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謎の四人組とソフィの力

「恐怖のあまり……気でも触れたのか?」


 俺はイライラしながらミレイユに尋ねた。

 俺の灰術を目の当たりにして、腹を抱えて笑い出したヤツなんて初めてだ。


「ふっ、これが笑わずにいられるか」

 ミレイユは尚も笑みを噛み殺したような、俺を見下すような表情で話を続けた。


「それが? そんなモノが灰術だと? 笑わせてくれる。この私が誰に仕える騎士なのか、よぅく思い出すがいい」

「お前が誰に仕える騎士か、だと?」

「確かにお前の言う通り、灰術は全てを滅ぼす禁断の術。使い手も世界に数える程しかおるまい。だからこそ大抵の人間は本物の灰術など見たこともない。見たことが無ければ信じるかもしれんし、少なくとも警戒はするだろうな」


 そうだ。誰も本物の灰術なんか見たこともない。

 俺ですらも。

 術指南書や物語に出てくる灰術の描写から、それに近い効果を演出しているに過ぎない。


「我が主、大皇帝陛下の異名を知っているか?」


 そこまで言われてようやく思い出した。


「灰かぶり姫……!」

「本物を知っている私には、貴様の使う紛い物など一目瞭然だ。それはおそらく火術、風術などの応用で物体を急速に風化させているだけだろう。……陛下の灰術はまるで違う。文字通り、触れられたモノは瞬時に命の灯を吹き消され、灰へと変わる」


 万事窮す。

 どうしたらいい? どうしたら俺はこの窮地から逃れられる?

 ミレイユを倒すよりは、カミーナを殺して逃げる、あるいは盾にするか?

