これがアイドル
最初真っ暗だった会場内に突如として星空の如く輝きだす色とりどりのライト、レーザービーム。
それに呼応する完璧なタイミングで大音響のイントロが鳴り響き、スポットライトの下に三人のアイドルが姿を現す。
ラインの乙女の為だけに集まった数千人のファン、ラインの乙女の為だけに用意された幻想的な空間の中で繰り広げられるパフォーマンス。
一糸乱れぬダンスに、一切ブレる事の無い歌声。信仰にも近いファンの熱狂までをも一つに束ね、皆を夢の世界に連れて行く……偶像。
三人とサイファスは動画が終わるまで一言も発する事無く、息を飲んで見入っていた。
……動画が終わっても誰も一言も発しなかった。
「えーっと……終わったけど、どうだった?」
三人の後ろで見ていた俺の方を振り返ったミランダは。
「ち、ぢょっどだにごれぇぇ~ずごずぎるぅぅ~~~」
泣いていた。滝のように涙と鼻水を垂れ流しながら泣いていた。
というかミランダ以外もそうだった。
「いや、ちょっとこれ想像越えすぎやわホンマ……なんなんこれ……三人ともカッコええし可愛いし綺麗やし……なんや光がピカピカしとるのも引き込まれよるし……」
「いや、これは……余は泣いてないぞ!!」
「こ、こんなの無理! 無理無理無理!! 私がこんな神様みたいなキラキラになるなんて無理だよぉ~!!」
「諦めんなぁぁーーーーーッッッッッッ!!」
これが漫画なら俺の背景にはドーンと雷が落ちていることだろう。
皆もびっくりしてこちらを見ている。
「び、びっくりしたぁ……なんかコーイチ、キャラ変わってない?」
ミランダがなんだか心配そうに見上げてくる。
「違ぁぁーーーう!! これが本来の俺だぁあああああッッッ!! 俺は取り戻したのだっ! プロデューサーという真の姿を!! お前たちが俺を目覚めさせたのだ!! よってお前たちは責任を取らなければならないッ……!! 逃げる事は許されんのだぁああああッッッ!!」
「……なぁコーイチはん、ホンマに大丈夫でっかぁ……?」
トモエにも本気で心配された。
ソフィは俺が叫んだのが怖かったらしく、涙目でトモエの背後に隠れている。
「……おほん、大丈夫だ。俺は壊れてなどいない。しかしこの動画を見ただけで弱気になるとはなんとも情けない……あの全力アウェーの酒場で歌った君達はどこへ行ってしまったのだ!!」
「こんなん見せられたら仕方ないじゃん!! 私はなんていうかもっと、すっごい大道芸とかなんとかそんな感じのをイメージしてたのに全然違うんだもん……なんかもう夢! 幻! ってカンジ」
「せやなぁ……なんやもう圧倒的過ぎて……何をどうしたらこないなことになんのか全っ然想像つかへんもん」
「フム……しかしこのラインの乙女の三人だって、一番最初はただの素人だったんだぞ?」
「えぇ~? ホントにぃ?」
「当然だろ。未来はとにかくダンスの覚えが悪い上に自分に自信も無いもんだから自信がつくまで人一倍練習させたし、佳子は覚えは良かったけどなかなか照れが消えなくて本番では実力が発揮できなかった。入間は天才肌だったけどやる気にムラがあって、プロ意識を持たせるのに苦労したもんだ」
「はえ~……この人らにも下手くそな時代があったなんて信じられへんなぁ」
俺はぽんぽんと二つ手を叩いた。
「よぉ~し!! じゃあまずは俺の指定する曲を三曲覚えてくれ! 練習場所を作るまでの間、ここで歌の練習をさせてほしいんだけど、大丈夫かいサイファス?」
「いいッスよ~! なんだか面白そうッス!」
サイファスは快諾してくれた。
「なんじゃコーイチめ、生き生きしおって……なんか腹立つんじゃが?」
「何だ、ソフィは俺がずっとウジウジしてる方がよかったのか?」
「ま、それはそれでもっと腹立つじゃろうがな!」
ミランダは自分の頬をパンパン! と叩く。
「よぉ~~し!! コーイチがやる気なんだから、私も無理だなんて言ってらんないね!! やるぞぉ~~~!!」
「コーイチを信じてウチも頑張ってみるわ~」
「よし! じゃあスマホの使い方はサイファスに教えておいたから、しばらく自主練習しててくれ! 俺は色々とやることがあるんでな!」
俺はサイファスの部屋を飛び出した。
体にも心にも活力が戻ってくるのを感じる。
思えばこの世界に来て昨日までの俺は魂が抜けていたような気がする。
俺は異邦人だ。
ただ世界に流されるのではなく、世界に関わる、あるいは変える存在にならなければいけない。
俺はこの世界に「アイドル」という存在、概念、あるいは生き方を持ち込むのだ。




