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宝嵐

主人公視点ではありません。

「親方ぁ! 空からオジサンが降ってきてはりますぅ!」


「誰が親方よ!」


 伝声管からメルティナ船長の鋭いツッコミが聞こえる!


「え、どこどこ!?」


 バチバチと顔に当たる雨を必死に拭いながらトモエちゃんが指差す方向を必死に凝視すると、確かに空中で手足をバタつかせる人影が見えた!


「うわ、ホントだ!」


 見たことのない灰色の服を着た男の人?


「おいお前たち! 危ないじゃろ! さっさと戻って来るのじゃ!」


 船室に降りる階段の屋根の下から、ソフィちゃんが叫んでる。


 ソフィちゃんがわざわざ私達を呼びに来るなんて、よっぽど心配しているみたい。


それもそのはず。私たちは今「宝嵐」と呼ばれる特別な嵐の真っ只中にいる。


トーニャさんが言うには「宝嵐」とは、この世界と異世界とを繋ぐゲートが現れる時に起きる嵐なんだって。


 何の前触れもなく晴天の青空に黒い雲が渦を巻き、中心から異世界のお宝や勇者や賢者が降ってくるらしい? ワクワク! 


 あれ? ということは?


「早く! 早くあの空から落っこちてきているオジサンを助けよう! あの人は勇者かもしれないよ!? い、いや、たとえ勇者や賢者でなくとも、放っておいたら死んじゃうよ!」


「何言っとんじゃ! 放っとけ! 命あってのなんとやらじゃぞ! これ以上中心に近付くなんて危険じゃろ!」


 ソフィちゃんは見捨てるつもりみたい! 私には、手の届く所にいる死にそうな人を見捨てるなんて出来ない!


 そう言おうとした時だった。私達の乗る飛空挺「サンドバイパー号」が急旋回し、嵐の真ん中に突っ込んで行く!


 甲板にいた私達は風雨に打たれながら船にしがみつく!


「バカタレ! なんとしてでも助けるんだよ! アレがどんなに凄いお宝か分からないのかい!? 末は勇者か賢者か大魔王か! どんな冒険を持ってきてくれるか、分かりゃしないんだよ!?」


 伝声管からトーニャさんの可愛いロリボイスが聴こえた。


「チッ、トーニャのアドベンチャーババアめ! 巻き込まれて死ぬなんて余はゴメンじゃぞ!」


 ソフィちゃんの愚痴が聞こえたのか、今度は澄んだ鐘の音のような声が伝声管から聴こえる。船長のメルティナさん。


「助けるわよ! ついでに空から降ってくるお宝も集められたら、良いお金になるかもしれないわ! 出来るだけ寄せるから、貴方達でなんとかしなさい! 魚介類オンリーの食生活から脱出するのよ!」


「ぎゃぁ~! 正気か!」


 ソフィちゃんが悲鳴を上げる!


「任されました!」


 私はシュタッと敬礼のポーズをとって、自分の胴体にロープを固く結びつける!


「ミ、ミラちゃん!? どないするつもりなん!?」


「トモエちゃん! あの人を助けるにはもうこれしかないの! 分かるよね!?」


 トモエちゃんがいつも眠そうにしている目をめいっぱい見開いて驚いてる!


「あ、危ないでミラちゃん! そないな事して、もし下に落っこちたら……!!」


「でも、これしかないよ! トモエちゃんなら絶対できる! 私信じてるもの! イェイ!」


 ビシっとピースサインでへっちゃらアピール!


 いやまぁぶっちゃけ私も正直無茶かもとは思ってるけど。けど他に方法が思いつかないんだもん! 勇者様が助かる可能性があるのなら、挑戦しなきゃ!


 と思いつつも体は正直なもので、恐怖に手足がぶるぶると震えているけど……!!


 トモエちゃんは普段絶対に見せないような不安げな顔で迷ってたけど、すぐに意を決してくれた!


「分かったわミラちゃん……! ウチも頑張るよって、任しといて!」


「さっすがトモエちゃん!」


 私がしっかりと自分の胴体にロープを結び終わると、トモエちゃんがそのロープの反対側の端を甲板の手すりに結びつけた。


 そしてトモエちゃんは私の体を、まるで枕みたいに軽々と持ち上げると――。



「でぇぇええええええええええい!!」



 思い切り助走をつけて、落ちてくるオジサンに向かって投げ飛ばす!!


「んいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 もの凄いスピードでオジサンに向かって発射された私!


 猛烈な風雨が顔面を叩いて目も開けられないぃいいいいい!


 それでも懸命に落ちてくるオジサンの方を見上げて――!


 タイミングはドンピシャ!


「どっせぇぇぇええええいぃぃぃ!」


 私は落ちてきたオジサンを四本の手足を使ってしがみつくようにキャッチ!


 絶対に離すまいと歯を食いしばり、必死にオジサンに抱き着く!!


 やがてロープに引っ張られて落下が止まり、船の甲板に向かって力強くひっぱり上げられて行った。


 オジサンはピクリとも動かなかったけど、胸に耳をつけてみるとしっかり心音が聞こえたので気絶しているだけみたい。


 甲板に引き上げられると、トモエちゃんが駆け寄ってきた。


「ミ、ミラちゃぁぁああん! 無事で良かったわ~~~!」


「あはは、トモエちゃん様様だよぉ~!」


 私に抱き着いて涙ぐんでいるトモエちゃんは、ほわ~っとした雰囲気からは想像出来ないくらい、とんでもない力持ちなのです!


「もう、毎度毎度ミラちゃんは無茶し過ぎやって……ウチ心配し過ぎて胃がもたんわぁ~……」


「そ、そうじゃぞミランダ! そんなどこの馬の骨かも分からんようなヤツの為に命を賭けるなど……!」


 ソフィちゃんも心配してくれたのか、いつの間にか甲板に出てきた。


 いつも偉そうにしているけど、なんだかんだ寂しがり屋なの。


「ど、どこの馬の骨かは分からないけれど、宝嵐から落ちてきたんだもの、きっと立派なお宝だよ!」


「立派なお宝」ことオジサンはというと、力なく甲板に横たわってる。


 見た事も無い生地で仕立てられた全身鼠色の上等そうな服を着て、黒いフレームの眼鏡をかけてる。今はずぶ濡れだけど。


「うぅ……」


 オジサンが目を覚ましたみたい。


「大丈夫ですか勇者様? 若しくは賢者様? ……それとも魔王様?」


 どれだか分からなかったので、とりあえず色々な称号で呼んでみることに。全身鼠色である事を考えると、もしかしたら魔王様なのかも……その場合は竜鮫に食べてもらった方がいいのかな?


「未来……? 知ってるだろ? 俺の職業は君の……プロデューサーだ」

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