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サプライズステージ

「えーっとそうだな」

 トーニャは腕組みをして中空を見上げた。


「逞しくて、色んな事を知っていて、アタシに新しい知識や新しい世界を沢山教えてくれて」


「ふむふむ」


「自分に厳しく他人には優しく、職人気質なんだけど頑固じゃなくて、新しい事もどんどん吸収してて……」


「ふむ……ふむ?」


「身長が高くて、短髪で白い歯が眩しくて」


「いや、それ異邦人のイメージじゃなくて完全に誰か個人の話ですよね!?」


 恋する乙女のような顔に変貌しつつあったトーニャが我に返り、ワザとらしく厳しい顔つきをしてみせる。まだ頬がヒクついているが。


「あ、あぁ。実はアタシは昔、異邦人に会った事があってねぇ……。ドワーフの国「独立ドワーフ共和国」にいた頃だ。ゲンさんっていうんだが、サイファスから聞いたんじゃないか?」


 ああ! 確かに聞いた。サンドバイパー号の建造に携わった異邦人。


「あはは、あの頃のトーニャはまさに乙女だったッスねぇ……」


 サイファスの言葉にトーニャがガタンッと俺の方に身を乗り出す。


「サイファス!! ア、アンタ、コーイチになんか余計な事話してないだろうねッ!?」


「余計な事って例えばどんな事ッスかね? アレかな? それともあの時の事ッスかね?」


 俺の眼前でトーニャが般若の如き形相で青筋を立てている。俺が怒られているわけでもないのに……こ、怖いンスけど。


「お前ってやつぁ……!! 焼き鳥にしちまうよ!?」


「分体なんで痛くも痒くもないッスけどね。安心するッス! 昔のトーニャさんの事は何にも話してないッス!」


「本当だろうねぇ……?」


 トーニャが血走った目を俺の方に向けてきた。た、助けて! 殺される!!


「ほ、本当ですよ! ゲンさん自身のお話をちょっと聞いただけで!」


「……なら許す」


 トーニャはようやく自分の席に座り直した。


「ゲンさんは……その、カッコよかった。憧れだったのさ。で、同じ異邦人をなんとか拾ったって言うから見に行ったら、ゲンさんとは全然違う、その……アンタがちょっとナヨっとした感じのヤツに見えたからがっかりしちまって……」


 ナヨっとして見えたか……そうか……これでも結構鍛えているんだが?


「けど思い直したのさ。アンタはゲンさんとは全然違うけど、一つ同じ部分があった。自分の仕事に誇りを持ってるって所さ。アンタは自分の仕事を馬鹿にされて激昂した。そして自分の仕事を命だと言った。それは誇りを持っているヤツにしか言えないことさ」


「それは……なんていうか、ありがとうございます」


「だからこそ」


「だからこそ?」


「アンタにはゲンさんを見習ってほしいって思う。……まぁゲンさんと会った事が無いアンタには難しいかもしれないけどさ」


「ゲンさん……ゲンさんを見習う……? どんな所を見習えば」


 そこまで話した時、先程の猫耳店員氏が料理を運んできた。


「へい、唐揚げ定食二丁お待ちだゾ」


 皿の上で湯気を上げる唐揚げは、俺の知っているものよりも若干黒いものの、まさに唐揚げだ。付け合わせにレタスに似た葉野菜とトマトに似た赤い実が添えられている。


 さらにテーブルの上には幾つかのパンが盛られたバスケットがドンと置かれる。


 船の中でもそうだったが、どうやらこの世界の、少なくともこの地域ではパンが主食なようだ。

 ううむ、米が食べたい。


「さて、冷めないうちに食おうかねぇ!」


 唐揚げを一口かじると、口内に旨味豊かな肉汁と爽やかな辛味が広がった。

 思いの外スパイシーだ。もしかしたらこの地域は香辛料が味付けのメインだったりするのかもしれない。このハーブの香りや複数の香辛料が入り混じったような複雑な辛味は、東アジアの料理を彷彿とさせる。


 久しぶりの肉料理に舌鼓を打っていると、目の前のステージに上る人影が見えた。

 羽帽子に美しい金髪の男性だ。


 かなりの美形で一見若そうにも見えるが、柔らかく微笑んでいる表情の奥にはどこか達観したような憂いが潜んでいて、年齢を分からなくさせている。


 彼は自分で丸椅子をステージに置くとその上に座り、床に自分が被っていた羽帽子を逆さまに置いた。


 膝の上に抱えたギターに似た弦楽器をリズムを取るように指で三回叩くと、流れるように弾き語りが始まった。


 演奏が始まるとそれまでの酒場の喧噪が嘘のように静まり、店内の客全員が聞き惚れていた。


 かく言う俺もだ。


 彼が歌っていた曲は、ある旅人が当ての無い旅を続けながら人々と出会い、別れ、時に自らの故郷や家族に思いを馳せるというような内容だった。


 各地の神話や伝説を歌ったものではなく、吟遊詩人という生き方そのもの……あるいは異邦人の生を歌ったもののようだった。


 俺は目の前の食事を忘れて聞き入った。


 まるで今の自分と、これからの自分のこの世界での人生を歌っているように思えて……視界が滲んだ。


 音楽の力はどこの世界に行っても偉大である。


 人の心を動かす力がある。


「アイツはここしばらくこの街に滞在してる、人気の吟遊詩人さ。毎日どこかの路上や酒場に出没しては歌ってるとか。人気がありすぎて、アイツが現れた店は必ずその日満席になるってぇ噂だよ。……まぁこんな演奏聴かされちまっちゃあね。一家に一人欲しくなっちまうよ」


 トーニャもかなりのお気に入りのようだ。


 やがて演奏が終わると店中から割れんばかりの拍手が起こり、そこかしこから羽帽子の中に硬貨が投げ入れられた。


 俺も投げ入れたかったのだが……無い袖は振れぬのだった。


 代わりにトーニャが投げ入れていた。


 拍手が収まると、吟遊詩人は何やら話し始めた。


「ええ……皆さん。今日もご機嫌麗しゅう。いつも私の演奏を聴いて頂いてありがとうございます」


「おや、珍しいね。普段は殆ど無言で何曲か引いて消えちまうのに」


 トーニャが首を傾げている。


「今日はとある人物からのたっての願いで……ある特別な趣向をご覧頂こうかと思います。どうか皆さん、温かい目でご覧下さい」


 そう言うと吟遊詩人は俺と目を合わせた。

 偶然目が合ったとかではなく、彼は確実に俺の目を見ていた。

 じっくりと、温かい目で。


「どうぞ」


 吟遊詩人が促すと、どこからともかく現れたある人物がステージに上った。


 彼女達を見た俺が唐揚げを吹き出しそうになった事は言うまでもない。



 そこにいたのは、胸を張って堂々とステージに上ったミランダと、恥ずかしそうにフードを目深に被ったトモエと、その背後にさらに恥ずかしそうに隠れているソフィだった。

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