侵入者?
いつの間にか日が経ってしまう!
「気に入ったぜお前ら! いつか助けが必要な時があったら、遠慮無く言いな! お前らなら格安で雇われてやるぜ! 荒事・揉め事の解決は、アゲイド市公認『クレイジーキャラバン』に任せとけ!」
ゲーハはそう言いながらドヤ顔で親指を立て、颯爽とサンドバイパーから降りて行った。
というか、傭兵団に名前とかあったのか。
「これで全員か……」
傭兵団が全員降りて、貨物室には解体された地竜の素材と鳴水晶の山が残るのみとなった。
最初に傭兵団を見た時は野蛮そうで(まぁ実際野蛮ではあったが)少々怖かったのだが、中々気の良い連中だった。
いなくなってみると少し寂しいものだ。
リーダーであるゲーハの人徳によるところも大きかったのかもしれない。
実に爽やかなナイスガイであった。
「……ん?」
俺は今回の仕事を始める時に、傭兵団の名簿を作った。
理由は、うっかり誰かを置いて出発してしまったりしないようにという配慮からだ。
乗り降りする時は一人一人名前を確認し、名簿にチェックを入れていたのだが……。
「一人、降りてない人がいる」
クミル・クルーシード。
あのウサ耳の女の子だ。
「トイレにでも行っているのかな?」
俺は船内を探してみる事にした。
「お~い、クミルさ~ん!」
トイレの方に向かいながら呼び掛けてみるが、返事は無い。
「あれ? コーイチ何してんの?」
俺がフラフラとクミルを捜し歩いていると、ミランダが通りかかった。
「ああミランダ。あのウサ耳のクミルさんを探しているんだけど見なかったかい?」
「ううん? 見てないけど。捜してるなら、伝声管で船全体に呼び掛けてみたら?」
なるほど、その手があったか。
俺達は早速近くの伝声管で呼び掛けてみる。
「迷子のお知らせを致します。クミル様。クミル・クルーシード様。お連れ様がお待ちです。至急貨物室までお越しください」
「……何今の?」
「何って、迷子の呼び出しといえばこのフレーズだろ?」
首を傾げるミランダと一緒に一度貨物室に戻る。
しかし待てど暮らせどクミルは現れない。
代わりに現れたのはサイファスだった。
初めて会った時の幼女バージョンだ。
「二人とも! ちょっとこっちに来るッス!」
「? どうしたんだいサイファス?」
サイファスは難しい顔で重々しく口を開いた。
「二人が探しているクミルとかいう小娘の事ッスけど……男子トイレにいるッス」
「へぇ、分かるのかい? っていうか男子トイレ!?」
「この船は私にとって体の一部みたいなモンッスから、この程度は簡単ッス」
因みに、元々この船には男子トイレなど無かったのだが、船内に幾つかあったトイレのうち一つをトーニャがリフォームしてくれたのだ。
それにしても男子トイレとは、盲点だった。
間違えて入ったにしても長すぎる。お腹でも壊したのかな?
「で、そのクミルなんスけど、どうも不穏なオーラが出てるというか……」
「不穏なオーラ? ってなんだ?」
サイファスは顎に手を当てて眉間に皺を寄せ、目を瞑った。
幼女な外見と変に大人びた仕草がアンバランスで、俺は笑いそうになるのを堪えた。
「私はこの船に乗っている人間なら、直接見なくとも大まかな感情を読み取る事ができるんスけど」
「わお。そりゃまた恐ろしい能力だね。隠し事出来ないじゃん」
「コーイチ!! 何か隠し事してるの!? コーイチと私の仲じゃないの!」
「してないしてない!」
俺は慌てて否定した。
慌てて否定した所がさらに怪しく見えたかもしれないが、断じて隠し事はないぞ。
本当だぞ。
「そのクミルの感情がどうも……緊張とか不安とかそういうのが見え隠れしてて……」
「ふーむ……まぁ取り敢えず男子トイレに行ってみよう」
ミランダ、サイファスと共に男子トイレの前に来ると、メルティナとソフィが待っていた。
「お、来たわね」
「なんで余まで来なければならんのじゃよ……」
ソフィは相変わらずグチグチとボヤいている。
最近ではそういう芸風なのだと思う事にしている。
「呼び掛けても反応が無いのよ。私達が入ってみてもいいんだけど、ホラ、一応ここって男子トイレって事になってるから……」
どうやら俺に気を使ってくれたらしい。
「じゃあちょっと僕が中を見てみますよ。皆さんは待っていて下さい」
「くれぐれも気を付けるッスよ!」
俺がドアを開けようとする直前、サイファスが念を押すよう耳打ちしてきた。
「大丈夫だよ。悪い人には見えなかったし」
「プロフェッショナルってのは悪いヤツに見えないもんッスよ」
まぁその意見には全く同意だが。
サイファスの忠告を聞き流しながら、俺は男子トイレに入って後ろ手にドアを閉めた。
男子トイレの中には小便器が一つと個室が一つ、そして手洗い場がある。
……クミルはいない。
「アレ?」
個室のドアをノックしてみる。
「クミルさ~ん、大丈夫ですか?」
反応が無い。
試しに個室のドアを押してみると、開いた。
鍵もかかっていない。
あれれ?
サイファスが間違えたのかな?
そう思い、俺が個室に背を向けた時だった。
「全く、甘いの。甘甘なの。カカモカよりも激甘なの」
後ろを振り向こうとしたが、出来なかった。
俺の首筋には既に冷たいモノが当たっていたからだ。