 如何に卑怯だろうが汚かろうが不義理であろうが、生き残りさえすれば勝ち。

 それが自由の理だ。


 ミレイユが再び仕掛けてくるより先にカミーナに近付こうと、俺が後ろを振り向きかけたその時だった。


 突然背後から強烈な光が発せられた。


 ミレイユの顔も驚愕に変わる。


「シャーフが例の異邦人を監禁しようとしているって話だったが……?」

「あれ~? なんだか取り込み中みたいだよっ!?」

「……どうやら既に別のシャーフの手で処分される所……のようですね」

「あ~? 無駄足かよ!? ……っていうかそもそもこの程度の任務、四人全員で出張る必要あったか? 誰か一人で十分だったろ!」


 恐る恐る振り返ると、そこには。


 見たこともない服を着た四人の女が……何やら言い争いをしている所だった。


「おいっ! 何者だお前ら!! っていうかどっから入った!?」

 大声で声をかけてみるものの、


「ゼレヴェ様のご命令だ。我々は従うのみ」

「まぁそりゃそうだけどよォ~」

「皆で来た方が楽しいし、いいじゃ~ん?」

「私はこのチームをツーマンセルに分けるのが正直不安なので、構わないわ」


 俺を完全に無視している。


「おい!! 舐めんじゃねぇぞ! 俺をシカトすん……」


「うるせぇなお前」

 女の一人がこちらに手のひらを向けた、その瞬間。


 突然体に衝撃が走り、俺の意識はそこで途切れた。


◇◇◇


「はぁ!? な、に……それ?」


 プースィは驚きに声を失っていた。

 彼女が作り出した巨大な水の大蛇が、ソフィにぶつかる寸前で停止していた。

 それだけではない。

 水の大蛇は凍りついていた。


「な、なによそれ!? どうなってんの!?」

 プースィが動揺する。


「なんじゃって、お主の水術を上回る規模の風術をぶつけただけじゃろ。水術と風術の組み合わせにより、氷術が創られる。合成術理論の基礎じゃ」

「あぁ!? ごーせい、じゅつりろん?」

「なんじゃ、そんな事も知らんのか? 氷術──」


 ソフィが指を鳴らすと凍った大蛇が砕け散り──


「氷礫投射」

 拳大の氷の塊がプースィに向かって大量に打ち出される。


「ちっ……卑怯だろぉ! 土術『土陣壁』!!」

 プースィは悪態をつきながらも瞬時に土の壁を作り出して氷の塊を防いでいく。


「ふぅむ、余がエルフである事は分かっているであろうに、今度は土術を使うか。それなりの素質はあるようじゃが……」


 ソフィは胸の高さで手を組み、新たな術を発動する。


「樹術『乱れ蔦葛ツタカズラ』」


 プースィが作り出した土陣壁から、瞬時に大量の蔦が繁茂する。


「ひっ……ひぃぃい!!」

 蔦はあっという間に壁を内側から崩壊させ、プースィの体に絡みついて自由を奪っていく。

「クソッタレぇ!! 水じゅ……つぅむん~~~!!」

 遂には口も覆われ、術を発動する事もできず、プースィは簀巻きにされてしまった。


「エルフが種族特性として風術、樹術を得意としておる事くらい知らんのか? 余に対してとことん相性の悪い水術と土術を披露するとはのう。全く勉強が足りんわ」


 俺は感心し過ぎて開いた口が塞がらなかった。

 術者同士の本格的な戦いを見たのはこれが初めてだった。


「す、すごいじゃないか……術というのはこんな凄い事ができるのか……」

「勘違いしたらアカンで。ソフィは風術と樹術においては博士級の術師やからな。そうそう真似出来るもんやないで?」


 ソフィは手をかざし、蔦に縛られたプースィを風術で浮かべてこちらに引き寄せると、そっと彼女を床に横たえた。どうやら気絶してしまったようだ。


「まぁ、少しは溜飲が下がったかの……」

 そう呟くと、ソフィは背後で見ていたミランダの前に跪いた。


「ソフィ……」

「……王族である余が父上以外の者を前に跪くことなど無いのじゃがな……」


 ソフィは声を震わせ、瞳に一杯の涙を溜めている。


「スマン……ごめん……ごめんなさい……許してミランダ……っ」


 ミランダもすぐに跪き、同じように涙ぐみながらソフィを抱きしめた。


「私こそごめんなさいぃぃ……いっつも考えなしに動いて、皆に迷惑かけてっ……」

「ち、違うの、違う、私が、ソフィが悪いの……ソフィがミラに良くない話をして唆したから……!! ミラやトモエが、また皆が離れていくような気がして……いなくなっちゃう気がして……っ!!」


 俺は言葉が出なかった。

 皆の事を考えながら行動してきたつもりだったが、気付かない内にこれほどソフィを傷つけていたのだ。


 まだまだ皆の事をよく知る必要がある。

 誰もが納得し、我慢する事の無いような形で生活していかなければ、アイドル活動どころではない。

 あの船に乗る限り、俺も家族の一員なのだ……多分。そう思いたい。

 泣きながら抱き合う二人を見ていると、

「皆!! ヤバイッス! 何か、エライ事が起きそうッス!!」


 肩に止まっていた雀の姿のサイファスが、突然ふわっとした警告を発した。


 しかしそれを突っ込む間もなく建物が激しい振動に襲われる。


「うっ……なんやコレ、確かにヤバそうや! 二人とも泣いとる場合やあらへん!」


 トモエが二人を立ち上がらせていると、玉座の奥の部屋から、気絶した男を抱えたミレイユが飛び出してきた。

 ……いや、飛び出してきたのはミレイユだけでは無かった。

 直後に奥の部屋と謁見の間の一部の屋根が崩壊し、そこから覗いた青空の下には──


 超巨大な水竜が首をもたげ、雄叫びを上げていた。


◇◇◇


「へぇ~……お前は状況が分かってるみてぇだなぁ」


 四人組の女の一人がアッシャーに掌を向けた瞬間。

 私はアッシャーの首筋に一撃入れ、即座に気絶させた。


「……」


 緊張で声が出ない。


 素性も目的も不明だが、とにかく今はこいつらに逆らわない方が得策に思われた。

 何しろ奴らの実力は、少なく見積もっても一人一人が円卓クラス。

 体から発する術力、物腰、威圧感。

 見ただけで読み取れる全ての情報とこれまでの経験が結び付き、私の危機感を瞬時に最大まで高める。


「あ、あのコの『プレイガスリア量』けっこースゴイよぉ!? 一級市民クラスだよ! 連れて帰った方がいいんじゃない!?」

「……それは私達の仕事ではないでしょう?」


「あ、貴方達!! 来てくれたんですわね!?」


 私がいつでも離脱できるように体制を整えつつ様子を伺っていると、それまで静かだったカミーナが、突然現れた四人組に話しかけた。

 カミーナはあいつらを知っているのか?


