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ラッキースケベ①

 アイドルはまずファンに見せられるパフォーマンスが無ければ成り立たない。

 その為には楽曲と振り付けが必要だ。


 本当はこの世界の文化にあった楽曲や振り付けを作ってみたいところだが、出来る人間もいないし時間もかかるのでそれは先のためにとっておこう。


 とりあえずはラインの乙女の曲や振り付けを流用する事にする。


 次に必要なのは練習場所だ。いつまでもサイファスの部屋で練習するわけにもいかないので、早急に何とかしなければ。


 相談の為にトーニャのいる機関室へ走る道すがら、メルティナがいた。


「あ! メルティナさん! 帰って来てたんですね!」

「あっ! あぁうん……そんな急いでどこに行くの?」


 少し浮かない顔をしているな……とは思ったが、この時の俺にはメルティナを気遣う余裕は無かった。


「あー、メルティナさんが船長なんですから、許可取った方がいいですよね、当然」


 俺は事の顛末をかくかくしかじかと掻い摘んで話した。


「アイドルグループ結成!? ……ってのがどういう事かは正直よく分からないけれど……」

「活動はできるだけ運び屋の仕事に影響の少ない範囲でやっていきたいとは思いますので何卒……まぁどうせしばらくはひたすら練習にはなると思うんですけど」

「要するに今すぐやりたい事は、貨物室の隅を練習場所にしたいんでしょ? いいわよ。それほど場所を取らないのなら」

「ありがとうございます!!」

 俺はキビキビと深い礼をして、再び機関室へ歩き出そうとした。


「あっ……コーイチ」

「はい? なんでしょうか?」


 振り返ると、メルティナが落ち着かない様子で目を泳がせていた。


「あぁ~……やっぱりいいわ。忙しそうだし、また後で」

「はぁ、分かりました」


 そう言うとメルティナは行ってしまった。


「う~ん、面倒な事になってきたわね……」

 というつぶやきを残して。


「トーニャさん!!」


 ばんっ!! と俺が勢いよく機関室の扉を開けると。


 そこにはショーツとタンクトップだけというミルクチョコレート色多めなトーニャの姿が。


「すみませんでしたぁッ!!」

 俺は飛来するレンチを回避しながら機関室の外に飛び出した。


「いや、先ほどは本当に失礼しました……」


 機関室に入るのは初めてだ。

 壁中に這い回る蛇のような配管が徐々に寄り集まり、機関室の中央に鎮座する大きな金属製の物体に接続している。


 アレがこの船を動かす動力源なのだろうか?


「この船に男がいることを忘れてたアタシも悪いけどさ……今度からはノックしな!! ここは暑いから常にツナギ来てると死んじまうんだよ!」


 今のトーニャはツナギを下半身に履いて袖を腰で結んでいる。上半身はタンクトップのままだ。


「ったく生き生きしたツラしやがって……息切らして駆け込んできて、何の用だい!?」

 ぶっきらぼうな言い方に反して、トーニャの表情は何となく嬉しそうだ。


「はい。僕が目を覚ませたのはトーニャさんのお陰です。それで早速お願いなんですが―」


 俺はトーニャに必要な設備について説明した。


「ふむ……貨物室の隅にコンセントを増設は……まぁゲンさんにやり方を教わったから可能だが……巨大な鏡は無理だね」

「あ、そうなんですか」

「異邦人の世界じゃどうかは知らないが、アンタ鏡ってのが幾らするか知ってんのかい!? 手の平くらいのちっこい鏡だってこの船の数カ月分の食費くらいはかかるってのに、壁みたいな大きさの鏡を何枚もなんて、アンタを帝国に売っぱらうくらいしないと買えやしないんだよ!?」

「ひ、ひぃ!? それはご勘弁を……」


 そうか、こっちの世界のモノの値段ってのを考慮していなかったな。

 ただでさえこの船にはお金が無いようだし。 


 しかし鏡がなければダンスの練習がやりにくくなる。


「なんてね。コーイチは異邦人だから知らないだろうが、この世界では鏡を持っていない人間はどうやって自分の姿を見ていると思う?」

「は? 鏡無しにですか? そんな方法が?」


「水鏡だよ。水術を使える人間なら、水を壁に貼り付けて鏡の代わりにできるんだ。水術が得意でない人でも、女なら水鏡の術だけは使えるってヤツもいるくらいだよ」


「なるほど!! その術を使えば鏡をわざわざ買わなくてもいいワケですね!」

「そういう事だよ。コンセントはなるべく早くやっておくから」

「ありがとうございます!」

 術、術だ! 遂に俺も覚える必要が出てきたようだ。

 果たして異邦人の俺が使えるようになるのだろうか?

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