新たな仕事
仕事が忙しくて更新する暇が……
ブリッジへ向かう通路で、ミランダとトモエと合流した。
「あっ! コーイチ! 歌全部覚えたよ!! モー完璧! いつでもステージで歌えるんだからっ!!」
ミランダは自信満々の笑顔でブイサイン。
しかしその背後ではトモエが苦笑いしている。
どうでもいいが、この世界でもブイサインというのは一般的らしい。
「ま、まぁ確かに歌詞は完璧やと思うよ? ただその~まぁ歌のクオリティという点では……」
「分かってるよ。君たちにはまだこれからボイストレーニングの訓練を受けてもらわなきゃならない。まぁラインの乙女が受けてた訓練の見様見真似にはなっちゃうけど」
「えぇ~? もう歌えるって!」
ミランダは不満そうだ。
「ラインの乙女の歌を何度も聴いたろ? アレと同じくらい上手に歌えてると思う?」
「そう言われると……わ、わかんないけど……」
「いいかい? ただ歌えているだけでは駄目なんだ。お金を払ってでも聴きたいと思わせるような品質を目指さなければいけないんだ。俺もすぐに君達が上手く歌えるとは思っていない。誰だって最初は下手だからね。これからじっくり訓練していこう」
ミランダは落ち着かない様子で不安そうに視線を彷徨わせた。
「で、でも私、ホントにもう歌えるようになったの……」
トモエはミランダの肩に優しく手を置いた。
「落ち着くんやミラちゃん。たった一週間ぽっちでアイドルになれるんやったら、世の中人気者だらけやで。焦る気持ちは分かるけど、コーイチの言う通り皆で頑張ろうや」
ミランダは口を堅く引き結んだまま静かに頷いた。
やる気があるのはいいのだが、ミランダからは焦りのようなものを感じる。
早く結果が欲しいのかもしれないが、まだまだアイドル道は始まったばかりだ。
土台を作る段階で手を抜いていては立派な家は建たない。
ミランダには落ち着いて頑張って貰いたい。
ブリッジに入ると、メルティナとソフィが待っていた。
「新しい仕事が入ったわ! 今回のはなかなか割が良いわよ?」
メルティナは踊りだしそうなほど上機嫌だ。
「どんな仕事なんですか?」
「今回運ぶのは人よ。四十人くらい。これから詳細を説明するわね」
仕事の内容は、アゲイド市が派遣する傭兵団を近郊の鉱山まで輸送するというものだった。
なんでもアゲイド市が管理する鉱山で「カギツメモグラ」という大型のモグラに似たモンスターが大量発生して仕事にならないらしい。
それほど強敵ではないそうだが数が多いらしく、至急駆除してほしいとの要請があったそうだ。
人的被害も出ているらしく一刻を争うというので、この船に白羽の矢が立ったらしい。
市長直々の頼みだそうだ。
「というわけで、二時間後には出発よ!」
「二時間後!? すっごい急だね!」
「鉱山の中に取り残されてる人もいるとかでね。至急人手がいるそうよ? まぁその分代金はかなり弾んでもらったからね」
「でもそんな人数どこに乗せるん?」
「荷物を載せるのは貨物室と決まっているでしょう? 飛ばせば一時間の距離だし、多少乗り心地悪くたって大丈夫でしょう。お尻は痺れるかもしれないけれど」
「しかし普通の荷物と違って人は勝手に貨物室に入ったり出たりしてくれる分、余は楽ちんで大喜びじゃぞ。術で大量の荷を運ぶのも結構疲れるんじゃからな。余をこんなに働かせるなんてマジ不敬」
皆が今回の仕事内容について会話する中、俺も何となく気になったことがあったので聞いてみた。
「ところで、これから行くその鉱山ではどんな鉱物が採れるんですか?」
メルティナは「なぜそんな事に関心があるのか」とでも言いたげな、不思議そうな表情で俺の顔を見た。
「鳴水晶だそうよ? この辺りじゃその山でしか採れないんですって」
「鳴水晶!! それは素晴らしい!!」
トーニャ以外の皆が俺をキョトンとした目で見つめた。
「商人を介さずに現地で買い付ければ安くなるんじゃないですか!?」
俺の提案に、トーニャは首を捻った。
「個人や商家の持ち物でなく市営だからね……納入先も決まっているだろうし、融通は利かなそうだがねぇ」
「当たって砕けろですよトーニャさん!!」
「まぁ試しに聞いてみるのは良いとしても、金はどうすんだい?」
「そりゃあもう、僕の給料から出すに決まってますよ」
「ほ~ん?」
トーニャが意地の悪い笑みを浮かべた。
「それで足りりゃあいいけどねぇ」
「貴方達、そもそも何の話してるの? 鳴水晶がそんなに欲しいの?」
怪訝な表情でメルティナが口を挟んできた。
「プロデューサーの悪巧みですよ! あ、ホントに悪い事する訳じゃないのでご安心を」
「はぁ。何でもいいけど、面倒事だけは起こさないでよ? 皆が食いつめるかの瀬戸際なんだからね?」
「えっ、そこまでヤバかったんか……? ウチ、もっと食費削るべき?」
「食費ってよか、トモエが食べる分を減らすべきじゃない?」
「殺生な! ご飯くらいお腹一杯食べたいやないの!」
「その『お腹一杯』を常人くらいの量にしろと言うておるのじゃ! 食ってる量がトモエとトモエを除く他全員で釣り合っておるのじゃぞ!」
「はいはい! トモエが食事制限しなくてすむように仕事仕事!」
メルティナがぱんぱんと手を叩き、皆は持ち場に散っていった。
当然ながら俺たちは日がな一日アイドルの訓練ばかりしているわけではない。
