選定の剣?
俺は一度船に戻って重い荷物を置いてから、再び街中に戻って来た。
「さて、次は自分専用の近接武器が欲しいんだが……」
この世界で生き抜く為、大切な人たちを守る為に、術を応用した戦闘スキルをメルティナに教授してもらうことになったのだが、
「まずはメインで使う武器を決めないとな。まぁメジャーなところだと剣かなぁ……」
人によってそれぞれ適正もあるらしいが、一応剣道の経験もある為、俺は剣を探す事にした。
「ほほう、コーイチも剣ッスか。まぁメルティナも剣が得意みたいだし、教えてもらうにしても都合がいいッスよね」
本当は他にも得意科目はあるのだが、引き出しはどれだけあっても困るものではない。
「しかし、一口に剣と言ってもまた色々種類があるッスよ? 重い剣、軽い剣、太い剣、細い剣、直剣に曲剣、片刃に両刃と」
「うーん、まぁ最初は扱いやすい剣がいいかなぁ。素直でクセの無い……まぁ兎に角いろんな剣を見てみるか」
露店の武器屋が軒を連ねる通りへやってくると、一軒一軒吟味して回り、良さそうな剣があれば店主に頼んで振らせてもらった。
「しかし、思ったよりピンと来るのが無いなぁ」
いや、正確に言うと、良いなと思う剣もあるにはあったのだが、それらは軒並み値段が高く、手が出なかったのだ。
「良いものってのはやっぱ高いんスねぇ」
「適当に、人気のある手頃な剣にしておいた方がいいのかなぁ?」
俺が肩に乗せたサイファスとぼやきながら歩いていると、道が交差した場所にある小さな広場に、ちょっとした人だかりが出来ていた。
「大きな声じゃ言えないが、ここにおわしますのは彼の有名な選定の剣『コールブランド』!! 何故ここにあるのかって? それは聞かないお約束。帝国においては誰も抜ける者がおらず、巡りめぐってあっしの荷車の中に! さぁさぁ誰か! 我こそは王の器に相応しいと思う者あれば、今こそ柄に手をかけよ! 引き抜いた者は、いずれあの悪名高き『灰かぶり姫』を打倒し、新たな帝国の王となるであろう! さぁさぁ、挑戦は鉄貨三枚だよ~」
人だかりの中心にいたのは、口達者に口上を述べるなんとも胡散臭い小男と、筋骨隆々で厳つい顔の寡黙な大男。
そしてエアコンの室外機くらいの大きさの岩に刺さった両刃の剣だ。
コールブランドと言えば「アーサー王伝説」に登場する聖剣エクスカリバーの異名。
この世界にも似たような伝説が存在するようだ。
「嘘付くな~! 何で選定の剣がこんなとこにあるんだよ!」
「どーせ偽物だろ~!!」
人垣からヤジが飛ぶ。
しかし小男は待ってましたとばかりに怪しい笑みを浮かべると、
「まぁまぁ皆さん落ち着いて! そうおっしゃられるだろう事は当方も想定済み! よってこの場でこの剣が本物だと証明してみせましょう!」
小男がそう言うと、大男の方が一歩前に進み出た。
「この醜男……じゃなかった大男は、力ばかり強くてオツムの足りない我が不肖の弟! だがそんな弟でも役に立つ事はあるのです! さぁさぁ弟よ! 引き抜けるものなら、力づくでこの剣を引き抜いてみなさい!」
小男がけしかけると、大男は無言でコールブランドの柄に手をかけ、岩の上に足を置き、
「ふんんッッッッッ……!!」
と、顔を真っ赤にしながら渾身の力で引っ張った。
しかし剣はビクともしない。
「如何です皆さん? ……え? 随分と演技派な役者を雇ったって? ロイヤルオペラも真っ青?」
なんだなんだ……誰も何も言っていないのに、小男一人で謎の小芝居が始まったぞ?
さっきのヤジはてっきりサクラの仕業かと思っていたが、そういうわけではなかったようだ。
「抜けないんなら刺さってる岩を壊しちまえって? ……皆さん随分と乱暴だナァ。ですがそこまでしねぇと信じられねぇってんなら、よござんしょ! やっちまいなァ! 弟よ!」
すると大男が岩にかけていた足を下ろし、岩ごと剣を持ち上げた。
そのまま剣を振り上げ、大上段に構えると──
「さぁてお立合い!」
小男が煽ると同時に、ぶおん、と唸りを上げて、剣が振り下ろされる。
剣先にくっついた岩は地響きを立てて地面に打ち付けられた。
猛スピードで岩が衝突した地面は深く抉れ、人だかりにも騒めきが起こった。
大男の正面方向に立っていた数人は、驚きと恐怖で逃げ出したり尻もちをついたりしている。
そして肝心の岩はというと──無傷。
割れたりヒビが入ったりしないのはもちろん、カドが欠けるという事すらない、完全な「無傷」だ。
その後も大男は何度か同じように岩を地面に叩き付けたが、結果は変わらず。
剣と岩はまるで物理的な干渉を拒んでいるようにすら見える。
「すごいな……一体どういう仕掛けなんだろう?」
俺が感心していると、
「うーん、いやこれは……」
肩に止まったサイファスが唸る。
「どうだ! これこそ本物の『コールブランド』! 我こそは王になる器という挑戦者よ、来たれ!!」
小男と大男のコンビにすっかり乗せられた人々が、我先にと鉄貨三枚を支払って柄に手をかけ始める。
「ほ、本物……!?」
「剣の中にすんごい高エネルギーが見えるッス。術力を添加された武器は多くあるッスけど、これほどの物は見たことないッス。まぁ本物かどうかはともかくとしても、アレがとても強い力を持った剣である事は間違いないッスねぇ」
人々が代わる代わる剣を引っ張るが、抜ける様子はないようだ。
見た目はその辺で売っている剣と大差無いように見えるのだが……。
「せっかくだし、俺も挑戦してみるかな」
「えっ、マジッスか? あんな胡散臭い輩に金を払うんスかぁ?」
「でもあの剣は実際スゴイ剣なんでしょ?」
「ま、まぁそうッスけど……」
「なら、うっかり抜けちゃったらそのスゴイ剣が鉄貨三枚で手に入るんだから、やってみる価値はあるな。まぁ無理だろうけど!」
ダメでも三百円の損ならいいか……と思わせる絶妙な価格設定だよなぁ。
コールブランドチャレンジの行列が短くなり、最後の一人になったのを見計らって、俺は小男に声をかけた。




