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必要なのは、アイドルになりたい女の子。

「んなっ……!?!?」


 俺は椅子から腰を浮かせてトーニャとステージ上の三人を交互に見た。


「座っとれ」


 トーニャは何とも複雑な表情を浮かべながら言った。


 俺をここに連れてきてこの席に座らせる……トーニャも巻き込んだあの三人の計画だったのか……!!


「まぁ、見てやっとくれ。お前さんが自分の仕事に対してそうであるように、ミラもいつだって本気なのさ。アンタも本気で受け止めてやりな」


「は……い……」


 俺は再び椅子に腰を下ろし、ステージに目を向けた。


 三人と目が合ったが、すぐにプイっと視線を外された。


「なんだなんだ……?」


「ストリップでも始まるってのか?」


「馬鹿言うな、ガキ共じゃねぇか。デカい姉ちゃんはソソる体してっけどよ」


 店内の客達は展開が読めずにざわつき始めている。


 そこにミランダが店中に響き渡る大声で話し始めた。


「私の名前はミランダです! 今日は吟遊詩人さんに無理を言って、伴奏を頼みました! 歌います! 聴いて下さいっっ!!」


 先ほどのしっとりとした曲とは正反対の、アップテンポで楽し気な曲の演奏が始まる。


 その曲に合わせて三人が歌いだした。


「う……わぁ……」


 率直に言って、とにかく酷い。


 そもそも堂々と歌えているのがミラだけで、他二人はかなり照れが出てしまっている。

 声も極端に小さいし、ソフィなどは未だにトモエの後ろに半分隠れている。

 ミラにしても褒められる所は観客にビビる事無く堂々と歌えているという部分だけで、発声の仕方はなっていないし音程もブレブレ。はっきり言って音痴だ。


 これは何と言うか……お遊戯会という言葉すら生温いレベルだ。


 この状況、普通なら他人の振りをしたくなるところだろうに、トーニャは優しい笑みを浮かべてステージを見守っている。


「あ~あ、まぁた無茶な事になっちまってるねぇ……なぁコーイチ?」


「え? は、はい」


 ステージに気を取られていたため、俺は中途半端な返事をしてしまう。


「アンタにはゲンさんの、折れない心を学んで欲しいのさ。ゲンさんは建物でも船でも設計から自分でやって何でも作っちまう優れた大工だった。だがゲンさんを拾ったのは頑固者ぞろいのドワーフ連中だった。もともと物作りが得意なドワーフには長年培ってきた技術やプライドがあったから、ゲンさんは工具にも材料にも指一本触れさせてもらえなかったのさ。異邦人の技術など不要だとね」


 あれ? でもサンドバイパー号はゲンさんの協力で建造されたって……。


「だがゲンさんは諦めなかった。徐々にドワーフ達と打ち解け、自分の実力を認めさせ、ついには遺失船(ロストシップ)の修復にまで携わるようになった。――アンタはどうだい? 自分の命とまでのたまった仕事を、何もしない内から諦めちまうのかい?」


 店内の客達も演奏が始まってすぐこそは静かだったものの、歌が始まると途端にざわざわと騒ぎ出した。


「ゴルルァァ!! ふざけんな!! 引っ込め~!!」

「お遊戯的な事なら外でやれ~!!」

「詩人さんの歌を聞かせろぉ!!」


 客達による容赦の無い罵声やヤジが始まる。


 ミランダは相変わらず歌い続けているが、トモエとソフィは怖がって歌うのをやめてしまった。


 これではミランダのソロライブだ。


 歌い続けるミランダの袖をトモエがちょいちょいと引っ張っているが、彼女は意に介さない。


 俺はそんなミランダから目が離せなかった。

 ゲンさんは強い。そしてミランダも。


 アイドルという言葉すら最近覚えたばかりの少女が、気持ちの力でこれだけの場を整えてステージに上ってしまっているのだ。


 それに引き替え俺はどうだ?


 この世界にはアイドルがいないから、俺の仕事も出来ない?


 そんな馬鹿な。


 俺の仕事に必要なのはアイドルじゃない。



 アイドルになりたい女の子だ。



 そして彼女は今、目の前にいる。


「私が以前コーイチにお話しした事を思い出すッス」


 耳元でサイファスが囁く。


(異邦人の本当の価値は、この世界には無い技術や概念を異世界から持ち込み、広める事にある)

 なるほどね。


「背の高い姉ちゃんが脱ぐなら許してやるぜぇ~!!」

「おうそうだぁ!!」

「脱~げ!! 脱~げ!! 脱~げ!!」


 体が勝手に動いた。


 俺は立ち上がり、ステージに上った。


 吟遊詩人は演奏を止め、ミランダは勝手にステージに上って来た俺に抗議した。


「コーイチ!! 来ないでよ!! まだ歌い終わってないんだからね!!」


 目に涙を浮かべて怒りを露わにするミランダを、俺は抱きしめた。


「すまない。でももう十分だ。君はまだステージに立つべきじゃない。君の最初のステージは……俺が責任を持って整える」


「……へ?」


「いや、そうじゃないな……俺に君をプロデュースさせてくれ。君を……世界で最初のアイドルにしてみせる」


 ミランダはそっと俺の背に手を回すと、


「……私、頑張る」


と呟いた。

ようやくプロデューサーがやる気を出しました! 

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