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帰還

「よし、それじゃあ残りの鉱夫の人たちを助けて、外に出ますか」

「この地竜の死体も持ってな~」

「えぇ!?」

「大丈夫! ウチ一人で引っ張れるさかい」

「めっちゃデカイけど、坑道通れるのかな……?」


 その後、新たに助けた数人の鉱夫と地竜の死体を持って鉱山を出た。

 外ではメルティナとソフィが鉱山に入る準備をしていた。


「アンタ達!! 生きて戻ったんだね……!!」


 無事を喜ぶ言葉とは裏腹に、俺とトモエはメルティナにぶん殴られた。


「無茶すんじゃないわよ!! 私達がどれだけ心配したか……!!」

 メルティナに殴られて尻餅をついていた俺に、今度はミランダも飛び付いてきた。

「そうだよぉ!! 地竜と戦う為に残ったって聞いて、死んじゃったらどうしようって、想像しちゃっで、どんどん涙が溢れちゃってぇ~~~~!!」


 相当泣いたのだろう。

 既に顔中が涙と鼻水で真っ赤になっていたのに、今度は安心したせいか、まだまだ尽きることなく涙が溢れてくるようだ。


「ふ、ふん、危うく余に面倒をかけるところだぞコーイチ! 不届きな家来めが! ……ま、まままぁ、無事に帰ってきたところはその、評価してやらんでもないが! 全く皆に心配かけおってバカ者め」


 ソフィは相変わらず素直じゃないけれど、やっぱり凄く心配してくれてたらしい。


 そして皆に頭を下げて謝ろうとした瞬間。


 突然俺めがけて一直線にスパナが飛んできた。

 俺は間一髪キャッチして飛んできた方向を見ると、トーニャが怒った顔で中指を立てていた。


「心配かけたようで、すまなかったよ皆」

「ホンマ堪忍やで。二度とこないな事は無いようにするさかい……」

「そうよ二人とも! 無茶する前に、もっと良い方法が無いかよく考えなさい!」

 メルティナがこめかみに血管を浮き出させながら詰め寄ってくる。

「いや、コーイチは止めたんやけど、ウチが突っ走ってしもたんや! せやから仕方無くコーイチはウチが死なないよう助けてくれたんや! コーイチは悪くないんや!」 

「そうなのコーイチ? まぁ確かにその展開の方がアリそうだけど」

 メルティナが怪訝な顔で聞いてくる。

「ま、まぁ、概ねそんな感じですけど……アイドルを守るのもプロデューサーの業務の一つですから、トモエを制止出来なかった僕の責任ですよ。次は力ずくでも止めます」


 鬼族のトモエを力ずくで止める事が可能かどうかは、議論の余地があるけど。


「ふぅ、分かったわ。反省しているみたいだから取り敢えずこの話はここで終わりにしましょう。で、それはそれとして……」

 これまでの深刻そうなメルティナの表情が突如として満面の笑顔になった。


「やったああああ! 二人ともよくやったわ! まさか地竜を仕留めて持って帰ってくるなんて! これだけの竜の素材があれば、しばらくはお金に困らないわ! 二人ともありがとう~!!」


 メルティナはそう言うと、両手を一杯に広げて俺とトモエを一緒に抱きしめた。

 ただメルティナは身長が俺とトモエの胸くらいまでしかないチビッ子なので「抱きしめた」というより「抱きついた」の方が正確かもしれない。


「よぉぉおおおっし! 野郎共! 地竜を解体しに行くわよぉぉおお!!」

「おーーーっ!! 涙の数だけ儲けるぞ~~!!」

「えぇ~~っ……余、グロ耐性ゼロなんじゃが……。余よりデカい内臓とかマジ無理」

「またゲロは勘弁やで~」


 三者三様でメルティナに着いていく三人に俺もついて行こうとすると、

「おいあんた達! 俺だよ俺。ウェッジだよ」

 坑道の中で別れたウェッジが俺を呼び止めた。彼の後ろには鉱山の関係者や、傭兵団の一部が集まっていた。

「はい、なんですか?」

「いやその、あんた達に礼がしたくてな。アンタ達が地竜を倒してくれたお陰で鉱夫が何人も助かった。本国の騎士団が来るまで待ってたら死んでたかもしれねぇ……。俺はビビッて逃げちまったけど、アンタら本当にすげぇよ」

「いや、正直今回のは運が良かっただけですよ。アレは勇気じゃなくて無謀でしたね。次に同じ状況になったら僕も逃げ出すかもしれません」

 俺は本心からそう言ったつもりだったが、ウェッジは神妙な顔で首を振った。

「いや、アンタは同じ状況なら何度だって助けに行くさ。そういう目だよ」

「そう……ですか?」

 ウェッジが確信に満ちた表情でそう言うので、俺は二の句を継げなかった。

「それと、鬼の姉さん……アンタも、ありがとう。無闇にアンタを怖がったりしてすまなかった……俺達があんな態度を取ったのに、姉ちゃんは俺達の仲間を助けてくれた。本当に感謝してるよ。鬼にもアンタみたいな優しいヤツもいるって、勉強になったよ」


 そう言うと、ウェッジを含む全員がトモエに頭を下げた。


 トモエは恥ずかしくなったのか、慌ててフードを目深に被った。

「え、ええんや、気にせんといて。こっちは慣れとるし、鬼がどういう目ぇで見られとるかも分かっとる。鉱山の人らを助けたのも、ついでみたいなモンやし……」

「それでも、俺たちの命の恩人ってことには変わりない。どうかここにいる間は、そのフードは取ってくれねぇか?」

「……ほな……」

 ウェッジに言われて、トモエは渋々フードを取った。

「……うーん、初めて見た時は角にしか目がいかなかったが、なかなかどうして、器量良しだよな」

「おっと、デビュー前からファン獲得か?」

「いややわぁコーイチ!」

 俺がちゃかすと、トモエに平手でどつかれた。うーん、痛い。流石は怪力。

「まぁとにかく、礼だ。アンタ達には感謝してもしきれねぇ。何か欲しい物はあるか? 俺に出来る事は? あいにく出来る事も持ってる物も大した事は無いが、何でも言ってみてくれ」

「そんな、お礼なんて……」


 反射的に断ろうとして、何かが引っ掛かった。


 あれ? 何か重要な事を忘れているような……。


 そもそも仕事でここに来るついでに果たしたかった目的が、俺にはあったような……?



「あーーーっっ!!」



 俺は思わず大声を上げた。


「な、なんだよ脅かすなよ!」

「いや、すみません! 今大事な事を思い出したもので! その、お礼に何か下さるという事ですが、こちらの鉱山で採れるという鳴水晶を分けて頂けないでしょうか?」


 そう、鳴水晶だ!


 余りにも色々ありすぎて忘れていたが、元々俺はこの鉱山でなんとか鳴水晶が手に入れられないものかと悩んでいたのだ!

「あぁ? そんなもんでよけりゃ、一山持って行きな! 命に比べたら安いモンよ!」

「ありがとうございます!!」


 これでトニャエモンにマイクを作ってもらえる!

 ライブ開催への第一歩である!

 

 こうして、鉱山での仕事は運良く(要反省)大成功で終了する。

 筈だったのだが……。

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