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ソフィを守れ

すっかり間が空いてしまった……

「ホントに大丈夫なんじゃろうな!?」

「信じるって言ったろ!? 任せとけ、ソフィは命懸けで俺が守る」

「命は懸けんでいいからな!?」

 軽口を叩いていると、早速海大蛇が俺たち目掛けて巨大な水球を吐き出してくる。


「ギフト━━『守り手の檻』!!」


 俺はギフト能力で球状の障壁を作り出し、水球を難なく防いだ。

 しかし安心するのも束の間、諦めるつもりは毛頭無いようで、三体の海大蛇が大量の水球を連続して吐き出してくる。


「うぉぉおおおおおおっっ!?」


 まるで生身で自動洗車機にでも入ったかのように大量の水が俺たちを襲うが、この程度では「守り手の檻」はビクともしない。

 俺はこの能力でカミーナが埋まっているであろう瓦礫の山ごと覆っているので、瓦礫撤去の邪魔になる事もない。


 ソフィは相変わらず祈るようなポーズで目を瞑り、樹術を駆使してカミーナを探しているようだ。

 彼女の額には玉のような汗が浮かんでいる。


 水球攻撃では埒が開かないと悟ったのか、今度は三体の海大蛇が同時に突進してきた。


 俺は余裕の笑みを浮かべた。

 さっきの攻撃を防いだ俺は、海大蛇に俺の守りは破れないとタカを括っていたのだが……。

 それは間違いだった。


「うっっっっおぉっっっ!?」


 三体の水大蛇の突進噛みつき攻撃が衝突した瞬間、「守り手の檻」が激しく揺らいだ。


「くっ……おいコーイチ!! 大丈夫なのか!? しっかりせい!」


 激しい振動に、ソフィもたたらを踏む。


「すまん! ソフィは絶対に守るっ!」


 俺は両手を上に掲げ、亀裂が入り始めた「守り手の檻」にありったけの力を注ぎこんだ。

 乱れた力場がすぐに安定し、亀裂が修復されるものの、海大蛇の絶え間無い攻撃によってすぐにまたかき乱される。


 最初にギフトが発動した時の魔光雷に、地竜の岩棘。

 俺の守りは破られた事が無かった。

 そのせいで俺はこのギフトの力を過信していたのかもしれない。


 自分の体内、掌、そしてそこから繋がる「守り手の檻」に全神経を集中させる。

 顔から汗が滴り落ちる。

 攻撃を受ける度に全身が軋む。


「ま、まだか!?」


 ソフィの方に顔を向けると、彼女も眉間に皺を寄せながら懸命に術を行使している。


「くっ……見つけた……っ! 今こちらに引き寄せておる! もう少しじゃっ!!」

 その言葉に安堵しつつ海大蛇に視線を戻すと、


「え?」


 三体いたはずの海大蛇が一体になっている。

 しかもその一体が三倍以上の大きさになっている。


「目を離した隙に、合体したってのか……!?」


「OOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 超海大蛇が絶叫する。

 そもそも生き物ですらないはずなのに、一体どうなってるんだ!?