働かざる者食うべからず。この船に乗っている以上は全員にそれぞれ役割がある。
メルティナは操船。このサンドバイパー号は全ての操作を船長一人で行えるようになっており、必要最低人員はなんと一人だ。
サイファスも飛ばす事はできるのだが、メルティナがいなければ全ての性能を発揮することは出来ないらしい。
トーニャはメカニックだ。機関室からシャワーヘッドまで、船体の機械部分全体の管理を担っている。
トモエは主に食事係。
料理は大層美味いのだが、節約が下手なのが玉にキズだそうだ。
ソフィは掃除と洗濯係。
いつもブツブツと文句を言いながらも術を器用に使ってこなしている。
また荷物の積み込みは、ソフィが術で大雑把に荷物を貨物室に放り込み、力持ちのトモエが綺麗に整理するというコンビネーションで行われる。
ミランダには決まった役職は無く、ケースバイケースでトモエかソフィの手伝いをしたり、サイファスの暇つぶしに付き合ったりしているようだ。
最初は色々とやらせていたらしいのだが……。
料理を作らせれば爆発を起こす。
掃除をさせればバケツをひっくり返す。
洗濯をさせれば服を破く……と、あまりのポンコツぶりに任せられる仕事がなくなってしまったらしい。
練習によって段々出来るようになってきてはいるそうだが、まだ任せるには心許ないとの事。
ミランダが劣等感を感じて焦るのも仕方ないのかもしれない。
誰だって自分があまり役に立てていないのではないか……と感じれば、心穏やかではいられまい。
かく言う俺はというと……。
「え~、お名前はパイオ=ツゥさん。乗っていいですよ~。次の方お名前は? ……ワキオ=ニギリさんですね。じゃあ乗ってください~」
乗ってくる傭兵団の皆さんの名簿作りだ。
今まではメルティナやトモエがやっていた事務や経理等の仕事がメインだ。
機械にも比較的強いということでトーニャの助手なんかもやっている。
「わぁ~!! 凄い人数だねっ!! 皆強そう!」
ミランダが貨物室に押し込まれた傭兵団の人達を見て歓声を上げる。
「せやなぁ。この船にこんな人数乗ったのって初めてちゃうんかな? やっぱオーク系とかリザード系が多いんやな。力こそパワーっちゅーやつやな!」
船員以外の人前に出るという事で、トモエは相変わらず分厚いローブ姿だ。
まるでジェダイ・ナイトだな。
「トモエがそれを言うか? それにしても脳筋ばかりでバランス悪いのう」
ソフィの辛辣な言葉に傭兵団の面々がジロリとこちらを睨む。
「ソフィちゃん!! シィッ!!」
全く、この人数を怒らせたら俺ではこの娘たちを守り切れんぞ。
……いや、むしろ俺は守ってもらう側なのか? それは……良くないな。
「傭兵団の皆さんいいですかぁ!? まもなく離陸しますから、ケガしないようにちゃんと床に座っておいて下さいねぇ!! それでは快適な空の旅をお楽しみ下さい~」
伝声管を伝わって届いたメルティナの機内アナウンスの直後、微細な揺れと共にサンドバイパー号が飛び立った。
数人の傭兵達が貨物室に幾つか設置されている丸窓にかぶりついて外を眺めている。
「危ないので座っておいて下さいね~!」
俺が声をかけると渋々床に座ってくれた。
窓から遠い場所に座っている傭兵達も、しきりに床や天井などをキョロキョロと見まわしている。
「皆、この船が物珍しいのかな?」
ミランダが呟くと、近くに座っていたリザードの男性が反応した。
「そりゃあ当然だろ。俺たちみたいな貧乏人は新造空船にすら乗れねぇんだ。ましてや遺失船なんて普通は近くで見ることすらかなわねぇ。どいつもこいつも平静を装っちゃいるが、内心ウキウキだぜ! なぁ!?」
リザードの男性の問いかけに、周囲の野郎どもが野太い雄叫びを上げて賛同する。
びっくりしたソフィが俺の背中に隠れた。
傭兵団の皆さんの短い空の旅を見守っていると、不意にウサ耳を生やした赤毛の美少女が話しかけてきた。
「ちょっといい? おトイレ貸してほしいの」
赤毛美少女は耳をぴこぴこと動かしながら俺の返事を待っている……のだが。
「……どうしたの?」
「か、可愛い……」
俺は思わずウサ耳に手を伸ばしそうになっていた。
「だ、ダメなの!! クミルの耳はいつか現れるダーリンしか触っちゃダメなの!」
怒られた。
「す、すまない。あまりの可愛さについ……トイレならミランダに案内してもらおう」
「いいよ! ついておいでっ!! ……私も触っちゃダメ?」
「女の子ならいいの」
ず、ずるい……。
それにしても。
腰の両側には大ぶりのナイフが二本。
革製の胸当てなどの動きやすそうな軽装備に身を包み、首にはゴーグルのような物をぶら下げていた。
乗り込んでくる際にも思っていたのだが、あんな女の子まで傭兵をやっているのだろうか?
とても戦いなんて出来そうには見えなかったが……。
この世界は「術」のお陰で戦闘スタイルの幅が無限に広い。
一見ひ弱そうに見えて、その実とんでもない手練れだったという例など日常茶飯事らしい。
ソフィも見た目はあんなにちんまいのに(本人には口が裂けても言えないが)一流の攻撃術を使いこなすという。
クミルという名のウサ耳娘もそんな例の一つということだろうか?
どうやら俺の戦闘術はこちらの世界では通用しそうもない。
さて、目的地まであと少し。
着くまでの間に、鳴水晶をどう手に入れるか考えなければな。




