水鏡
「マジかこやつ……」
ソフィが戦慄の声を上げる。
俺が術適性を検査してから一週間。
遂に水鏡を作り出すことに成功していた。
「うおおっ! 出来た! 出来たぞぉおおおおおおっ!」
俺の歓喜の雄叫びが貨物室に響き渡った。
まぁ出来たと言ってもまだ手鏡ほどの大きさの水鏡を作ったに過ぎず、これを壁一面に広げるにはまだしばらく訓練が必要だろう。それに、気を抜くとすぐに床に水溜まりを作ってしまう。
「懸命に集中して水面を波立たせたり、小指の先ほどの水球を作り出すところからここまで、長かった……」
意外だったのは、この世界の術というものは基本的に呪文詠唱のようなものが無いのだ。
正確には呪文詠唱や発動キーの呪文が必要な場合もあるのだが、それはもっと危険な術や難易度の高い術、大規模な術などに限られるらしい。
なので見た目の印象としては超能力に近い。
俺が感慨に耽っていると、ソフィが怒り出した。
「長くなんかないわ!! 普通は素質のある者でもゼロからここまで一カ月はかかるわ! それにお主、術の訓練の後に、サイファスとギフトの訓練もしておるのじゃろ?」
「そうなんだよ。お陰様で最近寝不足なんだ。まぁ俺のやる気と体力の成せる技だな。水鏡が出来ないとダンスの練習が始められないし」
因みにここまで俺に術を指導してくれたのはソフィだ。
サイファスは人間の技術である術は指導できないというので、トモエが水術が一番得意なソフィを推薦したのだ。
ソフィは嫌がったが、トモエの説得によって渋々引き受けてくれた。
「コンセントもトーニャが増設してくれたし、これでスマホから音楽を流しながら練習する目処がついたな」
最低限の練習環境は整った。
次に考えなければならないのは、そうだな。
「ライブで使う設備……かぁ」
マイクと照明設備、伴奏をどうするか。この三つは最低限考える必要がある。
いや、音響設備が何とかなれば、伴奏はスマホを音源にすればいいか。
音質は多少ショボくなるが。
元の世界ではライブを行う会場に大きく左右される要素なのだが、こちらの世界にはそもそもそんな設備のある会場はない。
つまりは全ての設備を持ち込む前提で考えなければならない。
兎に角最低限必要なのは音響、照明だ。
難問だが、一つ一つ解決していこう。
「というわけで」
「何が『というわけで』だ。術の訓練に終わりはないぞ。生涯修練じゃ」
「自分の声を大きくする方法って、何か心当たり無い?」
「ぬ? うーん、まぁ風術にそういう術はあるが」
お? あっさり解決か?
「俺の世界ではマイクという音を大きくする機械があったんだけど、それの代わりになるかな?」
「勿論なる。大道芸人や役者には必須の術だな。余は使えるし、トモエには風術の素質はないが、それほど高度な術という訳ではないから訓練すれば使えるようになるかもしれん。しかし……」
「あ、ミランダか」
ソフィは無言で首肯した。
「そうじゃ。ミランダには使えん。術不能者じゃからな。何らかの術具を用意してやるしかない」
術具か……特定の術の効果を再現する道具だ。マジックアイテムというヤツだな。
術具に関してはあの人に相談するしかあるまい。
「すまん、ちょっと機関室に行ってくる! 術は自主練しておくから、ソフィは歌の練習の方を見ててくれ!」
そう言って俺は走り出した。
「あっ! おいコラ! 待てぇ!」




