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「お、鬼だ……」

「おいおい……手枷も首輪もねぇんだぞ……」

 周囲に動揺が広がる。


 トモエの前に立っていたウェッジは、恐怖に顔を歪めて尻餅を突いている。


「なになにこれ? どうなってんの?」

 俺は訳も分からずキョロキョロする。


 近くにいた傭兵団の面々もトモエの正体が分かった途端、じわりじわりと後ずさりしていく。


「はぁ~……フード取ったらいっつもこれやもん」

 しかし、恐怖に慄いて今にも逃げ出しそうになっている人々の中で、俺以外にもう一人、トモエを恐れない者がいた。


「よく言った! それでこそ男……じゃなくて女か! 同胞を救うってのは大事なことだからな! 俺も乗ったぜ!」

 ゲーハだ。

「おう! 案外早く仕事が終わっちまったからな! お前らも暴れ足りねぇだろ!? 俺と一緒に坑道に入るって男気のあるヤツはいるか!?」

 ゲーハは声を張り上げて協力者を募るが、船の中での威勢の良さは完全になりを潜め、傭兵達は水を打ったように静まり返ってしまった。


「でもリーダー……? そこの鬼女も付いてくるんでしょ?」

 ゲーハのすぐ近くにいた身の丈二メートル以上はあるオークの男が背を丸めて小声で話しかける。


「あぁぁああん? てめぇデカイ図体してこんな可愛らしいお嬢ちゃんが恐いってのかよ!? このリザード族の狂戦士と恐れられたゲーハ様よりもか!?」

 狂戦士がリーダーやってちゃマズイだろ。


「い、いえその……リーダーの方が恐いです、はい」


 さらにゲーハは傭兵団の方に向き直り、再び声を張り上げた。

「おうお前ら! ついさっきまで一緒に戦ってた仲だろうが! 角の一本や二本生えてたくれーで情けねぇぞ! それにこのお嬢ちゃんはサンドバイパー号の船員だぞ!? メルティナ船長の信頼する部下だ! ならお前らだって信用できるだろうが!?」


「ま、まぁ確かにそうだけど……なぁ?」

「あの『アゲイド市場虐殺』とか『ホルマ村教会皆殺し』とか色々あったけんのぅ」


 トモエは俯いて、まるで激痛に耐えるような顔をしていた。

 俺はそんなトモエの頭をぽんぽんと優しく撫でた。


 なるほどな。トモエが人前でフードを外したがらないワケだよ。


 後で聞いた話によると、鬼族は数が少なくとても希少な種族だそうだ。


 力が強く体も丈夫で力仕事に向いている反面、直情傾向で騙されやすい者が多いため、隠れ里から出奔した鬼はしばしば奴隷商人に捕まって売り飛ばされてしまうそうだ。

 しかしプライドが高く他種族を見下しがちな鬼族は、隙を見て大暴れしては各地で大事件を起こし、その影響でより迫害されるようになったらしい。


「ったくしょうがねぇなぁ。救助に参加した者は追加の報酬がもらえるよう掛け合ってやる! それなら来るヤツはいるか!?」

 ゲーハの提案により、ようやく十人ほどの傭兵達が集まった。

 これに加えて道案内役に、ウェッジを含む鉱夫数人がついてくる事となった。


「え? コーイチもついてくるの?」

「当然だろ? 所属アイドルを護衛するのもプロデューサーの役目だ」

「さっきはウチに守ってもろてたのに?」

 まぁそこを突かれると痛いのだが。

「大丈夫だ。術に関してはまだまだだが、俺にはギフトもある。修行の成果をみせてやろう」


 トモエが来るのを一番嫌がったのはウェッジだったが、トモエを集団の最後方に置くことでなんとか妥協していた。


 俺と話している時以外は終始俯いているトモエを見て、胸が痛かった。


 差別や偏見というものはどこの世界に行っても変わらず、そこにあるものだった。


 ただでさえこの世界は俺の元いた世界に比べて、遥かに多種多様な種族が住んでいる。

 その上「人権」といった概念すらも存在していないのだ。

 奴隷が当たり前に存在しているくらいだからな。


「よし、行くぞ~」

 ウェッジとゲーハを先頭に、俺達は不気味な唸り声の響く坑道へと足を踏み入れた。


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