まぁ、実際乗ってるけどね!」


 胸の中に燻っていた不安は、夜風に吹かれて消えていった。


 明後日はいよいよ本番である。

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