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トーニャと昼食②

 酒場に着くと、確かに人気店のようでテーブルは殆どが埋まっていた。

 トーニャと共に店に入ると、すぐに猫耳を生やした店員の一人が気付いてにこやかにこちらに近づいて来た。


「待っていたゾヨ、トーニャよ。予約の席は空けておいたゾ」

 予約? 実に用意周到だな。実はこの店に来る事はこの外出イベントにおいて必須イベントだったらしい。

 トーニャとしては、さも今思いついたかのような雰囲気で(バレバレだったが)さりげなくお店に来たかったのかもしれないが。


「しーっ! そ、それはコイツには秘密なんだってば!!」

 やはりというかなんと言うか、トーニャは慌てて店員の口を塞ごうとする。

 しかし猫耳店員氏は軽やかに回避。


「ほぉう……これはシッケイした」

 猫耳店員氏は口元にサディスティックな笑みを浮かべつつ軽やかに離れて行った。


「ぐぎ……い、行くぞ!」

 トーニャは恥ずかしさを噛み殺しながら俺を「ステージ」のすぐ前の席に連れて行き、どっかと腰を下ろした。


 ステージだ。小さく低いものだが、ステージがそこにはあった。

 音楽であったりダンスであったり大道芸であったり、食事している人を何かしら楽しませる為のショーを提供するためのものだろう。

 あるいは酔った客がここで呂律の回らない歌を披露したりすることもあるのかもしれない。

 俺もエンターテインメント業界で生きる人間の端くれだ。ステージというものには当然並々ならぬ思い入れがある。


 ラインの乙女がほんの駆け出しだった頃には、住宅展示場の片隅、これよりも小さなステージの上でまばらな家族連れを相手に営業をしたこともあった。

 それがどんな大きさであろうとも、ステージの上はアイドル達の一番の仕事場だ。

 そして俺は彼女達が頑張る姿を袖から見守る。昔も今も……そのはずだった。


「おい、コーイチ!! 何ボケっとしてんだ!?」

「はっ……す、すみません、なんですか?」

 いかん、いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。

「注文はムンダリ鶏の唐揚げ定食でいいのかって聞いてんだ!」

 猫耳店員氏も考えの読み取れない表情でいつの間にかテーブルの脇に立っていた。

「あ、ああ……それでいいです。お願いします」

「ふむ。同じものを二つ。ま、個人的には一突きエイの煮物の方が好みだがノ」

「そりゃお前さんが魚好きだからってだけだろ」

 猫耳店員氏はにやりと笑って店の奥に引っ込んだ。


 今度耳を触らせてもらおう。


 注文が終わると、トーニャのもじもじした態度は一層加速した。

 目線をせわしなくあちこちに飛ばしたり、エサをねだる鯉のように無言で口をパクパクさせたり……大丈夫かこの人?

「あのう、僕に何かお話があるのでしたらお聞きしますが……」

「はぅあっ!? な、なぜバレたんだい!?」

 バレてないとでも思っていたのか……。


 俺の言葉を受け、トーニャはようやく意を決して口を開いた。

「その、この間は悪かった!!」

「この間?」

「初対面の時だよ! アンタの事よく知りもしないで馬鹿にしちまって、ホント悪かったよ……」

 初対面の時の威勢の良さは一切消え失せ、俺の正面には他人に謝るのが苦手な跳ねっ返り少女が座っているだけだった。


 眉をハの字に、口をへの字にしているトーニャは、中学生くらいの少女にしか見えない。

「ああ、あの時の……気にしていませんよ。文化も価値観も何もかもが違う異世界での話です。僕の職業がにわかには理解しがたいのも無理はありません」


 正直自分の仕事を馬鹿にされて頭に来たけれど、お陰で自分の確かな気持ちに向き合えた。もしトーニャが俺に対して気まずい思いを持っているのなら和解しておきたい……と、俺も思っていたのだ。


「いや、アレはアタシが悪いんだ……。あん時ゃちっと興奮しちまってて……アンタがアタシの異邦人のイメージと全然違ったんで、ついあんな事を……」


「トーニャさんの中の異邦人のイメージ……って、どんなですか?」


 異邦人というモノがこの世界においてどう思われているのかは実際興味がある。快く思わない人物が多かったり、狙われたりするのなら対策を講じなければならない。

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