地竜
「GUUUOOOOOOOONN……」
いつの間にか目的地のすぐ側まで来ていたようだ。
地竜の唸り声を間近に感じる。
やがて俺達は巨大な空間に出た。
大きな体育館か、ちょっとした競技場くらいはありそうだ。
ここから更に何十本もの細い坑道が伸びている。
そんな広い空間の中央に、暗い大きな塊がうずくまっていた。
「これが地竜?」
トモエは慌てて口に人差し指を当てた。
「……眠ってはる」
ずっと聞こえていた音は地竜のイビキだったのか?
俺達は眠っている地竜を起こさないよう、静かに周囲の様子を探った。
「んー……地竜のすぐそばに誰か倒れてはるな……もう亡くなってるやろけど……」
「本当だ……ん!? 腰に鍵束みたいなものが見えないか?」
トモエは暗闇に目を細める。
「ホンマや……! てことはアイツが奴隷を管理しとったヤツやな?」
さらに地竜を挟んで向こう側の壁にも、鬼族二人のいた部屋の扉と同じ扉が見える。
「取り残された鉱夫はあの部屋にまだいるのかな……?」
「さぁ……でも取り敢えずはあの鍵束を手に入れるんが先決や」
小声でそう言うと、トモエは音を立てないよう忍び足で鍵束を持つ男の遺体へと近づいていく。
俺は地竜の動きに注意しながらトモエを見守った。
遺体は地竜の鼻先にあった。
寝ているとはいえ、いつ目を覚ますとも分からない地竜の至近距離まで近付くのは凄まじい恐怖だろう。
同胞を助ける為とはいえ……。
「くそっ……でもここまで来て止められないだろ……」
自分がトモエを守るつもりで同行したが、果たして俺は自分に課した使命を全うできるだろうか?
音を立てないようにゆっくりと近付いていたトモエが、ようやく男の遺体に触れられる距離まで近付いた。
トモエがそっと鍵束に手を伸ばした、その瞬間。
男の遺体が動き、トモエの手を掴んだ。
男は生きていた。
ただ死んだふりをしていただけだったのだ。
トモエは驚愕に声を上げそうになるも、すんでの所で口を塞いだ……のだが。
「たっ……助けてくれぇぇ!!」
あろうことか男は、地竜の鼻先でトモエに向かって大声で叫んでしまった。
「んのっ……アホゥ!! 今の今まで死んだふりでやり過ごしとったのに、あと少し我慢できひんかったんか!?」
トモエは男の口を塞いで黙らせようとするが、遅かった。
暗闇に、金色に光る一対の瞳が浮かび上がる。
「GUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
ゼロ距離で強烈な咆哮を浴びたトモエは、一瞬その場で硬直してしまった。
その隙を地竜の前足が襲う。
前足の甲で薙ぎ払われたトモエは、俺のいる方へ小枝のように吹き飛ばされた。
「トモエぇぇええええ!!」
俺は必死に追いすがり、トモエの体を何とか受け止めた。
……受け止めたというよりは下敷きになったという方が正確かもしれないが。
「大丈夫かトモエ!?」
「あぁ、ウチより自分の心配しぃや。受け止めるなんて無茶せんでええんやで?」
武道館での悪夢が蘇りかけたが、受け答えはしっかりしている。
「馬鹿野郎! 所属アイドルは必ず守るって、誓いを立てているんだ俺は!!」
トモエと俺はすぐに立ち上がり、地竜の様子を伺う。
鍵束を持った男は腰を抜かして地竜の足元に座り込んでいる
地竜は男にも同じように攻撃するかと思いきや……次の行動は俺達の予想を裏切り、そして――絶望させるに足るものだった。
地竜は大口を開けると、足元に座り込んでいた男を、喰った。
悲鳴を上げる事も出来ないまま、男は地竜に丸飲みにされてしまった。
「おいおい冗談だろ……あの鍵がなきゃ、鬼族の二人を助けられないぞ」
そう言いながらトモエの横顔を見ると――
にやりと、笑っていた。
まるでこの状況を楽しむかのように、にやりと微笑んでいた。
「もうアイツを殺すしか方法は無いっちゅーわけやな……上等やん」
トモエの全身から猛烈な熱気が放出される。
「鬼が島四氏族が一つ、金熊の力! 見せたろやないか!」