 破壊のみを目的として振る舞うその兵器は、ゆっくりと首をもたげると──


「GOAAAAAAAAAAA!!」


 再び絶叫しながら大口を開けて突進してくる。


「コレは、ちょっと、ヤバイぞ……!!」


 海大蛇が「守り手の檻」に接触した瞬間。

 かつてないほどの衝撃が俺達を襲った。


「うおおおおおおおおおおっっっっ!?」


 力場に走る巨大な亀裂。

 まるでネオンのように七色に明滅し、強大な力の衝突によって無数の放電現象が発生する。


「ぐぅうぅううぅぅううううッッッッ……!」


 俺の絶対領域を食い破らんと、海大蛇の牙がバリバリと音を立てて捩じ込まれる。


「出ぇてぇいけよぉおおおおおおっっ……!」


 俺は絶対に諦めない。


「お前なんかにぃいいいいいっっ……!!」


 たとえ地に膝を着こうとも。


「負けられねぇんだよぉぉぉぉおおお……!!」


 掲げたこの手は絶対に降ろさない。


 しかし。


 金属のひしゃげる音、黒板をひっかく音、大きなガラスの割れる音。

 ありとあらゆる不協和音をないまぜにしたような大音響の直後。

 俺の「守り手の檻」は遂に砕け散った。


「は……っ!?」


 おいおいマジかよ。

 異邦人だけが持つ特別な力にも、やっぱり限界があるってのか。


 障害物を破壊した海大蛇は一度身を引いて距離を取ると、再び俺達に向かって突進を始めた。

 それを防ごうと俺も再びギフトの発動を試みるが、固く絞った雑巾をさらに絞るように、手応えが無い。


「は、はは」


 俺はこの世界の家族どころか、自分の身も、この街も、何も──



「お主らの仕事は終わりじゃ!! 海大蛇共! 消え失せよ!!」


 ソフィの声が響く。


 海大蛇は即座に形を失い……大量の水しぶきだけが俺を襲った。


「……ぶふっ……ふはっ……ふっはっはっはっはっはっはっ!!」


 全身ずぶ濡れになった俺を見て、ソフィが噴出した。


「……笑う事ないんじゃぁねぇか~? はぁ、ホント、マジ、今度こそ死んだかと思ったわ……」

「ぶっふっほほ……なんじゃ、守ってやるとか宣っておいて、最後は余に守られるんじゃ世話ないのう、濡れ鼠よ」


 にやにやとしながらこちらを見るソフィを、俺はジト目で睨み返した。


「俺が先に守ったんだろぉ? ……似合ってないぞ、そのデカイ指輪」

「なにをぉ!? お主まだまだ水遊びを続けたいようじゃな!?」

 ソフィはきっ、と眉毛を釣り上げると、コントロールキーである巨大な宝石のついた指輪を天にかざして見せた。


「ひ、ひえ~っ! もうやめろ!! スプラッシュマウンテンには金輪際乗らねぇぞ!!」

「……ぷっ……ぶふっ……ふっふっふっふっふ……わーっはっはっはっはっはっは!! すぷらっしゅ某って、なぁにを言うとんじゃコーイチはっ……ふっはっはっはっはっは!!」

 俺の情けない姿を見て、ソフィは一気に破顔した。

「ふふ……っはっはっはっはっは……あっはっはっはっはっはっは!!」


 それに釣られて俺も堪え切れなくなり、青い空の下に寝転んで、俺達はそのまましばらく笑い転げていた。


 屋敷から出て港の方に向かって道を下って行く。

 何とか事態は収拾出来たものの、街の被害は甚大だった。

 海大蛇の攻撃を受けて損壊したり倒壊した建物は、軽く百を越えそうだ。


「海大蛇はなんとかなったようだな。流石はサンドバイパーの者達だ」


 周囲を見回しながら歩いていた俺達の前に、ミレイユが現れる。

 しかし、彼女は一人ではなかった。


「こ、こないだは世話になったの! あの後ミレイユ隊長にこっぴどく怒られたの!」


 ……クミル! やはりミレイユの部下だったのか。

 そして──

「あ! 先日、市場で絡まれた時助けてくれた熊さん!」

「お、お前がコーイチ、だったのか。そうと分かっていれば、あ、あの時、俺、捕まえたのに」


 見た目に似合わず良い熊だったが、まさか彼もミレイユの部下だったとは。


「ゴラオン!? アンタこいつと顔見知りなの!? 会った事あるのに逃がすなんて、ゴラオンだって間抜けなの! 大ポカなの!」

「お、お前の似顔絵が、下手すぎるのが、いけない」


 ミレイユは二人のやり取りを見て苦笑いを浮かべたが、すぐに真剣な顔に戻し、射るような視線で俺を見つめた。


「……まぁ、こういうわけです。貴方の確保を目的に、我々は遣わされました。今日の所は我が国に不利益をもたらす敵を排除するのが主たる任務でしたが……」

「助けてくれて感謝しているよ。貴方がいなかったら、ミランダや俺たちはどうなっていたか……」

「私も状況を利用させてもらっただけです」

「そうか……でもやはり礼を言うよ。ありがとう」


 ミレイユは沈黙している。


 奇妙な間。


 彼女は俯き、静かに一つ息を吐き、そして顔を上げた。

「我々の目的は貴方を我が国に連れ帰る事です。今ここで、我々にご同行願えませんか?」


 俺はミレイユの鋭い視線を真っ向から受け止めて答えた。


「断る。俺はサンドバイパーの船員であり、プロデューサーだ。所属アイドルの側を離れる事はできない」

「なるほど……では貴方の言う『あいどる』とやらがいなくなれば、貴方がサンドバイパーに乗る理由は無くなるという事ですね?」


 ミレイユから強烈な殺気が放たれる。

 肌が粟立ち、背中に脂汗が一筋流れ落ちた。


「黙って聞いておれば、何をさっきから勝手な事をベラベラと──」


 ソフィが口を開いた瞬間。


 一陣のつむじ風が彼女の頬を撫で──切り落とされた数本の髪の毛を運んで行った。


「少し静かにしてくれないか? 私は彼と話している」


 いつの間にか抜かれていた剣を、ミレイユは美しい動作で納刀した。

 ソフィは驚きのあまり、口をパクパクと動かしながらその場にへたり込んだ。


「私とて騎士の端くれです。任務遂行の為とはいえ、非戦闘員の無用な犠牲を出す事は避けたい。しかし……我が帝国の未来の為とあらば、喜んで貴方の大切なモノをこの手にかけましょう。」


 全身が強張っている。

 口の中が渇いている。

 血が滲むほど握りしめた拳が、ぶるぶると震える。


「……なんだと……?」

「貴方に猶予を差し上げましょう。我々は今日の所は引きます。次に私が貴方の前に姿を現したその時……答えをお聞かせ願いましょう」


 ミレイユが発していた殺気は霞のように掻き消え、三人は静かに去って行った。


 三人の姿が視界から消えると同時に、俺もソフィの隣に尻もちをついて座り込んだ。

 

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