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儀式術の暴走

「んで!? あれは何なんだ!?」


 ミレイユを含む俺達は、猛ダッシュで建物から飛び出した。

 謁見の間は外に出た途端に倒壊してしまったので、まさに間一髪だ。


「なんや!? 街にもアレとおんなじ水竜が何本も出とるで!? コイツが作ったんと似とるようやけど、大きさが数十倍はあるわ!」

 トモエは左手に抱えたプースィを顎で指す。

 因みに右手にはアサギを抱えて悠々と走っているのだから、流石は腕力に定評のある鬼族だ。


「た、多分アレは何らかの儀式術じゃ。はぁ、はぁ、恐らくはこの街を外敵から守るために巨大な水大蛇を作り出す術兵器か何かじゃろう! はぁ、何故暴走しているかは分からぬが……!」

 ソフィが息を切らせながら、術の専門家としての見解を述べる。


「ま、まぁ、この事態が私達の起こした騒動に起因するものである事は、まず間違いないって感じッスけど……」

 サイファスが俺達の頭上を飛びながら囀る。


「あぁぁぁぁああぁぁっ! 私が余計な事をしなければぁああああああっっっ!!」

 ミランダが涙を流しながら絶叫する。


「元はといえばカミーナのババアが悪いんやから、ウチらが責任感じる事は無いんやで!?」


 トモエの言葉を聞いて、それまで黙ってついて来ていたミレイユが口を開いた。

 因みにミレイユはアッシャーを肩に担いでいる。


「……そういえば、あの竜が出る前にカミーナのつけていた指輪が発光していた」

「そ、それじゃ!! はぁ、はぁ、それが都市防衛用の儀式術コントロールキーじゃろう! はぁ、しかし我らに向けて使用するならまだしも、はぁはぁ、街を無差別に破壊するような使い方をするじゃろか?」

「……ヤツは死んだ。瓦礫の下敷きになってな」

「はぁ!? 早ぅ言わんかい!! ……恐らくそのせいで術が暴走しておるのじゃっっ!!」


 そう叫ぶと、ソフィは急に足を止めた。

 それを見て他の全員も足を止める。


「どうしたソフィ!?」

「……余は屋敷へ戻る」


 その言葉に、俺達は耳を疑った。


「はぁ!? なんでやの!?」

「放っておけばあの儀式術は、この街の人々から吸い上げて蓄積した大量の術力を消費し尽くすまで暴れまわるじゃろう! その頃には街中が更地になっておるじゃろうがな! しかし、カミーナの持つコントロールキーを探し出せば止められる!」

「なるほど、なら全員で戻ろう!」


「それはならん!」

 俺の提案を、ソフィは即却下した。


「なんでだよ!? 瓦礫に遺体が埋まっているなら、全員で行って掘り返した方が早いだろ!!」

「馬鹿者! 誰が手作業で掘り返すか! 術を使うのじゃ術を! じゃから余一人でも十分なのじゃ! お主らは住民達の避難誘導をせい!! 民あっての街、民あっての国家じゃ!!」


