地竜との闘い①
この世界の術の資質というものには「血統」や「種族」という要素も大いに関わってくるらしい。
エルフ族は風や樹の術が得意だったり、ドワーフには土や火の術が得意な者が多いそうだ。
それが鬼族の場合は「生術」である。
生術とは、主に生物の元々持っている力を強化する術だ。
自分や他人の身体能力や自然治癒力を高めるのが主な使い方である。
戦う事を生業とする騎士や傭兵、または医療関係者に習得している者が多いそうだ。
とはいえ生術は「応用属性」の一つである為、素質ある者はそう多くはない。
話を戻すと、鬼族が得意とするのは生術の中でも主に身体能力の強化だ。
全ての鬼族が生まれながらに備えたその術が、まさに後世に伝わる鬼の姿に影響を与えたのかもしれない。
「おおおおおあああぁぁぁああああ……っ」
莫大な熱気が放出されると同時に、トモエの体がみるみるうちに末端から赤く染まっていく。
それだけではない。犬歯がより大きく剥き出しになり、全身の筋肉や血管が著しく隆起し、白目が黒に、瞳が深紅に染まる。
生術により変化したその姿は、まさに昔話に登場する「赤鬼」そのものだった。
「と、トモエ……」
「コーイチ……隠れときや……巻き添え喰うで……!!」
そう言い残すと、トモエは目で追うのも困難な速度で地竜に向かって突進した。
トモエの立っていた地面の土が爆ぜ、俺に破片が降りかかる。
トモエは突進する勢いそのままに、金棒を横薙ぎに振るった。
「GUOOOOAAAAAAAA!!」
地竜が悲痛な雄叫びを上げる。
金棒は地竜の側頭部に直撃し、何本かの牙がはじけ飛ぶ。
「す、すごい……!!」
竜の鱗は鋼より硬く、竜の牙はその鱗をも容易に貫くと聞く。
それを一撃で叩き折ったのだ。
これは……本当に隠れて見ているだけで決着がついてしまうんじゃないか?
尚も追撃を図るトモエを、再び地竜の前足が襲う。
今度は金棒で受け止め、吹き飛ばされながらもトモエは華麗に着地。
「OOOO……GOOOUUUUOOOO……!!」
その僅かなタイムロスの間に、地竜の周囲の空中に多数の物体が出現した。
岩塊を円錐状に削り出した棘だ。
この世界には人間以外にも術を使う生物が多く存在すると聞いた事がある。
竜ほどの高等生物ともなれば、ちょっとした兵器並みの術が使用できても不思議ではない。
地竜は一本一本が人の背丈ほどもある棘を、砲弾のように撃ち出し始めた。
トモエはそれを華麗に躱し、いなしながら地竜との距離を詰めようとする。
しかし無限に生成され撃ち出される岩棘によって突進力が落ち、近付いても前足や尻尾によって迎撃されて再び距離を取られてしまう。
地竜はその名の通り土術を得意とする竜である。
そんな地竜にとって周囲三百六十度を土に囲まれた鉱山の中という舞台は、まさにホーム。
圧倒的な地の利を取られたトモエは、地竜の腹の中で戦っているも同然なのだ。
「ヤバイな……コレはジリ貧じゃないのか……?」
俺の心配をよそに、トモエは即座にこの状況に対応していた。
「こんのぉぉ!! 棘が邪魔だってんならぁっ!!」
トモエは金棒をまるで野球のバットのように振るい、撃ち出される岩棘を次々と地竜に向かって打ち返し始めた。
「GUUUUUOOOUUUUU!!」
地竜も予期していなかった行動に困惑したようで、岩棘の生成速度が鈍る。
トモエはその隙を見逃さない。
「おおおおおっらぁぁぁあああああっっ!!」
地面が爆発したかと思うような突進。
再び渾身の一撃が地竜に叩きこまれる――かに思われた。
「GYAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
これまでで一番の大咆哮。
「ぐっぅ……あぁぁっぁあああっっっっ……!!」
鉱山の土に含まれる鳴水晶の効果も相まってか、頭が割れ、意識が飛びそうになるほどの空気の振動が脳を揺らす。
俺はあまりの不快感に吐き気を覚え、反射的に周囲の土を耳に詰めてしまう。
顔を上げると、トモエも地竜の足元で立ち止まってしまっている。
そんな無防備なトモエに強烈な尻尾の一撃がお見舞いされる。
トモエは吹き飛び、岩壁に叩きつけられた。




