ラッキースケベ②
息を切らせて機関室に着くと、俺は扉の前で息を整えてからノックした。
「幸一です!入っても大丈夫ですか!?」
「あッ、ちょ、ちょっと待て!」
中からトーニャの慌てた声が聞こえてくる。
俺は同じ過ちを繰り返さない男だ。
例えハーレム漫画よろしく可愛い女の子だらけの環境に放り込まれようとも、度重なるラッキースケベ展開は断固拒否だ。
そもそもあんなのが許されるのは漫画の中だけだ。
現実ならただ嫌われるだけだぞ。
最悪お巡りさんに両脇を挟まれる事になる。
「入っていいぞ」
「失礼しま~す」
俺が扉を開けて機関室に入った、途端。
何かにつまづいた。
全てがスローモーションになる。
俺は前方に向かってバランスを崩す。
そこにはトーニャがいて、俺を驚愕の表情で見つめている。
俺は何とか倒れまいと何か掴めるものを探して必死に手を伸ばす。
そして掴む。
トーニャの下半身を覆うツナギを。
袖を腰で結んだだけのツナギが俺の体重を支えられるはずもなく。
ツナギは力無くずり落ち、トーニャの下腹部が露に──
その瞬間、俺の意識は途切れた。
「……ーーい、おーーいコーイチ! 起きろ! 大丈夫か!?」
「はっ」
目を開けるとトーニャが泣きそうな顔でこちらを見下ろしていた。
普段は常に凛々しい顔をしているのでなかなか新鮮で、
「可愛い」
思わず口に出すと、トーニャの顔はみるみる赤くなった。
「なに言ってんだい!! 目が覚めたんならさっさと起きな!」
上半身を起こすと、ズキンと後頭部が痛んだ。
はて、前のめりに倒れたのに何故後頭部が痛いのか……
「す、すまなかったよ。あんなとこに工具箱を置いたアタシも悪かった」
「いや、こっちこそすみません。ラブコメ時空は二段構えでした。恐れ入りましたよ」
トーニャはキョトンとした顔で俺を見た。
「……まぁいいさね。お互い忘れよう。ところで、何か用があって来たんじゃないのかい?」
「ああ、そうそう。トニャエモンに相談があるんですよ」
「誰がトニャエモンだい! 他人を変な愛称で呼ぶんじゃないよ!」
俺はマイクに代わる、声を大きくするための術具に心当たりが無いかをトーニャに聞いてみた。
「なるほどね。そういう術具は既に存在してるよ」
「おお、本当ですか!」
「ただ、毎度の事ながら値が張る。それにアタシが知ってるのは角笛みたいな形をしてて結構デカイ。アレを持って歌ったり踊ったりは大変だと思うね」
角笛……もしかしたら拡声器に似た形状なのかもしれない。
確かにそれではライブに使うのは難しい。
「うーん、どうすれば……」
俺が途方に暮れていると、トーニャがニヤリと微笑んだ。
「なぁに、無ければ作りゃいいだけの話さ。声を大きくする術具を小型にしたものが欲しいんだろ?」
「えっ! 作れるんですか!?」
「ああ、多分な。この船に搭載されてる『振動砲』も実は似たような仕組みでな。アタシも設計に携わったんだ。材料さえあれば何とかなるだろう」
「材料はなんです?」
「ああ、『鳴水晶』って鉱石でな。振動を増幅する特性があるのさ。しかも近くにある別の鳴水晶と共鳴する特性もあるから、歌にはピッタリかもしれないね。術具を買うよりゃ遥かにマシなはずだが、さりとてアタシらの懐具合を考えるとねぇ。どこかで安く手に入りゃいいんだが」
どちらにしろ先立つモノは必要か。
ここ一週間、毎日運び屋としての仕事を受けてはいるものの、運ぶ物が農作物だったり雑貨だったりとありふれたものばかりだった。
メルティナが危険の少ない仕事を選んでいるらしいが、危険が少なければ儲けも少ない。
そもそもそんな一般的な物を運ぶのにわざわざ遺失船を使うなど宝の持ち腐れだと、トーニャも愚痴を言っていた。
俺としては安全第一なのは有難いのだが、得るものが少ないとなると……ジレンマを感じるのが正直な所だ。
俺が腕を組んで唸っていると、伝声管からメルティナの声が響いた。
「新しい仕事が入ったわ。全員ブリッジに集合よ」
俺とトーニャは機関室を飛び出した。




