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コールブランド

「俺も挑戦していいですか?」


 小男はニチャリと顔を歪めて笑った。

「もちろんさ! 行列が出来ても慌てず騒がず、最後に悠然と現れるのが王の風格! だろ?」

 俺は苦笑いしながら鉄貨三枚を小男に渡した。

「まいど! 剣を抜ければ、この剣も帝国の次の皇帝もアンタのモンだぜ兄ちゃん!」

 剣はともかく、皇帝には興味ないんだけど……。


「コーイチが皇帝になった暁には、あのにっくきミレイユをクビにして、故郷でジャガイモでも作らせるッス!」

 俺は横目で肩に止まった極彩色の小鳥を見た。

 お前まで何を言っているんだサイファス……。


「よし、それじゃあコールブランドを抜くぞ!」

 そう宣言し、俺は正面に視線を戻した……のだが。


「あれ?」


 無い。


 今まで……サイファスに目を向ける瞬間まで俺の目の前にあったコールブランドが、無い。


 キョロキョロと周囲を見回すが、どこにも見当たらない。

 もう一度視線を戻す。

 よく見ると、コールブランドが刺さっていた岩だけが……いや、割れて真っ二つになった岩だけが鎮座している。


 ……何が起こっているんだ?


「お、おい、兄さん」

 聞き慣れない声のする方を見ると、これまで一言も発する事の無かった大男が、声を震わせ、顔面蒼白でこちらを指差していた。


「はい?」


「て……手……っ!」


「……手?」


 俺は自分の右手を顔の前に持ってきた。

 そこで初めて、俺は自分が何かを握り締めている事に気が付いた。


 俺の手には、コールブランドが握られていた。


「えっ……えええええええええっっっっっ!?」


 えっ……あれ? 俺いつの間に?

 コールブランドは美しい黄金色の光を発している。

 しばらく経つと、刀身に沿って中空から鞘が形成され始め、コールブランドはあっという間に覆われてしまった。

 それに伴って、発光も収まった。 

「おお、おおおお、おおおおおおお…………!!」

 俺が困惑していると、大男が滝のように涙を流しながら走り寄って来て、身を投げ出すようにひれ伏した。

「王よ……! 我らが王よ! 伝説は本当だったのだ……!!」

「ま、マジかよ……」

 感動に咽び泣く大男とは対照的に、小男の方はただただ信じられないといった様子でぼそりと呟いた。


「代々コールブランドを見守る一族?」

 大男はジャニ、小男はモズルと名乗った。

 俺は広場の隅で、この剣についてもう少し話を聞くことにした。

「そうなんです。俺たちの家はこう見えても歴史が古くて……まぁ古いってだけですけど。ン百年も前から代々この剣を守りながら帝国で木こりをやっとったんです」

「それが、なんでこんなところに?」

「何代か前までは、次期帝国皇帝は必ずこの剣に挑戦する慣わしがあったのですが、いつの間にかその伝統も無くなってしまい……おとぎ話としてはこの剣の話はそれなりに残っとったんですが、時折訪れていた一般の挑戦者も最近じゃ滅多に来なくなりまして……このままでは剣に選ばれし王者など見つからないのではないかと……」


「そこでこの頼れる兄、モズルが一計を案じたってぇわけだな。向こうから来ねぇなら、こっちから出向いてやりゃあいいってよ!」


 俺とジャニの会話に割り込んでドヤ顔を見せるモズルに、ジャニが冷たい視線を送る。

「なぁにが一計を案じただ。モズルはこの先祖代々伝わる神聖な剣を小狡い金稼ぎに使いたかっただけだろうが。あと、たかが一分早く生まれたくらいで兄貴面するのはよせといつも言っているだろ」

「なにをぅ!? 俺のお陰でここまで楽ちんで快適な旅が出来たんだろーがぁだだだだだだ!! やめろ! アイアンクローはやめろォ!!」


「俺達は幼い頃から両親に、この剣とそれにまつわる王の話を毎日のように寝物語に聞かされ、コールブランドを守る誇りある一族なのだと教えられて育ちました……。必ずこの剣の運命を見届ける、あるいは次代に伝えるのだという使命は、父の遺言でもありました……! この使命を果たす事ができ、そして新たな王の誕生に立ち会う事が出来て、俺は感無量です……っっっっ!!」

 ジャニは感極まったのか、再び滝のような涙を流し始めた。


「い、いやまだ王様とかになったわけじゃないし、なるつもりも……」


「いい加減離せジャニ! このっ! ……どぅわ!!」

 ジャニはモズルを離すと、俺の前に跪いた。

「是非とも俺を、コーイチ様の臣下にお加え下さいぃぃいっ!!」

「ええ!? いや、困りますよ! 僕は下っ端だし、勝手に船員を増やすような真似は出来ません!」

「下っ端!? その剣をかざせば、どんな無知蒙昧な輩でもコーイチ様を王と認めましょうぞ!」

「そんなのジャニだけだろ!! あーあ、どうすんだよコールブランド取られちまって! 良い商売だったのにヨォ!!」

「馬鹿者! モズルも跪かんか!!」

「ぎゃん!」

 モズルがジャニに力づくで地面に押しつぶされる。

「いやいや、跪かなくていいんで……それにホント、貴方を連れてはいけませんから」

「左様ですか……」

 ジャニは少し落ち込んだ様子だったが、すぐに顔を上げた。

「それでは、この不肖ジャニの力が必要になった際はいつでも呼んで下さい! どこまでもすぐに、鷹の如く駆け付けますぞ! それまでは故郷の森で研鑽を積んでおります!」

「故郷の森で研鑽って……まさか今更木こりに戻るつもりかよォ!? 俺ァ戻らねぇからな! ここで商売で一発当ててやんだ!」

「馬鹿者! 剣に選ばれし者が現れた以上、我が一族は王に仕えるのが新たなる使命! 帰るぞ!」

 そうピシャリと言い切ると、ジャニはモズルの首根っこを掴んだ。

「あっ! こら離せ! 帰らねぇ! 帰りたくねぇーーーーーー……」

 ジャニはモズルを引きずりながら港の方へと去って行った。


「これはまた、熱い家来が出来たもんッスねぇ……」

「いや、ホント帝国の王になるつもりなんてこれっぽっちもないんだけど、こんなスゴイ剣貰っちゃっていいのかなぁ……?」

「いいんじゃないッスか? コーイチは剣に選ばれたンスから」


 棚ぼた的に、俺には分不相応な剣が手に入ってしまったが……初めて握るはずのこの剣は、まるで体の一部であるかのようにしっくり来る。

 これが「剣に選ばれる」という事なのだろうか?

 とにかく一つだけ確かな事は、由来がどうであれ、俺専用の剣がたったの鉄貨三枚で手に入ったという事だ。

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