「おーい! アンタら! 見ての通りえらい事になってんだ! ちょっと手伝ってくれねぇか!」


 俺達が立ち止まっていると、そこへ数人のお供を連れたリザード族の男が慌てて走り寄って来た。

 見覚えのあるその顔は、この街を拠点とする傭兵団「クレイジーキャラバン」のリーダー、ゲーハだった。


「おお! どっかで見た顔だと思ったら! お前らなら百人力だぜ! 避難誘導でもあの糞竜の退治でも、なんでもいいから手伝ってくれねぇか!?」

「もとよりそのつもりだ」


 即答したミレイユを見て、ゲーハが目を丸くする。


「あんた、白銀のミレイユか!? なんでこんな所に?」

 ミレイユはゲーハの言葉を華麗にスルーすると、

「ソフィとやら、コントロールキーについては任せても大丈夫なのか?」


 険しい表情でソフィに問い掛ける。


「当然じゃ! 一介の騎士風情に心配される筋合いはないわ!」

「ふっ、そうか。では任せたぞ」


 ソフィの言葉を聞いたミレイユは一瞬頬を緩ませた後、恥ずかしそうに俺を一瞥して走り去った。

 ……やっぱあの時の事、覚えてるんだろうなぁ。


「うーん、ここはどこ、私は誰……」

 トモエに抱えられていたアサギも、タイミング良く目を覚ましたようだ。


「アサギさぁん! 残念ですけど! ここは異世界ですよ~!」

「うう、漫画みたいに気絶させられたの、やっぱし夢じゃなかった……」

「よし、ほなゲーハさん、この二人を任せてもええか? 余所の街では賞金首の重罪人や」


 トモエがそう言うと、ゲーハのお供の巨大なオークが簀巻きにされたアッシャーとプースィを受け取った。


「分かった。巡察隊の牢に入れておこう」

「ウチは避難誘導と救助に回るで。あーいう不定形の大物は、腕力じゃどうにもならへんからな。ミラちゃんとアサギはんもウチに着いてきぃ」

「わ、分かった! 私に出来ることはあんまし無いかもだけど……」

「うへぇ、私が寝てる間に何が起こったってのよぉ~……」


 アサギは面倒くさそうに呟いている。

 初対面の時と全然印象が違うのは、やはりあの時は操られていたからか。


「コーイチはどないするん?」

「俺はソフィと一緒に行く」

「余は一人で十分じゃと言ったじゃろ!」

 ソフィは俺の言葉に怒りを露にした。


「いや、駄目だ。コントロールキーがあればこの事態を収拾できるのであれば、遺体の捜索を邪魔させないようにソフィを守る人間が必要だ」

「ひ、必要無い!」

「ソフィがあの海大蛇に狙われたらどうする? プースィと戦った時のようにはいかないだろう。それでもスムーズに自分の役割をこなせると思うのか?」

「出来るのじゃ! あんなモノ、一瞬で凍らせて粉々に……」


 俺は尚も食い下がるソフィの胸ぐらを掴んだ。


「粉々にしたってすぐに復活するだろう! 甘えるなよソフィ! お前はまだこの状況が全部自分の責任だとでも思っているんだろう!! だが事態は一刻を争うんだ! お前のヤケクソに付き合ってる暇なんか無いんだよ!!」


 一気に捲し立てると、ソフィの顔は青ざめ、瞳は涙で潤んだ。

 俺はそんな彼女を抱きしめた。


「いいから俺にソフィを守らせてくれ……! 俺にとってはサンドバイパーの皆が家族なんだ。誰か一人でも欠けたらハッピーエンドじゃ無いんだよ。俺も含めてな」

「わ、分かった……。余が悪かった。もっと冷静になろう……ありがとう」


 ソフィは弱々しく俺の背中に手を添えた。


「はいはい! 方針が決まったとこで、さっさと行動や! 行くで!」

 トモエがパンパンと手を叩いて皆を急かした。

 しかしその声は、少し嬉しそうに弾んでいた。


◇◇◇


「さっきはすまなかった。怒鳴ったりして……」


 俺は走りながらソフィに謝った。


「はぁはぁ、い、いいのじゃ。余もす、少し状況が見えておらん、かった、はぁっはぁ。それより、今余に話しかけるでない! ……はぁっはぁっ、息が、上がっておるのじゃっ!」


 そういえば先ほどから、ソフィだけかなり息が上がっていた。そもそも基礎体力が足りない上、彼女は生術があまり得意ではない。つまり術による自己強化も苦手なのだ。

 その上屋敷は高台にあるので今は上り坂だ。


「それは、気が利かなくてすまなかったな」


 そう言うと、俺はソフィを軽々とお姫様抱っこした。


「んなぁっ!? こら、離せ!! 降ろせぇ!!」

「喋ってると舌噛むぞ」


 全力で踏み切るたび、石畳が爆ぜる。

 訓練用リストバンドを着けずに自己強化状態で全力疾走したのは初めてだった。

 体が空気のように軽い。

 両足が生み出す推進力が心地良い。

 まるで自分がスーパーボールか何かになったようだ。


「うおうおおぉぉっぉぉ~~……早すぎるのじゃぁぁぁぁぁ~~……」

「よし、到着っと」


 あっという間に戻って来られたのはいいのだが、

「お~い! 着いたぞ~!」


 ソフィは完全に目を回してしまったようだ。


「し、死ぬかと思ったぞ! はよ降ろせ!!」


 千鳥足で地面に降りると、ソフィは早速瓦礫の前に立ち、両の掌を組んで目を瞑った。


「ふ~……」


 深い深呼吸の後、ソフィは小声で呪文を唱え始めた。


「樹精よ、大地を抱き、大地に抱かれる生命の息吹よ。今こそ芽吹き、大海を成せ……」


 これが詠唱……。確か大規模な術を使用する際に行われる場合があると聞いたな。


「樹術……『樹海生誕』」


 詠唱が終わった……ようなのだが、ソフィは未だ目を瞑って祈るような姿勢を取ったままだ。

「……ソフィ? 一体どうなって……」


 俺が訪ねようとしたその時。


 地面が振動し始め、目の前の瓦礫の山が動きだす。


「うおぉ」

 思わず感嘆の声を上げた。

 瓦礫の下や中から大量の樹木や草花が異常な速度で成長する。

 その成長にしたがって瓦礫の山がじわりじわりと持ち上がる。


 しかもただ持ち上がるだけではない。

 樹木の枝や蔦がまるで何かを探すかのように瓦礫の隙間に入り込み、それらがこれ以上の倒壊をも防いでいるようだ。


「確かにこれなら、手で掘り起こすより早いかもしれないな……!」


 しかし俺に感心している暇は無かった。

 ズンッ……という足元から突き上げられるような大きな振動が俺たちを襲った。

 明らかにソフィの術によるものではない。

 ほどなくしてその原因は自ら姿を現した。


 俺たちを取り囲むようにして立ち上る巨大な海大蛇が三体。


「三体も!?」


 俺が驚いていると、ソフィが片目を開けてこちらを見た。

「出番じゃぞコーイチ!! お主の言う通り、余一人ではこの状況には対処できなんだわ。見事、余を彼奴らから守ってみせよ。信じておるぞ」

「信じてる、か……」


 この世界に来てからの間、すぐに打ち解ける事が出来たミランダを初めとしたサンドバイパーに乗る皆の中で、ソフィだけは俺に心を開いてくれる事が無かった。

 それどころか、厄介者扱いされている節さえあったのだ。

 そんなソフィが俺を信じてると言ってくれたのだ。

 こんな嬉しいことはない。


「こうなったら、何としてでもソフィには無傷で帰ってもらわないとな!」

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