怖い
少し時間が戻ります。ミランダ視点です。
シャワーを浴びるというコーイチと別れて、私はトモエちゃんと一緒に貨物室に行く事にした。
大道芸見本市に出場できる事になってやる気がムクムク湧いてきたので、寝る前にもうひと頑張り練習しようという事になったのだ。
トモエちゃんが苦手な水術を練習して水鏡を作れるようになってくれたので、コーイチやソフィがいなくても練習が出来るようになったのだ。ありがたや~。
トモエちゃんにアレコレ教えてもらいながら練習すること一時間ほど。
「今日はそろそろ止めとこか?」
トモエちゃんが顔を手で扇ぎながら言った。
運動の熱で上気した頬や首筋、汗で服がぴったり張り付いて露わになった抜群のスタイル。
エッチです。
「な、何をヒトの事じぃっと見てんねん!」
私の視線に気付いたトモエちゃんは、恥ずかしそうに両手で体を隠した。
「ご、ごめん! いやぁ、トモエちゃんはエロいなぁと思って」
「おっさんか!」
「……私はもう少しだけ一人で練習してから行くよ」
「さよか? あんま根詰め過ぎたらアカンで。体壊したら元も子も無いんやから」
「分かりました! 気を付けます!」
「うん、せやせや。ほな、ウチはシャワー浴びて部屋に戻るで?」
そう言うと、トモエちゃんは格納庫から出て行った。
体を壊しちゃ元も子もない……しかしそうは言っても。
「ようやく分かってきたんだよねぇ……私のダンスが滅茶苦茶ヒドイって事が……!」
以前はどこが悪いのか自分ではちっとも分からなかった……むしろ上手に踊れているとすら思っていた。
それが実は途方もなく下手クソだったということが、ようやく最近分かるようになってきたのだ。
何度も何度も繰り返し練習し、何度も何度もラインの乙女のダンスを穴が開くほど見続けた結果だと思う。
私にしては格段の進歩だ。
一度伸びをして、それから練習を再開しようとした時だった。
「……まぁだやっておるのか? ご苦労なことじゃのう」
背後からソフィちゃんが呆れたような声で言った。
「ソフィちゃん……! いつの間に?」
「ふん、た、たまたま通りかかっただけじゃ」
「でも、居住区は最上階で貨物室は最下層だし、廊下の突き当りだよ?」
「う、うるさいのじゃ! ……それより、そんな茶番にいつまで付き合うつもりなのじゃ?」
私はソフィちゃんを見つめた。彼女が何を言いたいのかが分からなかったからだ。
「いつまでって……? 考えたこともなかったけど……立派なアイドルになるまで、とか?」
ソフィちゃんは再び呆れたように溜息を吐くと、
「ふん……結局やっておる事は、踊り子でも吟遊詩人でもない中途半端な芸じゃろ。そんなんで金を取れるようになるとは、余には到底思えんのじゃが?」
「そ、そんな事ないよう! ソフィちゃんだって、ラインの乙女のライブ観たでしょう? 感動したでしょう?」
「ふ、ふん。確かに感動したわ。じゃがあれだけのショーに仕上げる事が本当に可能かの? 我々の持ち得ない異世界の技術をふんだんに用いた演出が盛りだくさんじゃったろ?」
「それは、そうだけど……きっとコーイチやトーニャが頑張ってくれるよ!」
「ふぅむ、コーイチやトーニャがか……。どうにも他人任せじゃの?」
「仕方ないじゃん! 難しい事は分からないし……私は私に出来る歌やダンスを頑張るしかないの!」
ソフィちゃんはふっと頬を緩めて、
「その歌やダンスは上手く行っとるのかの? 踊れてるか? 歌えてるか? トモエに迷惑をかけてはおらんか?」
言葉の一つ一つがチクチクと私の弱い部分を刺激する。
「何なの……? なんでソフィちゃんそんな意地悪言うの……? 私、ソフィちゃんに何かしたのかな……?」
ソフィちゃんは私の言葉を無視して話を続けた。
「まぁミランダがアテにしておるそのコーイチは、もうすぐにここからいなくなってしまうじゃろうがな」
私は心臓が止まるかと思った。
「はっ……えっ……!? なんで!?」
「コーイチを助けたのは、元々市長のカミーナから依頼を受けたからじゃ。コーイチを引き渡した暁には金貨五百枚という破格の条件じゃ。みすみす逃す手は無いじゃろ? それに噂によると市長は異邦人の送還についても研究しておるという話じゃし。コーイチにとっても渡りに舟じゃろ」
私は全身の力が抜けて床にへたり込んだ。
「は……へ……そんな……コーイチは……私達をプロデュースしてくれるって言ったもん……! 人気者になれるって……私でも……!!」
「そ、そんなに悲しむでない! これは……その、コーイチがいなくなってもミランダが悲しまぬように忠告しておるのだ! また前と同じに戻るだけのことじゃ! 何も悲しい事なんてないじゃろうが!」
急に狼狽え始めたソフィはそれだけ言うと、貨物室から逃げるように去ってしまった。
私はと言うと、混乱と悲しみと喪失感と信じたくない気持ち……全てがないまぜになって、ただただ溢れてくる涙を止められなくなっていた。




