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地竜との闘い②

「大丈夫か!?」

 脳を揺さぶられた影響でふらつく足に鞭打ちながら、俺は何とかトモエの下に駆け寄った。

「ごっほっ……だ、大丈夫やってこれくらい……」

「いや、明らかに大丈夫じゃないだろう……!?」

 トモエの口から赤黒い血が流れ出している。

 強烈な一撃をモロに受けて骨や内臓を損傷したのだろうか?

「このくらいの怪我はすぐ修復できるんや……コーイチはええから隠れとき! 死にとぅないんやったら絶対出てきたらアカンで!?」

 そう言うとトモエは俺を突き飛ばし、再び地竜に向かって駆けだした。

「くそっ……あの馬鹿! 勝ち目が無さそうなら取り敢えず逃げるって発想はないのか!?」

 トモエを止められない以上、なんとかトモエをサポートして地竜を倒す以外に無い。


 地竜はこれまでと同様に岩棘を撃ち出す攻撃に加え、先程の大咆哮を頻繁に織り交ぜるようになっていた。

 一度目の時のように足を止めてしまう事は無いものの、大咆哮の度にトモエの動きが鈍り、岩棘が掠める事も多くなってきた。

 今やトモエの体は鬼の自己強化による赤だけではなく、血の赤に塗れてしまっている。

 もはやいつ岩棘が直撃して体を貫いても不思議ではない。


 落ち着け。


 俺に出来る事が無いかを考えるんだ。


 俺は必死に頭を回した。


 とにかくあの大咆哮だ。

 アレをなんとかすればまだ勝機はあるかもしれない。


 要するに音だ。


 音ってのは空気の振動。


 空気の振動を打ち消すにはどうすればいいんだっけ?


 ノイズキャンセリング機能の原理は確か、ある音の波形に対して逆位相の波形の音をぶつける事だったはずだ。


 そんな事が出来るか?


 ……今この場で?


 俺は周囲の状況を見回す。


 地竜とトモエの攻防のお陰で岩壁が削れ、それまで土中に隠れていた鳴水晶の巨大な結晶が幾つか露わになっている。


 俺は懐からスマホを取り出し、高機能な音声編集ソフトを起動した。

 皆とのボイストレーニングや編曲に使えるかもしれないと思っていたソフトだ。


 頼む。


 あと一回。


 あと一回だけ大咆哮に耐えてくれ。


 血みどろになりながら高速で飛来する岩棘に対応するトモエを、固唾を飲んで見守る。


 地竜の胸郭が膨らむ。


 大咆哮が来る。


 俺はアプリを録音モードにすると同時に、耳を塞いだ。


 地竜の雄叫びは耳を塞いでいても、地面を伝い、骨を伝い、俺の全身を揺さぶる。


 トモエを見る。


 ふらつきながらも何とか岩棘を回避しているが、何本かが肩や足を掠め、赤黒い血が噴き出している。

 恐らく次の大咆哮には耐えられないだろう。


 俺は大咆哮が止むと同時に、録音した音声の波形を表示。

 その波形の位相を反転させて、大咆哮を打ち消す為の音を作り出した。


 しかし、これだけでは不十分だ。

 たかがスマホのスピーカー。

 音量を最大にしても、地竜の声帯から生み出される爆音には敵う筈もない。

 しかし――。


 地竜の胸郭が再び膨らむ。


 俺は岩陰から駆け出した。


 そう、ここは振動を増幅する力を持つ鳴水晶の鉱山だ。

 俺は一番近くにある巨大な鳴水晶の塊に飛びつくと、スマホを鳴水晶に押し付け、大咆哮の逆位相の音を最大音量で再生した――。



 地竜が驚いて頭を上げる。



 大咆哮などなかったかのように、そこには静寂が訪れていた。



 鳴水晶の「振動を増幅する」と「鳴水晶同士で共鳴する」という二つの特性を生かしたひらめきだ。

 スマホから再生される音を巨大な鳴水晶が増幅し、増幅された振動が近くの別の鳴水晶に伝わり――この大きな空間を、大咆哮を打ち消す音で包み込んだのだ。


 トモエはこの一瞬の勝機を逃さなかった。

 地竜に肉薄し、鼻先に跳躍すると、渾身の力で金棒を振り上げる――!!


 しかし、それでもまだ。

 地竜の方が一枚上手だった。


 まるでこの展開を予見していたかのように。

 地竜は地面に立っていたトモエからは見えない位置、自分の背のすぐ上に、生成済みの岩棘を無数に待機させていた。


 それらはすぐさま高速で射出され、トモエを串刺しにすべく殺到する。


 トモエは空中にいて回避も不可能。


 金棒で迎撃しようにも数が多すぎる。


 視界の全てがスローモーションになる中で、俺の脳裏にあの武道館での悪夢が蘇る。



 ああ、俺はまた繰り返すのか。



 同じ過ちを。


 また失うのか。


 命を賭けて守ると誓った、輝く原石を。


 あらゆる手を尽くしたか?

 お前に出来る事はもう無いのか?


 ――否。

 まだ一つ、奥の手がある。


 訓練は続けていたが、ようやくコツを掴み始めたところだった。

 自分を中心に発生させる事は出来るようになった。

 だが俺が本当に守りたいものは自分ではない。

 任意の対象を中心に発生させる訓練はまだまだ途上だった。

 成功率は二割にも満たない。


 だが――


 今この瞬間に成功させなきゃ、何の為の力なんだ!!


 ただ駆け寄る事しかできなかったあの時とは違う。

 今この瞬間、俺にはまだ打つべき手が残っている。


「ギフト――『守り手のアンブレイカブル・ケイジ』」


 体の内から湧き上がる力の焦点を、トモエに合わせる。

 飛来する岩棘はトモエに触れる事無く雲散霧消し、金棒は業火の殺意を持って振り下ろされる――。

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