「は、早くアイツを! あのアバズレを殺してちょうだい!」


「ふぅー……また状況が分かってないヤツ一人発見~」

 四人の女の一人、乱暴な言葉遣いをする女がうんざりした様子で溜息を吐いた。


「は? 何を言っているんですの?」

「我々は貴様にどんな命令を下した? あの異邦人を密かに監視し、泳がせろと命じたはずだ。誰が捕えて手元に置けなどと言った?」


 四人組のリーダーに見える、軍人のような話し方の女がカミーナを追い詰める。


「……え?」


「ギフトの正確な成長条件は未だ不明です。分かっていることといえば、衣食住の不安も無く安全な場所でただぬくぬくと生活していては育たないということだけ……我々は彼に成長を促したいのです。正確には彼の能力に成長してほしいのですが」


 一番女性らしい話し方の、片目を隠した女が丁寧に説明する。

 彼……とはコーイチの事だろうか?


「そ、そんな、私は貴方達の役に立ちたくて……」

「この程度の簡単な言いつけも守れぬとは、やはり貴様もただの愚鈍なシャーフであったな」

「言う事を聞けば、た、助けてくれるって言いましたわよねぇっ!?」


 助ける? カミーナを? 何から助けるんだ?


「だから言う事もちゃんと聞けてねぇってことだよ。お前はここで処分する」

「処分……?」


 カミーナはぼそりと呟くと、

「くっくっくっくっ……くくくくく……」


 丸い体を折り曲げて笑いだした。


「かはははははは……っ……処分、処分……処分されるのはぁ……お前たちだよ!! クソ生意気な餓鬼どもがぁぁぁああああ!!」

 カミーナが突然激昂して雄叫びを上げると、彼女が幾つも身に着けている指輪の内の一つが眩く輝き──


 部屋の天井を突き破って降り注いだ大量の水が、謎の訪問者四人を一瞬で押しつぶした。



「ぎゃはははははははははハハハハハハハっっっ!! この私を弄んだ罪ですわァ!! この売女どもがぁァァァァ……ア?」


 次の瞬間、迸る鮮血。


 カミーナの全身から氷の棘が突き出していた。


「あぁ~あ。オレが殺ろうと思ってたのに」

「勿体ぶるからこうした不意打ちを受けることになるのです」

「まぁいいじゃん! こうして無傷なんだしっ!」


 四人は無事だった。


 それも傷一つ無いどころか、濡れてさえいない。天井も床も吹き飛んだというのに、何事も無かったかのように、その場に浮いていた。

 彼女達の周囲を包む球状の光には、何となく見覚えがあった。

 ……あの日、あの男が落ちてきた日。

 二度目の魔光雷を防いだ巨大な力場。

 あれに似ているのだ。


「……あの女はどうすんだ?」

「放っておきましょう。かなり優秀なシャーフのようだし、今殺すには惜しいわ。いずれ召し上げられる事もあるでしょう」

「美人さんだしね!!」

「承知した。それでは帰投する」


 突然現れた四人組は、その会話を最後に幻のように掻き消えた。


「一体何者なのよ、あいつら……」


 見たことも無い服に、見たことも無い術。底知れない力に、あの人間を見下した……いや、同じ人間とすら思っていない態度。根っからの貴族のそれに近いが……それだけでは無い、何か異様な雰囲気の連中だった。


 しかし、幸いな事に奴らは去った。

 間接的にではあるが、カミーナの処断という目的も果たされた。

 だが……最悪の事態は未だ進行中だった。


 壁に空いた大穴から見える市街地に、幾本もの巨大な水柱が立ち上るのが見えたのだ。


「あーもー、今度はなんなのよ……!?」


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