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譲れない使命

「息があるな。よし、コイツは俺が担いで帰る」

 ゲーハが気絶した生存者を肩に担ぎ上げる。


 鉱山の中に入って随分と奥までやって来た。


 ここに来るまでに十人ほどの生存者や犠牲者の遺体を搬出し、今ここにいるのは俺とトモエ、ウェッジとゲーハだけだ。


「いない……鬼族の女の子ってのはどこで作業してたん?」

 トモエの同族である鬼の少女二人は未だに見つかっていなかった。


 ウェッジは苦々しい顔でじっと壁を見つめている。


「ウェッジ、君は鬼族の二人がどこにいるのか、知ってるんじゃないのか?」

 彼の怪しい態度に、俺は鎌をかけてみる。


 ウェッジは顔を俯かせ口を真一文字に引き結んでいる。


「おいウェッジ、どうなんだ?」

 ゲーハも加わり、ウェッジを問い質す。


 するとようやく口を開いた。


「ここで働いている奴隷は逃げ出さないように厳重に管理されていて、首輪以外にも十分な長さの鎖が付いた足枷を常につけられている……。それを地面に埋め込まれた鉄輪に繋いだ状態で作業するんだ。カギツメモグラが押し寄せてきた時、あいつらはこのもっと奥の、奴隷用の休憩部屋に繋がれてた……」

 激昂したトモエがウェッジに飛びつき、胸倉を掴んで持ち上げた。

「ッ……アンタ、その二人を繋いだまま逃げたんか!? 逃げる事も出来ない状態の二人を置き去りにしたんか!?」

「ひっひひぃぃぃ!! こ、殺さないで! 仕方なかったんだ! 俺は鍵を持ってないし、自分が逃げるだけで精一杯だったんだよォ!!」

 ウェッジは持ち上げられて地に着かない足をバタバタさせながら声を絞り出している。

「やめるんだトモエ。怖がってるよ」

 俺がそっとトモエの腕に触れると、トモエは力を緩めてウェッジを地面に下ろした。

 ウェッジはそのまま地面にへたり込むと、まるで土下座するような姿勢をとった。

 うわぁ……土下座ってこの世界にもあるんだなぁ。

「す、すみません、すみません」

「ウェッジさん、ウチも興奮してしもて……堪忍な」

「それでウェッジ、奴隷の拘束を解く鍵とやらは、誰が持っているんだい?」

 俺は意識して極力優しい声音でウェッジに質問した。

「ど、奴隷監視を担当してるヤツが持ってるんだけど、ソイツもまだ見つかってねぇ……一番奥にいるんだと思う……」

「一番奥か……」

 俺が呟いた瞬間。


「GUUUOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 山全体が震えるような大音響の唸り声が、坑道の深部から響き渡る。


「なんつーでけぇ声だよ!!」


 ゲーハが耳を塞ぎながら悪態をつく。


「ここは鳴水晶の鉱山だから、この声を山全体が増幅しているのかもしれないな……」


 難しい顔で考え込んでいたトモエが不意に顔を上げた。

「思い出したわ……これ、地竜の鳴き声やわ……」

「地竜だぁ!?」

「ちちち地竜!?」

 ゲーハとウェッジが素っ頓狂な声を上げる。


「地竜っつったらお前、下等な部類とはいえドラゴンだぞ!? それがなんでこんな人里に近い鉱山の中なんかにいんだよ!?」

「地竜は結構アホやさかい、まだ若い竜なんかは特にエサに釣られて本来の生息地から出てまう事もあるって聞いた事ある。大方この山の反対側に大量に生息してたカギツメモグラを食おう思て来たんやと思う」

「たっ、確かにそれなら、モグラ共が真昼間に全員飛び出してきた事も説明がつく……!」

 ゲーハとウェッジの二人もトモエの説に納得がいったようだ。


 尻餅をついていたウェッジが青い顔をして慌てて立ち上がった。

「そ、そうと分かったらこんなとこにいられるかっ! 俺は地竜に食われるなんて御免だ!!」

 そう言うと、一目散に地上に向かって走り去ってしまった。


 これがクローズド・サークルでの殺人事件なら、完全なる死亡フラグだな。


「ちっ、あのバカ一人で行っちまいやがった……。おい、そこのお二人さんも帰るぞ。俺たちの手には負えねぇ。ムンダリの正規軍に来てもらって退治するなり追い払うなりしてもらうしかねぇ」

「なに言うてんの!? ウチは帰らへんよ! 同胞を救うまでは絶対!」

「と、トモエ……っ」

 地竜というものがどれほどヤバいのかは分からないが、常に強気だったゲーハが手に負えないと言い切るくらいだ、よっぽどなのだろう。


「ゲーハの言う通り帰るんだトモエ!」


 この世界に飛ばされる瞬間の情景が頭をよぎる。


「俺は君を失いたくない!」


 トモエが俺を睨んだ。


 俺も怯まずにトモエの瞳を見つめる。


「コーイチは足手まといやから帰りぃ! ウチ一人で十分や! 地竜は鬼が島ではペットだったんや! 躾くらい楽勝やわ!!」


 口では強気な事を言っているが、トモエの瞳の奥に不安の色が揺れている。


「いや、俺は帰らない。担当アイドルを失う事は俺にとっては死ぬ事と同じだ! 絶対に連れて帰る!」


 トモエは涙目で俺の胸倉を掴む。


「コーイチに何が分かる!? もしかしたら……もしかしたらこの先で待っとるんがスズちゃんかもしれへんやんかっ!!」

「……スズちゃん?」

「ウ、ウチの親友や! 一緒に鬼が島の外に出てもうて……はぐれたんや! それからウチは、ずーっとずーっとずーーーーーーっと!! スズちゃんを探しとるんや! きっとどこかで生きてはる!!」


 俺は言葉を失った。


 トモエはただ同胞を助けたかっただけではなかった。


 友達を探し、そして救いたかったのだ。


「……分かった。俺はそれでも止めたいんだが……今の俺には君を止める術は無い」

「か、堪忍な、ホンマ……」

 トモエは震えながら俺を放した。


「だが、俺は最後までトモエに着いていく。それだけは俺も譲れん」


 もう二度と、あんな思いはしたくない。

 例え力及ばずとも、後悔だけはしたくない。


「……巻き込まれても知らんで?」



「あー……いいかお二人さん?」

 何故か申し訳なさそうにゲーハが声をかけてきた。


「あんたらの熱いやりとりは聞こえたから止めはしねーけどよ、無理はすんなよな。鬼女二人助けるのが目的なんだから、何も地竜と戦う必要は無いんだろうし。俺はこの怪我人をさっさと運ばなきゃなんねーからな。ま、死ぬなよ」


 それだけ言うと、ゲーハは地上に向かって走り出した。


「ありがとうゲーハ!」

 その背中に、俺は礼を言った。


「よし、ほな行くでコーイチ!」

「あぁ、人助けといこう」


 暗い坑道の最深部へ向けて、俺達二人は並んで歩き出した。 


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