初舞台決定?
「そりゃあ帰って来るでしょ? ここがコーイチのお家なんだから」
ミランダがキョトンとした顔でソフィを振り返る。
ソフィはふんと鼻を鳴らすと、
「全く、ミランダは分かっておらんのー」
などと言いながら一人歩き去ってしまった。
「おかしなソフィだねぇ」
「せやなぁ……まぁああいう態度はいつもの事やけど……何か知ってる風なのも気に食わへんなぁ。全く難儀なやっちゃ」
ソフィはメルティナがカミーナに俺を連れてくるよう依頼された件を知っているのだろうか?
メルティナの話しぶりによると、この三人は知らない筈だったようだけど……。
「あぁ!! そんなことより! これ見てよこれ!!」
そう言うとミランダは一枚のチラシを俺の鼻先に突き出した。
手に取って読むと、
「第二十一回アゲイド市大道芸見本市……?」
「そう!! 毎年アゲイド市で開催されてるお祭りみたいなもので、国の内外から自分達を売り込みたい人が集まって芸を披露する大会なんだって!! 歌やダンスもアリだって言うから、早速エントリーしてきちゃった!!」
「はぁ!?」
な、なんと勝手なことを……。
相変わらずとんでもない行動力だ。
「あ、あれ? ダメ、だった?」
俺が唖然としてリアクションを取れずにいると、ミランダが上目遣いで俺を見上げてくる。
「せやから言うたやん~。こういうんはコーイチに相談してからがええんちゃう? って~」
「で、でもでも!! もうすぐ参加受付の締め切りだって言うし、急いだ方がいいかなって思って……」
次第に瞳をウルウルさせ始めたミランダの頭を、俺は優しく撫でた。
「いや、よくやったぞミランダ。まだまだ未熟だけど、ステージに立ってみないと分からないこともあるし、目標がある方がモチベーションも上がる。そろそろ初ライブをやってみるのもいいかもしれん。当たって砕けろだ!」
ミランダの顔がひまわりのようにぱぁああっと明るくなった。
「うん!! 頑張ろう!!」
「え、ええんかコーイチ? 時間もそんな無いし、ウチらの歌やダンスはちゃんと完成してるんやろか……?」
「いいんだよ。そりゃあラインの乙女のクオリティにはまだ到底及ばない。けど芸の道に終わりはないのだから、どれだけ上達しても『完成』なんてないのさ。そんなもの目指していたらお婆さんになってしまう。あるのは『現状でのベスト』越えるべきは常に『昨日の自分』だからね。ま、失敗したっていいから取り敢えずやってみよう」
俺がそう言うと、トモエは自分の頬を両手で張って気合を入れた。
「コーイチがそう言うんやったら、ウチもハラくくらなアカンな! ミラちゃん、練習頑張ろな!」
「えいっえいっおーっ!! だねっ!!」
さて、二人はやる気を出しているが、俺はまだまだ考えなければならない事や気になる事が山積みだ。
早いところ頭の中を整理して、俺も二人のプロデュースに集中したい。
シャワーを浴びて部屋に戻り、俺は軋むベッドに腰かけた。
今日は激動の一日だった……。
初めてのお使いに旅立ち(コブ付き)、この剣を始めとした重要な物をいくつか仕入れるところから始まり……ミレイユとの恐怖のランチ、本屋での買い物。
さらにはカミーナとのディナー。
一日にして入ってくる情報が多すぎる。
やはり差し当たって気になるのはカミーナ、そしてアサギだ。
カミーナは「家の格が上がるから」とかそんな理由で俺を助けたと言っていたが、これがまず信じられない。
生粋の商人であるカミーナがその程度のメリットでわざわざ大金を賭けるだろうか?
しかも帝国内のスパイから情報を得て、帝国領内において出現した異邦人の身柄を掠め取るという、明確な敵対行為を犯してだ。
大口の輸出先であるアマンドラ帝国に弓引くようなマネをしてまで、俺を手に入れようとした理由はなんなのか?
因みに、異邦人は世界の宝であり、その行動や意志を阻害してはならないという条約まであるらしい。
それ故に各国は自国に現れた異邦人とは可能な限り良好な関係を築こうとするそうだ。それが即ち「国賓扱い」ということなのだとか。
そして、謎のコスプレイヤーアサギ。
どうにも彼女の態度が解せない。
実は俺が思っているより異邦人というのがありふれた存在である……という可能性はあるが、それにしたってリアクションが淡泊すぎないだろうか?
いくら何でも他人行儀過ぎるというか……いや、実際他人なんだが、海外旅行なんかに行って日本人に出会うと、やたらに親近感を覚えて、初対面なのにフレンドリーに話しかけてしまうことってあるだろう? それの超スゴイ版だ。……なかなか上手い例えだと思ったんだが。
俺はうっかり手を握ってしまったが、本当なら抱き着きたいくらい嬉しかったのだ。
だというのに、彼女が俺に話した事といえば、カミーナの屋敷に留まることでどんなメリットがあるのかといったプレゼンじみた内容だけだった。
いくらなんでも不自然じゃないか?
異邦人を元の世界に送還する術については、メルティナも眉唾だと言っていたな。
冷静に考えてみれば、王様でもなんでもない一介の領主のお抱え術士程度がそんな術を開発できるのであれば、とっくの昔に術式が確立されているはずなのだ。
それに、世界の宝である異邦人を積極的に元の場所に帰してやろうなどと考える人間が、どれほどいるだろうか?
そんな事をして得をするのは異邦人だけなのだ。
あるいはいつか送還術を開発する者がいるとしたら、それは異邦人なのかもしれない。
「はー……疑問は尽きんなこりゃ……」
俺が天井を睨みつけながら独り言を言っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉を開けると、そこにいたのはトーニャとメルティナのドワーフコンビだった。
「よう!! コーイチ!! 遂にドワーフの酒が手に入ったからねっ! 約束通り酒盛りと行こうじゃないかっ!」




