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術適正試験紙

 俺は機関室を飛び出した。先ほど走った通路を逆戻りする。


「お帰り~。早かったね? こっちはまだ曲を聴いてるところなんだけど……」

 俺は息を切らせてサイファスの部屋に再び戻ってきた。


「あぁ~、そのまま続けて。サイファスちょっと」

 俺はサイファスに向かって手招きをした。


「ど~したッスか?」

「実は……」


 俺はトーニャの話をサイファスに伝えた。


「なるほど、遂にコーイチも術を覚えたいということッスね?」

「差し当って、水鏡が作れればいいんだけど……」

「フフ、簡単に言ってくれるッスねぇ。物事には順序があるッス。まずは適正検査をするッスよ」


 そう言うとサイファスは部屋にあったキャビネットの引き出しを片っ端からまさぐり始めた。


「えぇーと、確かどこかに……」


 ようやくサイファスが戻ってくると、手には何やら一枚の紙切れが握られていた。

 よく見ると不思議な模様が描かれている。


「これは術適正試験紙ッス。これを使うとその人がどんな術系統に資質があるのか見ることができるッス! 結構お高いものなので感謝するッス!」

「へぇ……どうやって使うんだい?」

「これをおでこに貼って意識を集中すると、得意な術系統に対応した色が浮かび上がるッス。水術なら青、樹術なら緑みたいな具合ッス。得意系統が複数あれば、その分多くの色が出るッス」

「ふーむ、なるほど」

 リトマス試験紙みたいだな。


「しかし、術系統って?」


 サイファスによると術には、訓練次第で誰でも使えるという

 基本属性 土・風・火・水・樹

 使えるようになるには才能とかなりの努力が必要という

 応用属性 雷・金・生・霊・知

 極めて希少な才能が無ければ使うことができない

 限定属性 空・時・光・重・灰

 今では使える者がいなくなってしまった幻の術

 遺失属性 界

 という十六の系統があるらしい。それらのどの系統の素質があるかを色で識別できるようにしたものがこの術適正試験紙だそうだ。


 俺は早速キョンシーよろしく額に試験紙を貼り付けた。


「目を瞑って心を穏やかにするッス。自分の体の中に流れる血液や神経、内臓をイメージして、体の内側の声を聞くッス」


 俺は自然な姿勢で立ち、言われた通りにしてみる。


「そうすると、体の中に二つの力を感じるはずッスけど」


 静かに目を瞑っていると、まず最初に初めてこの世界に来た時に体の内から湧き出た力の塊のような物が感じられた。


 体の中心にあり、太陽のように熱く力を放っている。


 そして……


「な、なんだろうこれ。体の真ん中にある力以外に、全身の細胞がざわめいて、波打つみたいに……囁いてくる。細胞の一粒一粒に意志があるようで……気持ち悪い」

「流石ッスね! その感覚をもう掴んだッスか! 普通はその段階で数日はかかるんスけど……」

「で? 次はどうするんだい?」

「体の中心にある大きい力はギフトの力で、全身のざわめきが術力の方ッス!! 自分が全身の細胞を指揮するようなイメージで、額に意識を集中するッス!」


 俺は言われた通りにイメージする。


 全身の細胞を足先から額に向けて撫でるように注目させ、言う事を聞かせる。


「おおっ」


 サイファスが驚く声を聞いて目を開けると、額に貼られた試験紙が淡く発光している。

 やがて光が消えると、


「もういいッスよ~。お疲れ様ッス!」


 サイファスが額の試験紙を剥がす。


「う~ん、これは……」


「え、もしかして、全然術の才能が無いとか? 何とか水鏡の術は使いたいんだけど……」

「いや……その逆ッス。こんなの見た事ないッス……」


 サイファスに試験紙を見せてもらうと、まるで虹のように色とりどりに染まっている。


「何だかよく分からないんだけど……結果はどうなんだ?」

「さっき言ったように、この紙は得意系統の色が出る仕組みッス。大抵の場合は二~三色程度の色が淡く出るんスけど……これだけ沢山の色が、しかもこんなに鮮やかに出るなんて異常ッス」

「異常って……俺大丈夫なの?」

「うわッ!! なんじゃこれ。キモッ……余が以前調べた時もかなり鮮やかに出たが、これほど多くの色は出んかったわ。うーん、腹立つ」

「ひゃ~、コーイチえげつないわぁ~……異邦人って皆こないな感じなん?」


 いつの間にか背後から覗き込んでいたソフィとトモエも驚いているようだ。


「いや、ゲンさんが調べた時は三色くらいだった気がするッス」

「あの~、結局俺の術の素質とやらは……」


 ソフィが試験紙を取ってまじまじと見つめている。


「そうじゃな……この結果を信じるならコーイチには……」


 ゴクリ。


「土、風、火、水、樹、雷、生、知……それに見たこともない色の反応も出ておるから、何らかの限定属性の適性もあるかもじゃな。全く忌々しい」

「あ~……それってすごいのかい?」

「すごいッスよ! 普通は二系統で並、三系統で優秀、四系統もあれば天才なんスよ!? それが基本五属性に応用属性が三つ、最低でも八系統の術に適性があるなんて初めて見たッスよ! これから修行を積めば、『三賢者の高弟』も夢じゃないッス!!」


 三賢者とか何とかは俺にとってはどうでもいい事だ。


 重要な事は、自分の力をアイドルの為にどう生かす事が出来るかどうかなのだ。


「術で他にどんな事が出来るかはおいおい分かるとして、まずは水鏡の術を覚える事が先決だ」


 トモエやソフィが俺の様子を見に来たのとは対称的に、ミランダは一人黙々と歌の練習を続けていた。


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