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秘密特訓

「コーイチ、なんでそんなとこで寝てんの?」

 ミランダが俺の視界にニュッと顔を出した。

「休憩中だ……」

 俺は息も絶え絶えにそう答えた。


 質問されても仕方無い。

 俺は廊下のど真ん中に仰向けで倒れているのだ。

 強化状態を維持し続けるのがこれほど大変だとは思わなかった……。

 メルティナにリストバンドを貰ってからまだ十分程度しか経っていない。

 集中を切らさずにいる事ももちろん難しいのだが、それと同時に疲労も半端ではないのだ。

 最初のうちは何とかなるかもと思っていたが、甘かった。

 まるで延々とマラソンでも走らされているようだ。


「大丈夫? 肩貸してあげようか? これから練習だけど、貨物室まで来れる?」

「だ、大丈夫。少し休んだら自分で行く……」

 そもそも今の俺の体重は自重+二百七十キログラムだ。

 トモエならまだしも、ミランダに肩を貸してもらったところで、一緒に行き倒れるだけである。


 そう、ミランダ。


 この娘は術不能者なのだ。

 トモエは言うに及ばず、ソフィも近接戦闘は苦手としながらもかなり高レベルな術者だそうだ。

 だがミランダは、この術が使えて当たり前な世界の中で術が使えない。

 なので身体能力強化も行えない。


 メルティナが言ったように人間の体など脆弱なものだ。

 ひとたびミランダがこの世界の誰かから殺意を向けられれば、彼女は藁のように殺されるだろう。

 実際彼女のような術不能者と呼ばれる人々は、その多くが何らかの理由で幼いころに死んでいるそうだ。


 この世界は俺がいた世界と違って過酷だ。

 何らかのハンディキャップを背負った人間を生かす余裕はこの世界には無い。

 だが世界が、社会が守ってくれなくとも、俺が守る。

 ミランダこそ俺が最も注意深く守るべき存在なのだ。

 もう二度と、所属アイドルを失わない為に。

「そう? じゃあ先に行ってるよ~?」

 ミランダは舞うように廊下を駆けて行った。


「どうどうっ!? かなりイイ感じじゃない!? アイドル近づいてきたぁ!?」

 貨物室にて。

 俺とミランダとトモエは、今日も今日とてアイドルになる為のレッスンを続けていた。

 椅子にどっかりと腰を下ろし、身体能力強化を解かぬように注意しながら二人の歌やダンスの出来栄えを見る。

「う~ん、そうだな……」

「なんじゃいコーイチ!! 全っ然ダメ~~~~ってはっきり言わんかい!!」

 俺が必死に言葉を選んでいるというのに、何故か毎日見学に来るソフィが外野から野次を飛ばす。

「ソフィは黙っててぇな!」

 そう言いながら、トモエも苦笑いを浮かべている。

 う~~ん、正直キビシイ。

 トモエは何とかサマになってきてはいるが、問題はミランダだ。

 歌に関しては、発声が下手だし、音程も不安定。

 ダンスもキレがどうとか以前に、振り付けを独自解釈でもしているのか、間違えて覚えてしまっているし、リズム感も絶望的だ。

 この世界に来たばかりで俺自身も覚えなければいけない事が多かった為、ここしばらくは自主練習に任せていたのがマズかったようだ。

 うーん、こうなったら……。


「ミランダ……」

「は、はい?」

「秘密特訓だ!!」

「……秘密特訓? 今コーイチがやってるみたいな?」

「うっ、なぜそれを……」

「でもいいねっ! 秘密特訓! なんか楽しそう! 何やるの!?」

 ミランダが目を輝かせている。

 秘密特訓という響きが気に入ったなら好都合だ。

「秘密なんだから、ここじゃない別の場所でやるのだ! すまないがトモエ、ちょっとまた自主練しててくれないか?」

 言いながら俺がトモエにアイコンタクト。

 どうやら俺が言いたい事はトモエにも伝わったようで、

「分かったでコーイチ。ウチはソフィに手伝わせるさかい、二人で秘密特訓してきてや~」

「ちょっ、なんで余が手伝う流れになっとるんじゃ! 余はお前たちの無駄な努力を肴に昼寝しに来ておるだけじゃぞ!?」

「えっ、トモエちゃんに悪いよ。私がコーイチを独り占めなんて……」

「それだけコーイチはミラちゃんに期待しとるいうことや! ウチの事は気にせず、秘密特訓してきてやぁ~」

「おいコラ! 余を無視するな~っ!!」


「お? いらっしゃいッス! どうしたッスか?」

 俺とミランダはサイファスの部屋にやってきた。

「ちょっとミランダと二人で秘密特訓をしたいんだが……場所を借りてもいいかな?」

「いいッスよ~!! 皆が貨物室で練習するようになったんで、ちょっと寂しかったトコッス!」

「それなら丁度良いね! で、秘密特訓って何するの?」

「そうだな……」


 俺は相手を挑発するボクサーのように重い手足をだらんとぶら下げながら、なんとか思考を巡らせた。

 正直、歌もダンスも壊滅的だ。

 ミランダにはもっともっと基礎的な事から叩き込むしかない。

「歌かダンスか、どちらを先にするか……」

「だったらダンスをやってみたらいいんじゃないッスか?」

 なぜかそんな提案をしてきたのはサイファスだった。

「コーイチは今、身体能力強化の訓練中ッスよね? どうせならその状態で一緒に体を動かせば、コーイチの秘密特訓にもなるんじゃないッスか?」

 こ、こいつまで何故知っている……!?

「あ、コイツなんで知ってんだって顔したッスねぇ? コーイチが着けてるそのリストバンド、昔メルティナが着けて訓練してたのを見てたンスよ。メルティナも随分大変そうだったッス」

「こ、これを着けて一緒に特訓……や、やってやろうじゃねぇ~か……っ!!」

「わぁい! コーイチと秘密特訓開始ぃ~!!」

 こうして俺とミランダの苛烈な特訓が始まるのだった。

 

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