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帰り道

 カミーナが手配した帰りの馬車の中、メルティナが口を開いた。


「ごめんなさい……何も言えなくって……」


 俺がそっと手を握ると、メルティナは驚いて顔を上げた。


「こちらこそすみません、メルティナさんが悩んでいた事に気づけなくって……」

「わ、私はあの船の船長としての責任があるのだし、自由には代償が付き物なのだし、コ、コーイチが謝る必要はないのよ!?」


 メルティナが赤い顔を背ける。


「そ、それに軽蔑したでしょう? 私がコーイチを金目当てで助けたなんて……いえ、私たちは帝国からコーイチを横取りしただけなのだから、助けたとすら言えないかもしれないけれど……」

「はは、僕はむしろ安心しましたよ。メルティナさん達が純粋なる善意だけで得体の知れない男を命がけで助けたのだとすれば、聖人過ぎますからね。……この世界は僕がいた世界よりもずっと危険で、死がいつも身近にあります。皆が自分の生活や命を守るのに必死では、他人の命が軽くなってしまうのは当然でしょう。そんな価値観が当たり前の世界で、お金のためとはいえ命がけで助けてくれた恩人を軽蔑したりなんてできるはずがありませんよ」

「……ありがとう。ふふ、でもミランダは……あの子は純粋な善意だけでコーイチを助けたと思うわ。あの子はそういう子だから」

「ああ、きっとそうですね」


 メルティナは少しだけ明るい声で笑ったものの、またすぐに暗い顔に戻った。


「……お願い。お金の事は気にしないで。皆で頑張ればどうとでもなるんだから。コーイチの意志を優先して。どちらを選択してもらっても、私は構わない。送還術に関しては正直眉唾だけど、市長のところにはコーイチと同じ世界から来た人もいるみたいだし……。でももしコーイチが市長の所に行って、私がお金を受け取った事がバレたら……ミランダやトモエには嫌われるでしょうね」


 メルティナは沈んだ声でそう言うと、ふーっとため息を吐いた。


「そんな事にはなりませんよ。金貨五百枚と引き換えになりますが……必ずそれを超える働きをしてみせます。ですから……俺をまだ船に置いてもらえませんか?」

「金貨五百枚なんて……コーイチは皆にとって、もうお金には変えられない存在になっているわよ。……も、もちろん私にとっても」

「はは、ありがとうございます」


 メルティナと話しているといつの間にか港に着いていたようだ。

 馬車が止まり、御者が客車の扉を開けた。

 俺が先に降り、メルティナに手を差し出す。


「あ、ありがとう」

 メルティナは何故か緊張した様子で俺の手を取ると、腰を上げて降りようとした──その時。


「あっっ!?」


 小さな声が上がる。

 メルティナが自分のスカートの裾を踏んでバランスを崩したのだ。


「おっ……と」


 彼女を抱くような形で、俺はその小さな体を軽々と受け止めた。

 メルティナの体は細く柔らかく、筋肉の存在はそれほど感じられなかった。

 これだけ華奢にも関わらず戦闘になるとあれほどの強さを発揮できるというのは、やはり術による自己強化が極めて重要だという事の証だろう。


「ご、ごめんなさい」


 俺の腰の辺りに抱き着いた状態のメルティナが、顔を真っ赤にしながら消え入りそうな声で謝った。

 ……その割に、なかなか離れようとしない。


「あ、あの……」

 俺が声をかけようとした時。


「あーーーっっ! せんちょーがコーイチといちゃついてるっっっ!!」


 ミランダが大声で叫ぶのが聞こえた。

 途端にメルティナが俺から飛び退く。


「い、いちゃついてなんかいないわよ! ちょっと転けそうになったところを助けてもらっただけ!」


「えーーー!? ホントかにゃあ?」


 馬車の音に気付いて出てきたのだろうか?

 ミランダ、トモエ、ソフィの三人が甲板から見下ろしている。

 メルティナがミランダに向かって中指を立てながら船に戻っていった。

 あのハンドサインの意味は、どうやら俺の元いた世界と同じらしい。

 船に入ると、三人が出迎えてくれた。


「お帰りー! どうだった!? どんなお話した!? ご飯美味しかった!?」

「こらミランダ落ち着きぃ! コーイチはんも疲れてはるってぇ」


 目をキラキラさせながら俺を質問攻めにするミランダと、それを止めるトモエ。

 そして二人の背後、少し離れた所につまらなそうな顔でソフィが立っていた。


「ただいま」


 ソフィに声をかけると、彼女はため息を一つ吐き、


「なんじゃお主、帰って来たのか」


 と小声で呟いた。

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